森博嗣著「デボラ、眠っているのか?」は2016年10月に刊行された作品で、Wシリーズの4作目です。この記事では、あらすじやみんなの感想などをまとめ、作品について考察しています。
項目 | 説明 |
---|---|
タイトル | デボラ、眠っているのか? |
著者 | 森博嗣 |
出版社 | 講談社 |
シリーズ | Wシリーズ |
順番 | 4 |
発行日 | 2016年10月18日 |
あらすじ
祈りの場。フランス西海岸にある古い修道院で生殖可能な一族とスーパ・コンピュータが発見された。施設構造は、ナクチュのものと相似。ヴォッシュ博士は調査に参加し、ハギリを呼び寄せる。 一方、ナクチュの頭脳が再起動。失われていたネットワークの再構築が開始され、新たにトランスファの存在が明らかになる。
講談社BOOK倶楽部
3作目「風は青海を渡るのか?」から2週間が経過しています。ハギリらの拠点であるニュークリアに少女が侵入し、それがトランスファという兵器(開発コード名はデボラ)であることが判明します。少女は途中で沈黙し捕らえられ、その後、デボラとして活躍します。
一方その頃、フランスで子供産むことができる人々とスパコン(スーパー・コンピューター)がみつかり、ハギリ達はフランスへと向かいます。ナクチュのスパコンはアミラ、フランスのスパコンはベルベットと名付けられ、この二つは電子空間で勢力争いをしているようでした。アミラは沈黙していましたが、それを復活させたハギリがベルベットの勢力に命を狙われることになります。
タイムライン
作中の出来事(ハイライト)をタイムラインで簡単にまとめます。
- prologueプロローグ「デボラ、眠っているの?」をハギリが耳にする
ニュークリアに少女が侵入
- 第1章夢の人々少女が拘束される
タナカが少女は兵器の一部で兵器の開発コード名はデボラであると語る
少女の名前はキガタ・サリノでウォーカロン
ハギリがサリノ視点の夢をみる
天文台のスパコンがハギリに挨拶する
- 第2章夢の判断VRで天文台のスパコン登場
シモダがハギリにフランスで見つかった子供を産むことができる一族について話す
フランスにもスパコンがあった
翌日ハギリ、ウグイ、アネバネはフランスへ
ハギリが襲われるがデボラの助言で助かる
ヴォッシュ、パティと夕食
ヴォッシュが天文台のスパコンをアミラと名付ける
- 第3章夢の反転ハギリとデボラの会話
アミラとフランスのスパコンは争っている
ハギリはアミラ(別名アース)を再稼働したためフランスのスパコンに命を狙われた
デボラがフランスのスパコンの停止を求める
スパコン(エッグ、ベルベット、テラ)がある城へ
ベルベットの調査開始
デボラに呼ばれたサリノが看護師として到着する
手応えという価値
翌朝、ハギリ達が作戦のためベルベットの部屋で待機
銃撃戦
- 第4章夢の結末ハギリがベルベットのシェルに手を入れる
ハギリがベルベット内部で発砲
サリノがベルベット内部へ侵入しケーブルをショートさせる
ハギリがサリノの視点をみる
ベルベットがシャットダウンする
サリノとウグイは病院へ運ばれる
ハギリ達が病院へ
サリノが治療を受けている部屋でパティが暴走
サリノが蘇生する
- epilogueエピローグサリノの記憶は戻らずスクールへ戻る
ウグイの舌ペロ
ネタバレ
デボラはベルベットを破壊するため、送電の遮断と偽の信号でベルベットのシェルを取り外そうとします。これは、送電が一時的に止まったベルベットが送られた偽の信号を故障と勘違いし、点検のためにシェルの引き上げを指示するというものです。このとき、引き上げのコマンド(呪文のようなもの)をハギリが盗み見るという作戦でしたが、送電そのものが阻止され、作戦は失敗に終わります。
作戦が破綻したハギリ達はベルベットの部屋で銃撃戦となり追い込まれます。しかし、ハギリが機転を利かせ、ベルベットのシェルに手を突っ込み、内部へと手を入れます。ベルベットのシェルはゆっくり力を加えれば変形するという特殊な素材で作られていました。
オーナー
フランスの城のオーナーは自殺したようです。自殺の理由は不明ですが、資金が底を尽きたというわけではなさそうです。城の図書室から電子端末がみつかり、そこにはパリ博覧会で使用されたと思しきイシカワのカタログが表示されていました。持ち主はアフリカへ逃亡したようです。これが自殺の原因に影響しているかどうかは、詳しく語られていません。なお、オーナーの名前はジャン・ルー・モレルです。
みんなの感想
口コミを調べてみると可愛いや面白いという言葉がよく書き込まれていました。
可愛い
ウグイが可愛いという感想が多く書き込まれているようです。ラストシーンでウグイが人間らしさみたいなものをみせます。
ウグイがどんどん可愛くなってるのは気のせいですか?
