岡島二人さんの『99%の誘拐』はスピード感あふれる展開と、緻密に練られたハイテク犯罪が大きな魅力です。1988年頃に執筆された作品ですが、その先見性と想像力は一読の価値ありだと思います!
あらすじ
末期ガンに侵された生駒洋一郎が病床で綴った手記…。手記には8年前、彼の息子・慎吾が誘拐された事件の詳細が記されていた。5歳だった慎吾は誘拐され、5000万円の身代金を要求されたが、無事解放された。しかし、その身代金は回収されず、事件は未解決のまま時効を迎える――。
12年後、新たな誘拐事件が発生。今度は、かつてイコマ電子工業を吸収合併したリカード社の社長の孫が誘拐され、10億円相当のダイヤモンドが要求される。驚くべきことに、この誘拐事件はコンピュータによって完全に制御されており、警察を完全に出し抜く、前代未聞のハイテク犯罪だった。そして、この事件の身代金運び役として指定されたのは、他でもない、20年前の誘拐事件の被害者・生駒慎吾自身だった。
物語は、過去の誘拐事件と、20年後の誘拐事件の二つの視点から描かれ、過去と現在が複雑に絡み合いながら、息もつかせぬ展開で進んでいく。
小説の特徴
- 誘拐ミステリー
誘拐事件を題材にしたミステリー作品 - 倒叙形式
犯人が早い段階で判明し(犯人視点で進み)、犯行の過程などが描かれる - 復讐劇
過去の事件の被害者が、復讐のために新たな犯罪を計画する - 昭和とハイテク犯罪
昭和な社会を感じつつも、当時の最新技術であるコンピュータを駆使した犯罪トリックが登場
感想
誘拐事件を扱ったミステリーでありながら、単なる犯人探しに終始しない、奥深い人間ドラマがあったと思います。過去の事件の影を引きずりながら、現代のハイテク技術を駆使して復讐を遂げようとする主人公の姿がいいですね。
まったくもって余談ですが…岡島二人さんは、エラリー・クイーンみたいなコンビ作家さんらしいです。初めてこの事実を知ったときは、岡島二人の二人って、ふたりって意味だったのか!と思ったりもしました。
ポジティブな感想
物語のスピード感、緻密な計画、犯人への共感(犯人を応援したくなる)、そして時代を超越した設定が高評価なポイントです!
- 斬新な設定とトリック
画期的なコンピュータを駆使した誘拐トリックに驚くし興奮する!30年以上前の作品とは思えないです - スピーディーな展開
物語のテンポが良く一気に読み進められる!物語の牽引力がすごいです - 犯人への感情移入
復讐のために犯罪に手を染める主人公に同情します。つい、犯人を応援したくなる作品ですね - ラストの余韻
ここはネタバレなしですので、詳しくは語れないですが物語の結末が好きです
ネガティブな感想
犯人の動機があいまいであること、後半の展開が少し冗長であること、トリックの現実性などがちょっと気になる部分ではあります。その他、登場人物の心情描写が不足している、結末があっさりしすぎているという点も挙げられます。ただ、作品全体の魅力を大きく損なうものではないです!
- 技術的な古さ
作品が書かれた時代が古い…というよりはIT関連の進歩が目まぐるしくので、コンピュータに関する描写に古さを感じますね - ご都合主義的な展開
物語の展開が都合良すぎる、現実味がないと感じるかも… - 動機の弱さ
犯人の動機が弱い、共感できないかもしれないですね(犯罪の動機なので、そもそも共感できるというのはおかしいですが)
ネタバレ注意
生駒慎吾は父親の遺した手記を読み、20年前の誘拐事件の真相を知ります。そして、父親を陥れたリカード社の社長への復讐として、今度は自分がコンピュータを駆使して、リカード社社長の孫を誘拐する計画を実行。高度なコンピュータ技術と巧妙な計画によって、警察を完全に出し抜き、10億円相当のダイヤモンドを手に入れます。トリックといえるのかどうか微妙なところですが、簡単にまとめると以下のようになります。
- コンピュータ制御
音声合成ソフトを使って指示を出すことで、姿を隠す - 遠隔操作
別荘のセキュリティシステムを遠隔操作し、一度も顔を合わせずに兼介(リカード社社長の孫)を誘拐 - 身代金受け渡し
複雑な指示を出し、警察を翻弄しながら、身代金を奪取。身代金の受け渡し役として、自ら飛び入り参加し、犯人と受け渡し役の一人二役をこなす - ダイヤのすり替え
身代金受け渡しの際、本物のダイヤを偽物とすり替える - アリバイ工作
カナダに滞在しているように見せかけ、アリバイを捏造 - 超音波
スキー場での指示に超音波を利用
結末
真犯人といえる存在は、過去の誘拐事件で主人公の父親を裏切った間宮です(明言はされていないですが、間宮と鷲尾が20年前の誘拐事件の犯人だと考えられます)。彼は会社の再建を諦めさせるために誘拐を計画し、主人公の父親を陥れていました。主人公は、その事実を知り、復讐のために間宮の孫を誘拐。しかし、最終的には間宮に計画を見破られます。慎吾の復讐は成功したと言えるのか、それとも、別の意味での失敗だったのか、読者それぞれが解釈する余地を残しています。
タイトルの意味は、作中では明確に説明されていません。犯行が間宮に犯行を見破られたことや、慎吾の復讐が完全ではなかったことなど様々な解釈ができそうです。
まとめ
ちょっと古い作品かもしれませんが、読んで楽しいエンターテイメント性の高いサスペンス小説だと個人的には思います!
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同じく岡嶋二人さんの作品『クラインの壺』もおすすめです。バーチャルリアリティを題材にした 斬新なミステリーで、こちらも時代を先取りしたアイデアが満載です。
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