2012年4月から9月まで放送されたアニメ「氷菓(ひょうか)」は、殺人や盗難などの犯罪ではなく日常の謎をメインに描いた推理アニメです。謎解き要素はもちろんですが、学園要素もふんだんに入っているため、青春ミステリと呼ばれています。原作は推理作家である米澤穂信氏の<古典部シリーズ>で、アニメと原作小説はほぼ同じ内容になっています。
あらすじ
神山(かみやま)高校に入学したばかりの折木奉太郎(おれき・ほうたろう)は、姉の折木供恵(おれき・ともえ)の勧めで、かつて姉が所属していた“古典部”に不本意ながらも入部することになる。古典部の部員数はゼロ、のはずだったが、奉太郎が古典部の部室に向かうと、そこには一身上の都合で入部した千反田える(ちたんだ・える)の姿があった…。
登場人物
折木奉太郎(おれき・ほうたろう)cv.中村悠一さん
主人公。1年B組。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」がモットーの高校1年生で、そのモットーの通り、全く活発的ではない男の子。運動も勉学も平均的で、特に何かにずば抜けているわけではなないが、名推理を披露する。何事にも興味や関心がないようにみえるが千反田えるには、それなりに興味がある様子。
千反田える(ちたんだ・える)cv.佐藤聡美さん
ヒロイン。1年A組。古典部の部長となる。同じ古典部の伊原からは“ちーちゃん”と呼ばれ、チャットのハンドルネームはL。千反田家の一人娘でおそろしくでかい屋敷に住んでいる。“好奇心の亡者”で抜けたところもあるが、名家の出身、成績優秀、料理も上手で容姿も抜群!という男性の妄想を具現化したような女の子となっている。口癖は「気になりますっ!」
福部里志(ふくべ・さとし)cv.阪口大助さん
1年D組。奉太郎の友人で、中学も同じだった。手芸部の部員でもある。自称データベース。シャーロック・ホームズの有名な仕草“尖塔のポーズ”をみせるなどしているがデータベースなので、結論は出さないという。
伊原摩耶花(いばら・まやか)cv.茅野愛衣さん
1年?組(少なくともA~Dではないと推測される)。奉太郎や福部と同じ中学だった女の子。図書委員であり、漫研の部員でもある。福部に好意を抱いており、その想いを伝えたが、福部から返事は貰えていない、らしい。
氷菓
古典部は毎年10月に行われる文化祭、通称“カンヤ祭”に向けて“氷菓”という古典部伝統の文集を作成しようとする。そんな中、奉太郎は千反田から“一身上の都合”を打ち明けられる。その都合というのは、千反田の伯父である関谷純(せきたに・じゅん)に関連していた。千反田いわく、関谷は奉太郎達が通う神山高校を中退しており、在学中は古典部に所属していたらしい。そんな関谷は、幼い千反田の質問に何でも答えてくれたという。だが、千反田があることを尋ねたとき、関谷は答えを渋った。そして、その答えをようやく聞き出した時、千反田は大声で泣いたという。泣いたことは憶えている千反田だったが、なぜ泣いたのか、関谷の答えは何だったのか、そもそもどういう質問だったのかは、全く思い出せないらしかった。いずれにしても、関谷本人に直接尋ねれば済む話であるが、関谷はインドで消息不明となり、近々死んだものとして扱われ、葬儀が執り行われる予定になっているのだった。
千反田の訴えに何故か心を動かされた奉太郎は協力することを伝える。その後、“氷菓”のバックナンバーを見た千反田が“氷菓”を持って関谷に何かを質問したことを思い出し、さらに、45年前に起きた「カンヤ祭」に関谷純が関わっているという確信を得る。そして千反田が福部や伊原にも真相解明の手伝いを頼み、古典部のメンバー全員が千反田のお屋敷で検討会を進めることになる。そして、メンバー達が集めた情報や仮説を聞いた奉太郎が45年前の出来事を推理する。その推理は「45年前、関谷純はカンヤ祭を守るため、先頭に立って教師との抗争を繰り広げたが、その罰として、高校中退の処分を受けた英雄である」と結論づけるのだった。メンバー達は奉太郎の推理に納得した様子だったが、千反田は自分が泣いた理由が説明されていないと感じていた。その日の夜、奉太郎に姉から電話がかかってくる。そこで姉の話に違和感を覚えた奉太郎は推理の誤りに気付く。
真相解説
図書室で姿をみせた司書の糸魚川養子(いといがわ・ようこ)が、実は関谷純の1個下の後輩で、45年前の出来事を詳しくしっている人物でした。奉太郎の推理はほとんど事実でしたが、関谷純は自ら望んで先頭に立ったわけではなく、むしろ押し付けられてリーダーになっていました。リーダーというのも名ばかりで、ただ代表者として名前を書いているだけの存在でした。そんな関谷は学生達が起こした火災事故の責任を負わされる破目になり、見せしめとして退学処分になってしまいます。しかし、関谷が学校を去ることになった時、他の生徒は誰一人として立ち上がらず、見て見ぬふりをしました。このときのことを関谷は“氷菓”というタイトルに込めました。氷菓は英語でアイスクリーム、つまりそれはI screamであり、関谷が込めた意味は「もしも自分が弱かったら、悲鳴も上げられないような日が来る」ということでした。このことを聞いた幼い日の千反田は生きたまま死ぬのが恐くて泣いていました。
愚者のエンドロール
