『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』は白井智之(しらい・ともゆき)先生の推理小説で、『名探偵のはらわた』に続く、名探偵シリーズの二作目です。
項目 | 説明 |
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タイトル | 名探偵のいけにえ |
評価 | |
著者 | 白井智之 |
出版社 | 新潮社 |
シリーズ | 2作目 |
発行日 | 2022年9月 |
Audible版 | 未発売 |
あらすじ
『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―』は、斯様に独自の路線をひた走る本格ミステリ界の鬼才が、自身のキャリアハイを更新した堂々たる傑作長編である。
物語は、極めてショッキングな場面から幕が上がる。1978年11月18日、中南米のガイアナ共和国にある、密林を切り拓いた小集落ジョーデンタウン。そこはジム・ジョーデンを教父とする教団「人民教会」の信者たちが、世俗に背を向け、奇蹟を信じて暮らす楽園だった。しかしジョーデンの号令のもと、二百六十七人の子供たちを皮切りに、計九百人以上の人間が服毒自殺に走り、ジョーデン自身も拳銃で自らの命を絶ってしまう。いったい彼らは、なぜこのような終局を迎えることになってしまったのか。ジョーデンが嵌められたと憤りを覚える“あの男”とは、何者なのか。
この集団自殺(あるいは大量殺人)事件は、ジム・ジョーンズを教祖とする実在した教団「人民寺院」がたどった惨劇をほぼそのまま下敷きにしている。古くは横溝正史が『八つ墓村』で“津山三十人殺し”とも呼ばれる津山事件を、『悪魔が来りて笛を吹く』で銀行員ら十二名を毒殺して現金と小切手を奪った帝銀事件を、また近年では中山七里作品などで実際に起こった重大事件にアレンジを加え、作中に取り込んでいるが、本作もその流れに連なるひとつといえる。
ここで物語はいったん時間を遡り、日本を舞台に改めて進み始める。探偵の大塒は、十年間足取りのつかめなかった殺人犯“108号”が絡んだ事件に取り組み、優秀な助手である有森りり子の絶大なサポートによって解決にこぎつける。するとりり子は、明日からニューヨークへ行き、一週間ほどで帰国すると告げて日本をあとに。ところがその後、消息不明になってしまう。大塒が調べを進めてみると、どうやらりり子は「ジョーデンタウン」なる場所に向かい、なんらかの望まない理由で日本に帰ることができないらしい。大塒は小学生時代からの腐れ縁であるルポライターの乃木野蒜に声を掛け、ともにアメリカへ飛び、ジョーデンタウンを目指す。するとそこで謎多き連続殺人事件に遭遇する……。
教父を崇め、失った腕や足さえも甦るという信じ難い奇蹟をも頭から信じて疑わない信者たちを相手に、探偵はいかに説得力のある推理を繰り広げ、犯人を突き止めるのか。いわば本作は“特殊設定ミステリ”ならぬ、(担当編集氏の言葉を拝借すれば)特殊条件ミステリと呼ぶべき内容になっている。
そしてなんといっても本作の白眉は、後半百五十ページに及ぶめくるめく解決編だ。著者は多重解決を得意とし、これまでにも駆使してきたが、その周到さと密度もさることながら、本作における多重解決を行なうための理由付けと目的には思わず目を見張ってしまった。これまで、アンモラルな世界観、毒気の強いユーモアセンス、グロテスクな描写、異形の動機など、熱烈に惹き付けられる読者を獲得してきたいっぽうで、つい腰が引けてしまう向きも多かった印象の白井作品だが、そうした要素があからさまではなく物語内に自然に溶け込んでおり、より本格ミステリファンからの正当な評価を集めることは間違いない。終盤で明かされるタイトルの真意もじつに衝撃的で、そういうことか! と大きく天を仰いでしまった。
本作は、特殊性際立つ作風を貫いてきた書き手が、特殊設定ミステリが活況を呈するシーンに全力で投じた、ど真ん中の勝負球である。ゆめゆめ読み逃してはならない。
新潮社HP
『名探偵のいけにえ』は、前作『名探偵のはらわた』に続くシリーズ作品(正式名称不明)の第2弾として刊行された推理小説です。物語は新興宗教の集落を舞台に展開され、不可解な事件を解決するために探偵役が奮闘するという設定です。カルト宗教の村で信者たちが病気やケガを認識せず、ある種の「幸福」を享受しています。この特殊な設定(特殊条件らしいですが)が、物語全体に独特の雰囲気をもたらしています。
ジョーデンタウンでは病気や怪我がないらしく死にません。不老不死とかいうSFな設定ではなく、現実的な世界を舞台にして、死を認めない集団がいるという感じです。死なないので、死体も殺人もないわけなんですが、密室殺人が起きます。
前作
シリーズ1作目は『名探偵のはらわた』です。読む順番は下記のページでまとめています!
感想
りり子が主人公のように活躍すると思っていたら、お亡くなりになられます!大塒(おおとや)にバトンタッチしたかと思いきや…。大塒が犯人だったみたいです。ものすごくザックリネタバレするとこんな感じでしょうか。
ストーリーの進行は非常に緻密です。序盤から中盤にかけて丁寧に伏線が張り巡らされています(もちろん伏線は回収されます。回収されたからこそ伏線なんでしょうけど)。何度も繰り返されるどんでん返し及び多重解決は驚きの連続で、二転三転する推理に飽きません。また、キャラクターの個性も魅力的です。
多重解決すばらしい!と褒め称えておいてなんですが、一部の読者が指摘しているように、中だるみや冗長さを感じる部分もあります。丁寧に説明していると好意的にとらえることもできますが、テンポの良さを求めたくもなります。
前作とのリンクがほとんどないというのは、ちょっとマイナス点かもしれません。タイトルが似ているので勝手にシリーズものと考えてしまい、期待が大きくなっているという問題もありあそうです。
良いところも悪いところもあるというわけですが、総じて『名探偵のいけにえ』は非常に完成度の高い推理小説だと思います。緻密に構成されたストーリー、個性的なキャラクター、どんでん返しと多重解決なんかが見所です。
みんなの感想
見事な伏線回収
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