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方舟|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【夕木春央】

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方舟』は夕木春央さんのミステリー小説で、極限のクローズドサークルを舞台に、人間の本性が試される心理戦が描かれる、まさに「どんでん返し」の代名詞ともいえそうな作品です。その衝撃的な展開と緻密な構成で多くの読者を魅了しており、2022年の「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で第1位、「MRC大賞2022」でも第1位を獲得し、2023年の本屋大賞にもノミネートされています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

柊一は大学時代の友人たちや従兄と山奥の地下建築〈方舟〉を訪れる。そこで偶然出会った三人家族と共に一夜を過ごすことになるが、翌朝、突如発生した地震によって扉が岩で塞がれ、彼らは地下に閉じ込められてしまう。さらに、地盤の異変により地下水が流入し始め、約1週間で方舟全体が水没するという危機に直面する。

絶望的な状況の中、彼らは「誰か一人を犠牲にすれば脱出できる」という仕掛けを発見する。しかし、その矢先に殺人事件が発生。残された人々は、「生贄には犯人がなるべきだ」という共通認識のもと、タイムリミットが迫る中で犯人探しを始めることになる。果たして彼らは犯人を見つけ出し、無事に脱出できるのか?

登場人物

地下建築「方舟」に閉じ込められたのは、以下の10人です。この登場人物たちが、極限の状況下でそれぞれの思惑を抱えながら、生き残りをかけた心理戦を繰り広げます。

  • 越野柊一(こしの しゅういち)
    物語の語り部であり、主人公。システムエンジニア。従兄の翔太郎に頼りがちで、麻衣に好意を抱いている。読者は彼の視点を通して事件を追体験する
  • 篠田翔太郎(しのだ しょうたろう)
    柊一の従兄。頭脳明晰で、論理的な思考力を持つ探偵役。今回の集まりには、柊一に呼ばれて参加した。冷静沈着だが、物語の終盤で彼の人間性が試される
  • 西村裕哉(にしむら ゆうや)
    アパレル勤務。今回の地下建築への誘いを提案した張本人。物語の最初の犠牲者となる
  • 絲山隆平(いとやま りゅうへい)
    ジムインストラクター。麻衣の夫。体格が良く、やや粗暴な言動が目立つ。麻衣と柊一の関係に不満を抱いている
  • 絲山麻衣(いとやま まい)
    幼稚園の先生。隆平の妻。一見するとか弱く不安げな印象だが、物語の核心を握る人物。柊一に夫婦関係の相談をしている
  • 高津花(たかつ はな)
    事務職。丸顔で小柄。はっきりとした物言いをする性格
  • 野内さやか(のうち さやか)
    ヨガ教室の受付。丁寧な言葉遣いが特徴。物語の途中で2人目の犠牲者となる
  • 矢崎幸太郎(やざき こうたろう)
    50代の電気工事士。黒縁メガネをかけている。家族と共に山で道に迷い、裕哉たちと合流した。物語の途中で3人目の犠牲者となる
  • 矢崎弘子(やざき ひろこ)
    幸太郎の妻。小太りでショートカット。夫と息子と共に閉じ込められる
  • 矢崎隼人(やざき はやと)
    高校1年生。幸太郎と弘子の息子。閉じ込められた状況に不安 を感じている

小説の特徴

  • 極限のクローズドサークルミステリー
    外界との往来が完全に断たれた地下空間が舞台。かつて新興宗教が使用していたとされる不気味な施設で、拷問部屋などの描写もあり、閉塞感と不穏な雰囲気を醸し出します。携帯電話の電波が届かず、外部との連絡手段が断たれることで 、登場人物たちの無力さが強調されます
  • タイムリミットサスペンス
    地下水の浸水により、1週間という明確な時間制限が緊張感を高めます
  • フーダニットとホワイダニットの融合
    犯人探し(フーダニット)が物語の中心ですが、その裏に隠された犯人の真の動機(ホワイダニット)が最大の謎として機能します
  • 探偵役の存在
    主人公の従兄である翔太郎が論理的な推理を展開し、事件の真相に迫ります
  • エピローグでの大どんでん返し
    物語の終盤で明かされる真相が、読者の予想を大きく裏切る多重解決の要素を含んでいます
  • 読みやすい文体
    300ページ弱という長さや、平易な言葉遣い、テンポ良く進む物語など、ミステリー初心者でも読みやすいはずです
  • 息苦しい閉塞感
    地下空間と浸水という設定が、読者にも物理的な息苦しさ を感じさせます
  • イヤミス要素
    読後にモヤモヤとした、あるいは絶望的な気分になる「後味の悪さ」も特徴です

テーマ

  • 人間の本性
    極限状態に置かれた人間が、自己保身のためにどこまで非情になれるのか、その醜悪さが赤裸々に描かれます
  • トロッコ問題の変形
    「誰が犠牲になるべきか」「犯人なら見殺しにしていいのか」といった倫理的な問いが、物語の根底に流れています
  • 生への執着
    登場人物たちの「生きたい」という強い欲求が、時に残酷な行動へと駆り立てる様子が描かれます
  • 愛と裏切り
    人間関係の脆さや、信頼が崩れ去る様が描かれ、読後に深い余韻を残します
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感想

