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噓と隣人|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【芦沢央】

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嘘と隣人』は芦沢央さんによるその独特のイヤミス感と、日常に潜む人間の多面的な嘘をテーマにした連作短編集です。主人公は、芦沢央さんの過去作『夜の道標』にも登場した元刑事の平良正太郎。定年退職後の彼が、隣人や身の回りで起こる些細な出来事やトラブルに巻き込まれ、その裏に隠された真実を解き明かしていく物語です。この記事では、あらすじや登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

定年退職し、穏やかな隠居生活を送るはずだった元刑事の平良正太郎。隣人や知人たちの日常に潜む些細な出来事が、思いがけないトラブルや事件へと発展していく。捜査権限を持たない一般人となった彼が、長年培ってきた刑事の勘と洞察力で、それぞれの事件の裏に隠された嘘と真実を静かに炙り出していく。そこには、保身、エゴ、悪意、そして時には思いやりといった、人間の複雑な内面が隠されていた。

  • かくれんぼ
    娘のママ友から自転車を貸してほしいと頼まれた正太郎。彼女は離婚調停中の夫からのストーカー被害に遭っており、携帯の機能を制限していたはずだったが、なぜか夫に居場所を知られ、刺されてしまう。GPS機能がオンになったのは誰の仕業なのか、その裏に隠された人間関係が明らかになる
  • アイランドキッチン
    退職金で家を探す正太郎は、かつて捜査で訪れたマンションの名前を目にする。11年前に若い女性が飛び降り自殺した場所だったが、その裏には執拗な嫌がらせと、意外な人物の利己的な動機が隠されていた
  • 祭り
    引っ越し作業中に、正太郎は6年前に起きたベトナム人技能実習生殺害事件を思い出す。不法滞在を恐れて罪を犯したという筋書きの裏に、外国人労働者が直面する過酷な環境と、日本人たちの無自覚な悪意が浮かび上がる
  • 最善
    妻の友人の夫が痴漢容疑で逮捕される。彼は無実を主張するが、釈放のためにやむなく罪を認めたという。正太郎が調査を進めるうちに、同時刻に起きた乳児転落事故との関連が浮上し、事態は二転三転していく
  • 嘘と隣人
    同じマンションの住人から、SNSで脅迫されている知人の相談を受ける正太郎。アンチコメントの犯人を特定する過程で、その投稿が別の事件に思わぬ形で関与していることが判明する。承認欲求と保身が絡み合う現代社会の闇が描かれる

小説の特徴

芦沢央の真骨頂である「イヤミス」感が存分に発揮されています。派手な犯罪描写よりも、人間の内面や裏の顔、そこはかとない悪意がじわじわと読者に迫るような心理的な怖さが特徴です。読後には、スッキリとした解決ではなく、ゾワゾワとした不快感やモヤモヤとした余韻が残ります。

小説自体は五つの短編からなる連作形式になっています。各話の主人公は共通して元刑事の平良正太郎であり、彼の視点を通して物語が展開されます。過去の事件の記憶と現在のトラブルが交錯し、新たな真実が浮かび上がる構成が特徴です。

物語の舞台は、現代の日本社会、特に横浜市が背景に描かれています。日常の些細な出来事やご近所トラブルが発端とな り、ストーカー、DV、外国人技能実習生問題、痴漢冤罪、SNSでの誹謗中傷といった、現代社会が抱えるリアルな問題がテーマとして 取り上げられています。

テーマ

中心となるテーマは嘘です。登場人物たちは、保身、エゴ、都合、悪意、あるいは思いやりといった様々な理由から嘘をつきます。その小さな嘘が、まるでバタフライ効果のように波紋を広げ、連鎖的に大きな事件や人間関係の破綻を引き起こしていく様が描かれています。

主な登場人物

  • 平良 正太郎(たいら しょうたろう)
    主人公。長年刑事を務め、定年退職したばかりの男性。穏やかな隠居生活を送るはずが、持ち前の洞察力と刑事の性で、身近なトラブルの真相に気づいてしまう。過去作『夜の道標』にも登場する刑事
  • 澄子(すみこ)
    正太郎の妻。夫の退職後の生活を共に楽しもうとしている
  • 歩美(あゆみ)
    正太郎の娘
  • 司(つかさ)
    正太郎の孫

主人公の平良正太郎は、芦沢央の長編『夜の道標』に登場した刑事の定年退職後の姿です。現役時代は正義感が強く、地 道な捜査で事件を解決してきた彼ですが、定年後は捜査権限を持たない一般人として、事件に深入りすべきか葛藤します。しかし、長年の経験で培われた鋭い洞察力と刑事の性が、彼をトラブルの真相へと導いていきます。彼の冷静で分別のある人柄が、物語の陰鬱なテーマに深みを与えています。

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感想

日常のすぐ隣に潜む嘘の恐ろしさを痛感します。現代社会の闇を映し出すような題材(ストーカー、技能実習生問題、SNSトラブルなど)が選ばれているため、他人事とは思えない生々しい怖さが読後にじわじわと広がります。

定年退職した元刑事の平良正太郎が主人公という設定が秀逸で、現役時代とは異なる、一歩引いた視点から事件の真相に迫るその姿も魅力的でした。捜査権限はありませんが、人間関係の機微や、些細な言動の裏に隠された真意を深く洞察していく過程にはリアリティがあり、まさに「安楽椅子探偵」のようでした。

