『今はもうない』はS&Mシリーズの8作目です。西之園がとある別荘で笹木という男性と共に密室殺人に巻き込まれます。
項目 | 説明 |
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タイトル | 今はもうない |
著者 | 森博嗣 |
出版社 | 講談社 |
シリーズ | S&M |
順番 | 8 |
発行日 | 1998/4/2 |
Audible版 | あり |
あらすじ
電話の通じなくなった嵐の別荘地で起きた密室殺人。2つの隣り合わせの密室で、別々に死んでいた双子のごとき美人姉妹。そこでは死者に捧げるがごとく映画が上映され続けていた。そして、2人の手帳の同じ日付には謎の「PP」という記号が。名画のごとき情景の中で展開される森ミステリィのアクロバット!
講談社BOOK倶楽部
事件概要
別荘で事件が起きて、西之園萌絵が犀川にその事件を語ります。主に登場するのは笹木という男性で、前作『夏のレプリカ』に続き、萌絵と犀川先生の出番は少ないです。
事件は密室殺人で、嵐がやってきてクローズドサークルと化します。死体となってみつかったのは朝海姉妹という美人姉妹で、別荘の持ち主である橋爪怜司がパトロンとのこと。ちなみに、姉は朝海由季子で、妹は耶素子という名前です。
死体が発見されたのは別荘にある娯楽室とその隣に映写室で、どちらも室内側からでないと施錠できません。どういうわけかその部屋が施錠されていたので、娯楽室のドアを破壊したところ、死体がみつかります。映写室も同様にドアを破壊し調べると、別の女性の死体が発見されます。
ネタバレ
由季子が自殺しようとし、そこに妹の耶素子が現れたため、もみ合いとなって由紀子が耶素子を殺してしまいます。この事件が起きたのは娯楽室です。由紀子は犯行後、映写室で自殺し、使用した注射器を換気扇から投げ捨てています。この時点で、娯楽室には耶素子の他殺体、映写室には由紀子の変死体があります(説明の都合上、由紀子は自殺と書いていますが、発見時に自殺と断定されたわけではないです)。
事件をややこしくしたのは、死体発見後に滝本による死体の入れ替えです。明らかな他殺体が映写室にあって、変死体が娯楽室にあります。まず、映写室の外に注射器が落ちていて意味不明です。そして、娯楽室から映写室へ移動しか許されないという状況証拠により、注射器の法則に加えて、さらに謎が増します。結局のところ、あらゆる状況が死体の入れ替えを示唆することになります。
仕掛け
この作品は笹木の手記という形で物語がつづられています。笹木がなんとも怪しいわけですが、笹木は犯人ではありませんでした。ミステリーファンでいろいろ読んでいる方は、引っ掛かりやすかったのかもしれません。
この小説の最大の仕掛けは、別荘に登場した西之園嬢が萌絵ではなく、睦子だったということです。つまり、別荘で起きた事件はドライブ中の萌絵と犀川からみて過去の出来事だったわけです。笹木は睦子の夫の佐々木で、苗字が微妙に違うのは選挙用に名前を変えているからでした。
感想
舞台は山奥の別荘です。密室殺人やクローズドサークルなど、ミステリーの王道が登場します。読み進めていくと生じる違和感の正体は過去と現在の交錯だったのかなと思います。
主要キャラクターである西之園萌絵と犀川先生の登場が少なかったのは、ちょっと残念です。前作『夏のレプリカ』もそんな感じだったので、残念な感じは増しています。二人を中心とした会話とかを見たかったというのが正直なところです。主人公の笹木ついては、行動や内面描写に対して時折不快感を覚える場面もありました…。S&Mシリーズの中でも異色な作品で、ロマンス要素が強かったように思います。この点についても賛否が分かれそうです。
この作品はやっぱり西之園のトリックが強烈で、シリーズ作品をここまで読み進めた甲斐があったと思える一冊です。読書後に残る余韻が心地よく、しばらくはこの物語の世界に浸っていたいと思える作品でした。
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