夏休みの終盤に入り、氷菓の制作を進めていた古典部は視聴覚室でとある作品を視聴することになる。その作品は2年F組が文化祭で上映する自主制作の映画で、内容はミステリーだったが、事件が起きたところで終わっていた。F組の入須冬実(いりす・ふゆみ)いわく、脚本を担当していた本郷真由(ほんごう・まゆ)が体調を崩し、誰にもクライマックスがわからない状態で撮影が中止になっているという。そんな状態の映画をみせられた古典部のメンバーは入須に結末を推理するよう依頼されてしまう。省エネ主義の奉太郎はささっと拒否するが、結局、撮影に参加していたF組の推理を聞き、それが妥当かどうか判断することになるのだった。
F組のメンツは3名で“探偵役”と呼ばれる。それぞれの推理を聞く古典部のメンバーだったが、いずれも満足のいくような結末ではなかった。その後、すべての推理を却下した奉太郎が入須に引き止められ、結末を考えるように頼まれる。特別な能力がある褒め称えられた奉太郎は依頼を引き受け、そして、一つの結論に辿り着く。奉太郎がその結論を入須に伝えると、入須も納得し、称賛するのだった。そうして制作が進められた映画には「万人の死角」というタイトルがつけられる、のだが……、映画をみた千反田、里志、摩耶花の反応は微妙だった。
真相解説
奉太郎が考え出した「万人の死角」の結末は、カメラマンが犯人だったという内容です。登場人物にとっては何も不思議なことではありませんが、視聴者にとってカメラマンは“登場人物”として認識されていないため、あっと驚く意外な犯人ということになります。なお、推理小説などの作品において、このような仕掛けは叙述トリックと呼ばれるようです。
しかしながら、映画の結末は脚本を担当していた本郷の思い描いていた結末ではないようでした。そのことを示唆するのが、小道具として用意されていたロープが使われていないこと、ミステリー初心者の本郷が読んだシャーロック・ホームズシリーズには叙述トリックが登場しないこと、そして本郷らしくない内容だったという三つの点でした。以上の指摘を受けて奉太郎は自分の出した結論が間違っていることに気付き、そして、入須が奉太郎に脚本の続きを考えさせようとしていたと考えます。実は本郷は人死にの作品が好きではなく、本郷自身が考えていたのは死者が出ない脚本でした。この脚本に納得できなかった入須は本郷が体調を崩したということにし、奉太郎をおだてて、よりおもしろい脚本を作らせていました。本郷が考えていたのは、犯人が二階からロープで降りて、廊下を歩いている被害者を襲うというもので、被害者はナイフで切り付けられますが、負傷するだけです。襲われた犯人が自ら部屋に入ることで密室のような状況になります。そして、七人目の登場人物はカメラマンではなく、ナレーターということのようでした。
クドリャフカの順番
10月を迎え、神山高校では文化祭“カンヤ祭”がスタートする。古典部は“氷菓”を完成させたのだが、伊原の手違いで200部も刷ってしまう。伊原を責める者は誰もいなかったが、山積みになった氷菓を目の前にした古典部のメンバーには重たい空気が漂っていた。目指すは200部完売、なのだが、古典部が注目を浴びているわけでもなく、さらに、販売場所の立地も悪かった。そんなわけでメンバー達は、古典部の宣伝や売り場の拡張などに奔走することになる(奉太郎を除く)。
“カンヤ祭”が活気づく中、学内でささやかな盗難事件が発生する。盗まれたものは、占い研究会の“運命の輪”というタロットカード、囲碁部の碁石、アカペラ部のアップルジュースなどなどで、いずれも、現場には置手紙がされていた。手紙は“十文字”なる人物の署名があり、誰もが“じゅうもんじ”という名前の人物が犯人であると推理する。が、奉太郎は読み方が“じゅうもじ”であることを指摘する。さらに奉太郎は、アカペラ部のアップルジュース、囲碁部の石、うらない研の運命の輪、というように、頭文字があ、い、うの順に並んでいることを見出す。この法則に従えば、“え”のつく部活から“え”のつく何かが盗まれ、次は“お”というように事件が続くことになる。そしてそれは、十文字である“こ”で終わるはず。“こ”ならば古典部で、それが事実なら、非常にビッグなコマーシャルになるのだが、続く十文字の盗難は、なぜか“く”が抜かされてしまう。
真相解説
“十文字”の正体は総務委員会会長の田名辺治郎(たなべ・じろう)です。なお、田名辺は千反田が売り場拡張の相談をした人物です。彼の動機には、生徒会長の陸山宗芳(くがやま・むねよし)や“夕べには骸に”という漫画が関わっています。陸山は“夕べには骸に”の絵を描いた人物・作画担当でした。ストーリーは安城春菜(あんじょう・はるな)という既に転校した人物が考えたもので、この安城は“クドリャフカの順番”という次の作品も考えていました。しかし陸山はクドリャフカの絵を描こうとはしませんでした。背景担当だった田名辺は素晴らしい才能がありながら作画をしない陸山に、クドリャフカはもう読んだのかどうかを聞くため、十文字の盗難事件を起こしました。
一連の盗難で“く”が抜かされていたのは、それが、“くがやま”の“クドリャフカの順番”だったからです。ここにメッセージ性があり、これに気付くのは、今回のカンヤ祭において陸山だけ、のはずでした。しかし、“け”の犯行が行われた段階で、奉太郎が犯人に気付きます。そして奉太郎は田名辺に“こ”を古典部にするようお願いし(九分九厘脅迫であったが)、古典部でひと騒動起こさせます。このパフォーマンスが功を奏し、氷菓は完売します。
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