高評価なポイント

  • 読後にじわじわと広がる不快感やゾワゾワ感がクセになる!?
  • 元刑事である主人公・平良正太郎の冷静な洞察力と、人間味あふれる葛藤に魅力を感じる
  • 各短編のどんでん返しや「意外な真相が巧みで、読み進める手が止まらない
  • 現代社会のテーマ(DV、痴漢冤罪、SNSなど)を巧みに取り入れている
  • サクッと読める短編集でありながら、読後の余韻は長く残る

低評価なポイント

  • 芦沢央の他の作品(特に『汚れた手をそこで拭かない』)と比較して、イヤミス感がやや物足りないと感じる場合もある
  • どんでん返しが予想できてしまう、あるいは驚きが少ないと感じる
  • 読後にモヤモヤする、嫌な気持ちになるのが苦手な人には向かない
  • 短編であるためか、物語の深さや登場人物への感情移入が不足していると感じる
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ネタバレ

  • かくれんぼ
    • 平良正太郎の娘のママ友が、離婚調停中の夫に包丁で刺されるという傷害事件が発生します。ママ友の携帯電話のGPS機能がオンになっていたことが、夫に居場所を知られた原因とされます
    • 【犯人】ママ友の「親切な人」(保育士)
    • 【動機】預かっていたママ友の子供が一時的にいなくなったとき、その事実を隠蔽するため、ママ友の携帯の機内モードを解除し、DV夫が来る騒ぎを起こすことで、子供がいなくなった件から周囲の注意を逸らそうとしました。平良正太郎は、この「親切な人」の裏に隠された自己保身と、善意のつもりの行動が招いた予期せぬ悲劇の連鎖に気づきます
  • アイランドキッチン
    • 平良正太郎が退職金で家を探す中で、11年前に自殺とされた女性の飛び降り事件があったマンションの名前を目にします。当時、被害女性が嫌がらせを受けていたことが発覚し、殺人の疑いが浮上していました
    • 【犯人】亡くなった男性の妻(有吉希美)
    • 【動機】有吉希美は夫が百貨店女性(豊原実玖)との納品間違いに巻き込まれ、途中で交通事故死したことを逆恨みし、豊原実玖に執拗な嫌がらせを繰り返します。しかし、真の動機は、豊原実玖の飛び降りを「事故死」ではなく「自殺」に見せかけることで、マンションの資産価値を意図的に下げ、ローン特約を適用させて自分たちがそのマンションを安く購入することでした
    • 殺人事件に見せかけて、実際にはマフィアのボスをおびき寄せるための罠
  • 祭り
    • 引っ越し作業中に、平良正太郎は6年前に発生した事件を思い出します。認知症の男性が行方不明になり、後に遺体で発見された際、その近くからベトナム人実習生の遺体も発見されました。このベトナム人実習生は実習先を脱走し、引っ越し会社で働いており、同僚のベトナム人ドゥックが被疑者とされていました
    • 【犯人】引っ越しセンターの現場リーダー(河合浩次)
    • 【動機】認知症の男性の行方不明を隠蔽するため、ベトナム人実習生タンを殺害し、その罪を失踪したドゥックになすりつけようとしました。背景には、タンが受けていたパワハラや、日本の技能実習制度が抱える構造的な問題がありました
  • 最善
    • 登戸駅で乳児転落事件が発生し、乳児が頭蓋骨骨折の重傷を負います。同時刻に痴漢被害も発生し、平良正太郎の妻の友人である水口沙知の夫(水口大悟)が痴漢容疑で逮捕されますが、彼は無実を主張します
    • 【犯人】水口沙知の夫(水口大悟)
    • 【動機】満員電車内で、抱っこ紐のバックルを外すという悪質なイタズラをした結果、乳児が転落し重傷を負わせてしまいました。より罪の軽い痴漢の罪を自ら被ることで、より重大な乳児転落事件の加害者であることを隠蔽しようとしました
    • ホーは石本添を殺害し、その死体を隠すために他の人々も殺害。クワンはホーを追い詰めるが、ホーは自殺してしまう
  • 嘘と隣人
    • 同じマンションに住む住人から、知人(篠木理絵)がSNSでアンチコメントによる脅迫を受けていると相談を受け、アンチコメントの犯人特定を依頼されます
    • 【犯人】篠木理絵の娘
    • 【動機】娘がSNSでアンチコメントを書き込んだのは、母親の投稿内容が事実を誇張しており、それが原因で過去の妊婦の交通事故死産事件の真相が明るみに出ることを恐れたためです。母親は「バズる」ために事実を歪めて投稿していました
    • 家政婦は誘拐を偽装し、身代金をだまし取ろうとした

結末

物語の最後では、平良正太郎が、かつての同僚である吉羅が立ち上げた探偵事務所に加わることを示唆する描写があ ります。これは、彼が定年退職後の「一般人」としての葛藤を乗り越え、「探偵」として再び事件に関わっていく新たな人生の始まりを予感させます。今後のシリーズ展開に期待が高まる結末です。

次にオススメの推理小説

  • 芦沢央の他の作品
    • 『夜の道標』
      本作の主人公・平良正太郎の現役刑事時代を描いた作品。日本推理作家 協会賞受賞作
    • 『汚れた手をそこで拭かない』
      芦沢央の代表的なイヤミス短編集。日常に潜む悪意と 、読後感の悪さが特徴です
    • 『火のないところに煙は』
      怪談とミステリーが融合した作品。じわじわくる怖さが好きな方におすすめです
  • 他のイヤミス作家の作品
    • 湊かなえ
      『告白』、『Nのために』など、人間の暗部や心理を深く描く作品が多いです
    • 真梨幸子
      『殺人鬼フジコの衝動』など、より強烈な読後感を求める方におすすめです

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