ウグイの人間らしさが何だか可愛くてたまりません。特にエピローグのウグイ!仕事モードじゃないときは可愛い。
面白い
面白いという感想についてみてみると、様々な意見がありました。このエピソードは、シリーズとしてではなく、物語そのものが面白いという意見もあります。
登場人物にもだんだんと、情がわいてきて益々面白くなってきた。
走るスピードを上げたかのように面白さが加速する。正にSFという感じだ。
これシリーズだったんですね!単品でも面白かったので今度は最初から読みたいと思います。
非常に示唆に富んだ内容になっていて面白かった。なんかこの作品を読んでいると勉強しているような感覚になって、頭が良くなっていくような錯覚に陥ってしまう。
個人の感想
百年シリーズを読んでいると面白さが非常に増すと思いますが、このエピソードはストーリーもかなり楽しめると思います。コンピューター同士の戦いに決戦のような趣きがあり、対決構造が非常に明確でした。敵を止めなければ人類が甚大な被害を被るという背景から緊張感が感じられ、主人公達を応援したくなるような雰囲気もあったと思います。発端も派手で、ニュークリアに謎の少女が侵入し、物語が始まります。それほど数が多かったわけではないですが、“攻殻機動隊”を連想した読者も多いようです。
テーマである人間とロボットとの差、AIの行く末を考察する内容。攻殻を連想させる。
トランスファの正体など、なかなか難しい部分もあったように思います。現代的なイメージとしては、リモートデスクトップで離れたところのパソコンを操作する感じではないかと思います。ヴォッシュやハギリが挑戦していたコマンドというのも、Windowsのパソコンの画面で左下の虫メガネに“cmd”と入力すれば、類似した入力画面がみれると思います(現れた黒い画面は×で閉じれば問題ありません)。だから何だという話ですが……、著者の森博嗣先生は、大学でプログラムやコンクリートについて研究されていたはずなので、そのあたりが作品に現れていると思います。ベルベットを守っていたシェルの素材も、固まる前のコンクリートの性質などを参考にされているようです。
考察
P108に“二百五十年前の初代のコンピュータが初めて走らせたコード”という記述があります。歴史上、初代コンピューターは1946年に登場したENIACですので、1946年+250年で2196年になります。このことから、物語の西暦は2196年頃と考えられます。しかしながら、Wシリーズの世界観における初代コンピューターが1946年のENIACとは限りません。もしかしたら、物語における独自の設定があるかもしれません。
2作目に登場した魔法は使えなくなっているようです。ハギリ自身がもう使えないというようなことを話しています。ラストシーンに登場した敵達はウォーカロンだったはずですが、一度使ってしまったので対処されたということなのかもしれません。その情報は2作目に登場したウォーカロンを通して知れ渡ったと考えられます。
ウォーカロン・メーカー
ウォーカロン・メーカーがいくつか登場しているので整理したいと思います。まず、日本のメーカーであるイシカワです。タナカはここの研究員でした。タナカは子供を産むことができるウォーカロンを連れて脱走しています。その他に、アメリカのウィザードリィ、中国のフス、チベットのHIXなどが登場しています。HIXはドレクスラが研究所の所長を務める企業です。ホワイトはウォーカロン・メーカーの連合組織で、WHITEはメーカーの頭文字を取っているようです。
ウィザードリィのウォーカロンも逃亡しているようですが、その詳細は不明です。博覧会で消えたのはイシカワのウォーカロンだったようですが、これもまた詳細は語られていません。
エイサメトリック
P128で“エイサメトリック”という言葉が登場していますが、これはAsymmetricをカタカナで表記しているようです。意味は「非対称の」「左右が均等でない」となっています。作中では、アネバネは左右非対称だ、というような意味で使われているようです。
赤目姫の潮解
「デボラ、眠っているのか」を読むと百年シリーズ3作目「赤目姫の潮解」の謎が解けると思います。この作品は理解の難しい作品だったと思いますが、トランスファという予備知識があれば、わかりやすくなります。おそらく「赤目姫…」はトランスファ視点の物語だと思われます。
コメント