『封印再度』はS&Mシリーズの5作目です。「無我の匣(むがのはこ)」と「天地の瓢(てんちのこひょう)」を巡って、仏画師が謎の死を遂げます。
項目 | 説明 |
---|---|
タイトル | 封印再度 |
著者 | 森博嗣 |
出版社 | 講談社 |
シリーズ | S&M |
順番 | 5 |
発行日 | 1997/4/3 |
Audible版 | あり |
あらすじ
岐阜県恵那市の旧家、香山家には代々伝わる家宝があった。その名は、「天地の瓢」と「無我の厘」。
「無我の厘」には鍵がかけられており、「天地の瓢」には鍵が入っている。ただし、鍵は「瓢」の口よりも大きく、取り出すことが出来ないのだ。五十年前の香山家の当主は、鍵を「瓢」の中に入れ、息子に残して、自殺したという。果たして、「厘」を開けることが出来るのか?
興味をもって香山家を訪れた西之園萌絵だが、そこにはさらに不思議な事件が待ち受けていた!
講談社BOOK倶楽部
事件概要
仏画師が謎の死を遂げますが凶器がみつかりません。家宝の「天地の瓢」と「無我の厘」が現場に置いてあったので、どちらかに凶器が入っていそうですが、X線で調べたところそれらしきものはみつかりませんでした。仏画師が死んでいたアトリエ(蔵)は密室状態だったので、誰かが持ち去ったというのもなさそうです…。
亡くなったのは香山林水(かやま・りんすい)という仏画師で、50年前には父親の香山風采(かやま・ふうさい)も似たような状況で死んでいました。ただし、風采の遺体は蔵で発見されましたが、林水の遺体は、どういうわけか近くの川で発見されました。容疑者は娘の香山マリモですが、マリモは林水の遺体からやや離れたところで気を失っていました…。
ネタバレ
風采も林水も自殺です。凶器は「天地の瓢」と「無我の厘」を使ってこしらえます。林水の遺体が蔵になかったのは、マリモが瀕死の父親(林水)を発見し、車に乗せて病院へ連れて行こうとしたためです。林水は死ぬ決意を固めていたため、マリモを振り払って、死亡しました。マリモが気絶していたのは林水に襲われたからです。
トリック解説
凶器にはお湯程度の非常に低い温度で解ける金属が利用されています。ドロドロに解けた金属を型に流し込めば、鋭利な刃物を作り出せるというトリックです。金属は天地の瓢に入っており、無我の厘が型の役割を果たします。
瓢と厘を使ったとしても、作り出した刃物を元通りに戻さない限り、凶器は消えません。ほぼ刃物とお湯を瓢に入れるだけの作業ですが、当人は瀕死なので困難が伴います。そのため林水の妻が後処理したと考えられます。
密室は蔵と外の気圧の違いによって生じていました。誰かが意図したものではなく、自然現象です。窓やドアを閉め切った部屋で換気扇を回すとドアなんかを開けにくくなる、みたいなことです。
感想
『封印再度』は、森博嗣によるS&Mシリーズの第五弾です。理系トリックと魅力的なキャラクター描写が特徴かと思います。「壺」と「箱」を使った仕掛けは理系っぽいです。金属はそう簡単にドロドロにならないという思い込みを利用しているともいえそうです。突飛すぎるかもしれませんが、理系雑学みたいな本に載っていそうな内容です。
この作品で主人公の犀川先生と西之園萌絵の関係が深まっていった気がします(喧嘩するほど仲がいいということですな)。犀川先生も萌絵も天才キャラですが、年齢のせいか犀川先生は冷静で、萌絵は積極的に行動するタイプです。萌絵の大胆な行動なんかは温かく見守りましょう。金持ちで美人ならなんでも許されるのか!?などと言ってはいけません。
正直なところ『封印再度』は――ドラマ化もされていましたが――シリーズものの通過点という感じです。理系ミステリということで理系の読者が多く、トリックがなんとなくわかった人も多いはず。自殺の動機は芸術的な感じで(ここでいう芸術的というのは「意味不明なこと」という意味)、自分は同じ動機で絶対に自殺しないだろうなと思えました。制作者の影がちらつかない作品にこそ美しさがあるということだったのか?
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