Youtube ミステリーチャンネル【りさま屋】
国内小説

風は青海を渡るのか?【あらすじ・ネタバレ解説・感想・考察】

この記事は約7分で読めます。
記事内に広告が表示されます

 森博嗣著「風は青海を渡るのか?」は2016年6月に刊行された作品で、Wシリーズの三作目です。この記事では、あらすじやみんなの感想などをまとめ、作品について考察します。

項目 説明
タイトル 風は青海を渡るのか?
著者 森博嗣
出版社 講談社
シリーズ Wシリーズ
順番 3
発行日 2016年6月20日
スポンサーリンク

あらすじ

チベット・ナクチュ特区にある神殿の地下、長い眠りについていた試料の収められた遺跡は、まさに人類の聖地だった。ハギリはヴォッシュらと、調査のためその峻厳な地を再訪する。ウォーカロン・メーカHIXの研究員に招かれた帰り、トラブルに足止めされたハギリは、聖地以外の遺跡の存在を知らされる。
講談社BOOK倶楽部

 2作目「魔法の色を知っているか?」の続きで、時間もそれほど経過していません。約1ヶ月後に、ハギリ達は再びナクチュへと向かいます。ナクチュで、ハギリらは子供達の計測を進め、別のチームがナクチュの神殿や冷凍された人間の調査を進めます。これらのナクチュでの調査は滞りなく進みます。

 ハギリはウォーカロン・メーカーの研究者と会い、その研究者の家へと向かいますが、そこで乗っていた輸送車が破壊されるという騒動に巻き込まれます。その後、ハギリは遺跡にある頭像の存在を知り、さらに日本人が暮らしているフフシルという村へ足を運びます。

スポンサーリンク

タイムライン

 作中の出来事をタイムラインで簡単にまとめます。

ネタバレ注意
ハイライト
  • prologue
    プロローグ
    ハギリらが再びナクチュヘ
    ヴォッシュ博士の助手パティ(ペィシェンス・ゾエ)登場
  • 第1章
    月下の人々
    チベット中央政府のガワン登場
    カンマパ「目にすれば失い、口にすれば果てる」
    ウォーカロン・メーカーのヴァウェンサ登場
  • 第2章
    月下の営み
    子供達の測定開始
    遺跡発掘隊リーダーのシマモト到着
    ハギリがアンテナの存在を知る
    ハギリとウグイがヴァウェンサの社宅へ
    離れて護衛していたアネバネが攻撃される
    ウォーカロン・メーカーの所長ドレクスラ登場
    ドレクスラがハギリにナクチュとは別の遺跡の存在を明かす
    翌朝ハギリらは遺跡へ向かう
    遺跡に曼荼羅と巨大な人間の頭
  • 第3章
    月下の理智
    ナクチュへ
    アネバネを襲ったのはフフシルという村の男ではないか
    カンマパ・デボラ・スホからハギリへメール
    「あの方というのは、誰ですか?」(※後述)
    フフシルへ
    記者のカジマ登場
    ハギリ達が襲撃されジェット機が破損する
    洞穴へ避難
    ボートが現れる
  • 第4章
    月下の眠り
    ボートにハギリ、ヴォッシュ、ウグイが乗船
    ボートを操縦していたのはウォーカロン・メーカーを脱走したタナカ
    タナカの所有する潜水艦へ
    タナカがウォーカロンの暴走について語る
    タナカは子供を産むことができるウォーカロンを開発していた
    タナカの自宅に到着
    ハギリがウォーカロンは人間に近づこうとしているという仮説をもつ
    翌朝タナカのヨットでダム付近の合流地点へ
    アネバネとツェリンの乗るジェット機で遺跡へ
    頭に電源が入る
  • epilogue
    エピローグ
    ハギリらは日本のニュークリアに戻る
    タナカが妻と子供を連れニュークリアへ
    タナカの子供は4歳で名前は「シキ」
スポンサーリンク

ネタバレ

 前作では、クーデターの主謀者がウォーカロン・メーカーであると考えられていました。しかし、ウォーカロン・メーカーの連合組織であるホワイト(WHITE)を通じてHIXというウォーカロン・メーカーからヴァウェンサという見学者が派遣されます。そしてハギリはHIXの研究所所長ドレクスラと会うことになります。ヴァウェンサはもちろん、ドレクスラも友好的な人物で、彼はハギリに曼荼羅や頭のスーパー・コンピューターがある遺跡の存在を報せています。ただ、表向きの対応という可能性もあるようです。