超話題のミステリーだったので、現在は長く広く読まれそうなミステリー小説になっています!最初は地下建築が何なのか気になり、拷問道具だの新興宗教だの、さらに怪しい矢崎一家も登場したと思ったら、クローズドサークルで殺人が起こります。トロッコ問題が発生して、誰が犠牲者として相応しいか?犯人だったら見殺しにしていいのか?そんなモヤモヤを抱えながら読み進めての衝撃のラストです。
ハラハラや恐ろしさや胸糞悪さもあって、そしてなによりオチの匠さに感動して色んな感情が湧いてきます。探偵役の翔太郎が論理的に犯人を追い詰めていく様は圧巻で、一度は「なるほど、これで終わりか」と納得しかけました。しかし、エピローグで明かされる真実には、まさに「えぇーっ?!」と声が出てしまいます。これまでの推理が全てひっくり返され、犯人の恐るべき計画性と、人間の極限状態におけるエゴイズムが露わになる様は、みものです。読後感は決して良いものではありませんが、心を揺さぶられるミステリーというのは間違いないと思います。

高評価なポイント

  • 衝撃のラストと完璧なオチ
    「えぇっ?!」と驚き、予想を裏切る結末(エピローグのどんでん返し)が秀逸!!
  • 息をのむ展開と没入感
    密室、浸水、殺人、タイムリミットといった要素が重なり息苦しさを感じるほどの緊迫感
  • 論理的な推理と伏線回収
    探偵役の推理が緻密で、動機から何から全てが一つにつながる流れが圧巻。読後に読み返すと、何気ない会話や描写が伏線になっていることに気づかされる
  • イヤミスとしての完成度
    後味の悪さや胸糞悪さを感じるものの、それが作品の魅力として受け入れやすい
  • 犯人のキャラクター性
    冷静沈着で狡猾、そして生への執着が異常な犯人のキャラクターが印象に残る

低評価なポイント

  • 設定の不自然さ・ご都合主義
    地下建築の構造や、登場人物たちが極限状況下で冷静すぎる、あるいは行動が不自然といった点にリアリティの欠如を感じる場合もあるかもしれません
  • 人物描写の薄さ
    登場人物の背景や心理描写が浅く、感情移入しにくいと感じるかも
  • 後味の悪さ
    イヤミス要素が強すぎるため、読後に不快感や絶望感だけが残り、スッキリしない
  • トリックの単純さ
    最後のどんでん返しは評価されるものの、トリック自体はシンプルすぎる。ラストの衝撃のために物語が作られているという印象を受けることもありそうです
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ネタバレ

物語の最大のどんでん返しは、エピローグで明かされます。
探偵役の翔太郎が導き出した犯人は絲山麻衣で、確かに真犯人は麻衣ですが、隠された犯行動機があります。そして、麻衣にとって自分が犯人だと見破られるのは、動機を隠蔽するために仕組んだトリックの一環でした。
麻衣は地震発生後、誰よりも早く監視モニターを確認し、出入口と非常口のモニターの配線を入れ替えていました。これにより、土砂で埋まっているのは非常口ではなく、実際には出入口であることが判明します。つまり、巻き上げ機を操作して岩を落としても、地上に出ることはできません。唯一の脱出方法は、地下にわずかに残されたダイビング機材を使って、水没した地下3階の非常口から脱出することでした。しかし、ダイビング機材は2人分しかありません。麻衣は、この情報を独占し、自分だけが生き残るために周到な計画を実行します。
それぞれの事件については下記の通りです。

  • 裕哉の殺害
    以前、方舟を訪れたことがあり、モニターの映像の入れ替えに気づく可能性があったため。また、犯人探しに時間をかけさせることで、ダイビング用ハーネスを自作する時間を稼ぐため。
  • さやかの殺害
    裕哉から方舟の写真を受け取っており、モニターの映像の入れ替えに気づく可能性があったため
  • 矢崎幸太郎の殺害
    水中に隠れるためにダイビング用タンクを使用し、貴重な空気を消費したため

麻衣は、自分が犯人だと特定されることを計画の一部としていました。なぜなら、皆が「犯人が犠牲になるべきだ」と考えることで、自ら進んで巻き上げ機を操作する役目を引き受けるように仕向けられるからです。そして、その裏で自分だけが脱出する準備を進めていました。

結末

麻衣は皆の懇願を受け入れ、巻き上げ機を操作するために地下2階へ向かいます。その直前、トランシーバーアプリで主人公の柊一に連絡を取り、全ての真実を告白します。
「今から地下で死ぬことになるのは、私じゃなくて、柊一くんたちなの」
さらに、もし柊一が自分と共に地下に残る選択をしていれば、2人分のハーネスを使って一緒に脱出するつもりだったことも明かします。

柊一は麻衣の言葉に絶望し、その場で崩れ落ちます。彼が麻衣への愛情よりも生存本能を優先し、「じゃあ、さよなら」と告げたことが、結果的に彼自身の死を決定づけたのです。
大岩が落ちる音と共に、地上への希望を抱いて出口へ向かった残りの5人(柊一、翔太郎、隆平、花、弘子、隼人 )は、土砂で塞がれた扉に阻まれます。そして、タイムリミットが来て発電機が停止し、暗闇に包まれる中、彼らは絶望の叫びを上げて水没していきます…。
麻衣だけが生き残り、他の全員が死を迎えるという、救いのない、しかし完璧に計算されたイヤミスでした。

次にオススメの推理小説

『方舟』の次は『十戒』がオススメです。他には『インシテミル』などもおすすめです。

  • 『インシテミル』米澤穂信
    閉鎖空間でのデスゲームを描いた作品。極限状態での人間の心理がリアルに描かれ、映画化もされています

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