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告げ口心臓|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【エドガー・アラン・ポー】

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告げ口心臓(The Tell-Tale Heart)』は、アメリカの小説家エドガー・アラン・ポーによって1843年1月に発表された短編小説です。ポーのゴシック文学の傑作の一つとされ、無名の語り手が自身の正気を主張しながら、罪の顛末を語るその様子が描かれています。この記事では、あらすじトネタバレ、登場人物、感想などをまとめています。

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あらすじ

「私」(語り手)が、自身の正気と研ぎ澄まされた五感、特に聴覚の鋭さを訴えている。同居する裕福な老人についても、個人的な恨みや金銭的な動機は一切ないと主張。しかし、老人の瞳だけを異常なほどに忌み嫌い、その瞳を見るたびに全身の血液が冷たくなる。結果的に、眼の呪縛から逃れるために、老人の命を奪い取るという考えに取り憑かれていく。殺害を決意した「私」は自分が狂人ではない証拠として、その計画がいかに賢明かつ周到であったかを力説する。

老人の殺害を決意する前の1週間、「私」は毎晩深夜に老人の部屋に忍び込んでいた。ゆっくりと老人のベッドまで近づいたのだが、眼は閉じられていたため、七晩もの間、「私」は仕事に取り掛かることができなかったという。八日目の夜、「私」はこれまで以上に慎重に忍び込んだが、手が滑り音を立ててしまう。物音で老人は目を覚まし、誰何する。

ネタバレ注意

「私」は一時間もの間、息を潜めてじっとしていた。その間、老人は恐怖に震えているようだった。やがて、老人の弱々しい唸り声が聞こえてくる。そして、「私」の耳には老人の心臓の音も聞こえ始める。この心音が、まるで戦場を盛り上げる軍楽太鼓のように「私」の怒りと興奮を煽り、「私」は隣家に聞こえるのではないかという恐怖に駆られます。そしてついに「私」は大きな叫び声を上げ、老人の殺害を完了させる。

殺害後、「私」は素早く死体を頭、腕、脚とバラバラに切り刻み、寝室の床板を剥がしてその下に隠したという。血痕ひとつ残さず、風呂桶で全てを受け止めるほどの徹底ぶりで証拠を隠滅し、床板も完璧に元通りに戻した。

午前4時――仕事を終えたその時、通りに面した扉がノックされる。近所の住民が深夜の悲鳴を聞いて警察に通報したらしい。「私」は、開き直り、明るい心持ちで警官たちを迎え入れ、悪夢をみて悲鳴を上げたといい、老人は旅行中で不在だと説明する。自信に満ちた「私」は、警察官たちを家中の隅々まで案内し、自らが死体を隠した床のちょうどその真上に椅子を持ってきて座らせ、談笑を始める。
しかし、談笑が続くうちに、「私」の頭が疼きだし、耳の奥から再び心臓の鼓動のような音が聞こえてくる。その音は徐々にその輪郭を現し響いてくる。警察官たちには聞こえていないようだったが、「私」はその音が聞こえていると思い込む。音はさらに激しく、太鼓のように鳴り響き、「私」は警官に対して苛立ちと憤りを感じ始める。 ついに耐えきれなくなった「私」は、狂気に満ちた叫び声を上げ、自ら床板を破り捨て、隠されていた老人の死体を警官たちにさらしてしまう。

登場人物

  • 私(語り手)
    主人公。この物語の語り手。自身の正気さを主張しますが、その独白自体が錯乱した精神状態を如実に表しています。老人の「目」に対する偏執的な憎悪が動機。性別や年齢は作中で明示されていません。神経過敏を自称し、聴覚が異常に鋭いらしく、心臓の音が聞こえるのだが、幻聴である可能性が非常に高いと考察される場合もある
  • 老人
    私(語り手)と同居している人物。殺意の対象となった禿鷲のような目が特徴といえますが、そのほかの人物像はほとんど描かれていません
  • 警官たち
    老人の悲鳴を聞いた隣人の通報によって、事件現場に駆けつける警察官。三名登場します
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感想と考察

わずか12ページ程度の短編小説ですが、印象に残る物語です。罪を隠し通そうとする人間の心理状態、そして、罪悪感がどのようにして人間の精神を蝕み、破滅へと導くのかが見事に描き出されています。語り手は自分のまともさをわかってもらおうとしていますが、その異常な行動や非合理的な動機は、むしろ狂気を浮き彫りにしています。このように、この物語に登場する語り手は話していることが信頼できません。このような人物が登場する小説は「信頼できない語り手」と呼ばれ、様々な事情があるにせよ、表面的には、ただの嘘つきにみえます。

殺害後に語り手が耳にする「心臓の鼓動」の正体は、語り手自身の心臓の音、あるいは、強烈な罪悪感が作り出した幻聴という解釈が多いようです。実際に聞こえる物理的な音というよりも、語り手の精神状態と密接に関連した音である可能性が高そうです。
最終的に心臓の鼓動は、文字通り告げ口をする心臓となります。証拠を突きつけられて言い逃れできなくなり、自白するというよりは、罪の意識によって追い詰められ、自白するという結末です。完全犯罪を成し遂げたという思いも、うちなる良心に裏切られ、結局は破滅することになります。なんとも、皮肉な終わり方です。

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