 ある事情でウォーカロン・メーカーのイシカワを脱走したタナカは、クーデターの原因がウォーカロンの暴走にあると話しています。そういった事例が実際にあったようですが、メーカーが隠蔽していたようです。タナカが脱走したのは10年ほど前で、その原因は子供を産むことができるウォーカロンの開発が原因でした。当時、開発リーダーだったタナカはウォーカロンを使った実験に疑問を感じ、ストレスで体調を崩し始めました。そんな折に社内でもめ事が生じ、解決できないと感じたタナカは実験が失敗であるというデータを捏造しそれを報告しました。これによって開発プロジェクトは中止になりましたが、実験に使われたウォーカロンを処分するという方針が決まってしまいます。タナカはウォーカロンを連れ逃げ出しました。そして、フフシルという村で暮らすことになります。

襲撃犯

 地元の警察はヴァウェンサの社宅付近でアネバネを襲ったのがタナカであると報告していたようですが、タナカは犯人ではなさそうです。この犯人もしくは原因などは、具体的には不明のままです。フフシルの村を襲ったのは警察らしいですが、この事情も明らかにはなっていません。

フランスの逃亡グループ

 タナカはフランスでもウォーカロンが失踪した事件があったと話しています。それは5、6年の出来事で、フランス万博に出展していたウォーカロンが50体ほど消えたようです。リーダ格は人間で、数名の人間もいるようです。タナカはそのグループがどうなったのかまでは知らないようです。

 1作目で、イシカワから逃げた集団が登場していますが、それはタナカのことのようです。ただし、フフシルの村から別の集団が分裂したということはなさそうで、代わりにフランスの逃亡グループが登場しているようです。

みんなの感想

 口コミを調べてみると鳥肌や謎という言葉がよく書き込まれていました。

鳥肌

 最後の一行です。この一行で鳥肌が立ったという方が多いです。

最後の一行、特に最後の2文字で全身に鳥肌が立った。

ラストはある程度予想していたが、やはり鳥肌が立った。

 前作や前々作の謎は解明されますが、新たな謎が増えていきます。

話はどんどん深くなり謎は解かれるもののより大きな新たな謎に変わるだけという感じ。

少しずつ謎が解けては、また増える展開にハラハラする。シリーズを通してゆっくりと物語は進む。どんな結末が待っているのだろう。

個人の感想

 どうでもいいことですが、最初、風は青海を…ではなく、風は青梅を…だと思っていました。東京都青梅市ですね。青梅登場で、急に親近感が湧き始めるのかと思いきや、チンハイという地名でした。青海も青梅も地域の名称だったので、ニアミスしているところが、若干、感動的です。(英語のタイトルを読めばOumeではないことは明らかなわけですが、Qinghaiもまた読めなかったりします)

 3作目にして、過去シリーズを読んでいたら味わえる感動や驚きがあったと思います。1作目や2作目にもその兆候はありましたが、3作目の方が決定的です。だんだん読むペースが早くなってくるというか、沼にはまってくるというか、そんな感じのシリーズだと思います。

考察

 ヴォッシュがP29で“もし、マガタ博士が生きているとしたら、年齢は二百五十歳くらいになるね”と話しています。第1作の記述から時代は、22世紀後半、2150年から2199年の間と推測していましたが、マガタ博士の年齢が250歳くらいとなると、この場合、真賀田四季博士の生まれた年は1900年から1949年の間となります。真賀田四季が生まれたのは1965年ということなので、誕生年が矛盾します。

 おそらくこの矛盾は、ヴォッシュが語ったマガタ博士の年齢が正確ではないため生じていると考えられます。“二百五十歳くらい”とあり、“くらい”なので、プラスマイナス25歳はずれていると考えることができそうです。

 22世紀後半、かつ、マガタ博士が250歳±25くらいであるとすると、物語の時代設定は2190年代ではないかと推測されます。限りなく23世紀に近いので、23世紀初頭という認識でも間違いではないように思います。

つながり

 ナクチュは「女王の百年密室」に登場したルナティック・シティのようです。カンマパはスホ家の子孫らしいことが、名前からわかります。カンマパがあの方と言っていたのは、百年密室を読めばわかりますが、これはネタバレになってしまいます。先祖はデボウ・スホらのことで、この先祖たちはどこかへ移動したようですが、生きているかどうかは不明です。Wシリーズのこれまでの作品が、だいたい2200年に起きた出来事だとすると、百年密室は2113年なので、87年前となります。デボウ・スホの後継者であるクロウ・スホが生きていたら、90歳や100歳に近い年齢となります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました