『飛び込みプールの悪霊』は金田一少年が中学生だった頃のエピソードです。事件の舞台はスイミングスクールで、高飛び込みを巡る人間関係が描かれます。原作漫画では短編として単行本に収録されており、テレビアニメ『金田一少年の事件簿R』では第18話として放送されました。この記事ではあらすじ、ネタバレ、登場人物、感想などをまとめています。
あらすじ
中学3年生の夏休み――カナヅチの金田一一は、きたる水泳大会を乗り切るために、幼馴染の七瀬美雪と半強制的にフドウスイミングスクールに通い始める。
スクールでは、不動体育大学付属高校への推薦を巡って、高飛び込みの有力選手である潮美波留と虹枝光代が対立しているようだった。美波留は貧しい米屋の娘で努力家、一方の光代は裕福な家庭の娘で、もともと仲の良かったふたりだが、今は互いにいがみ合っていた。また、プールには「飛び込みプールの悪霊」という不気味な噂があるという。
そんなある日、高飛び込みの練習中に虹枝光代が着水に失敗し、意識不明の重体となる。
事故発生時、美雪が金田一に大声で注意したことが、光代のバランスを崩した原因の一つとして疑われることに。自身の行動が事故につながったかもしれないと深く落ち込む美雪を見た金田一は、美雪の無実と事件の真相を証明しようとする。
登場人物
- 金田一一(CV: 松野太紀)
中学3年生。カナヅチ克服のためスイミングスクールへ。美雪が事故の責任を感じている姿を見て、事件解決に乗り出す - 七瀬美雪(CV: 中川亜紀子)
中学3年生。金田一と共にスイミングスクールへ - 早宮葵(はやみや あおい)(CV: 茉莉邑薫)
27歳。スイミングスクールのインストラクタ ー。美雪の小学校時代からの知り合い - 潮美波留(うしお みはる)(CV: 福圓美里)
14歳。スイミングスクールの生徒。米屋の娘 。高飛び込みの実力者 - 虹枝光代(にじえだ みつよ)(CV: 雪野五月)
14歳。スイミングスクールの生徒。金持ちの娘。高飛び込みの実力者。事件の被害者。不器用な性格 - 水樹流奈(みずき るな)(CV: 日笠陽子)
14歳。スイミングスクールの生徒。高飛び込みの実力者の一人。飛び込みプールの悪霊の噂や、美波留と光代の関係について金田一たちに話す - 刑事(CV: 堀内賢雄)
警視庁の刑事。今回の事件の担当者。顔は怖いが見た目に反して理解があり、金田一の推理に真剣に耳を傾ける
※アニメ版には、金田一の母(CV: 潘恵子)、そして「カフェふくろう」のマスター(CV: 佐藤友啓)とフクロウのホー之介も登場します。
真相(ネタバレ注意)
虹枝光代の飛び込み失敗は事故ではなく、潮美波留が仕組んだ殺人でした。
潮美波留は、虹枝光代が父親の財力を使って不動体育大学付属高校の推薦枠を不当に手に入れたと強く思い込んでいました。かつては親友だった二人の関係は、この推薦問題をきっかけに悪化。特に、光代が美波留の古い水着を破り捨てたことが、美波留の恨みを決定的なものにしています。
なお、美波留の目的は「痛い思い」をさせることであり、殺人は計画していませんでした。
トリック
美波留は事件の前夜、飛び込みプールの水面にビニールシートを張り、その中に大量の塩(米屋である実家から調達)を投入しています。これにより、プールの一部は死海のように塩分濃度が高い状態となり、密度が高いため、飛び込んだ際の衝撃も大きくなります。
虹枝は塩分濃度の高いエリアに着水したことで重傷を負うことになります。
虹枝が飛び込む前に美波留が着水点を外したのは、塩分濃度が高い場所を避けるためです。さらに、虹枝を挑発して、確実に着水点(塩分濃度が高い場所)に着水させようという心理的な狙いもありました。
虹枝を救助した美波留の体に付着していた大量の髪の毛は、犯人である美波留が自ら付着させたものです。髪は清掃時に集めておいたものを使っています。これにより、『飛び込みプールの悪霊』を想起させ、事件後のプールに近づけさせないようにしていました。
結末
美波留は被害者である虹枝が金で推薦を勝ち取ったと考えていました。確かに、虹枝が父親の金で推薦を得たのは事実だったようですが、虹枝は推薦を辞退していました。
虹枝の美波留に対する乱暴なふるまいは、関係が壊れてしまったことへの後悔と、素直になれない彼女なりの友情表現でした。実は本心では、美波留との関係を修復し、将来は共にオリンピックを目指したいと願っていました。水着を破ったのも、新しい水着をプレゼントしても素直に受け取ってもらえないと思っていたからです。
虹枝は美波留に対する思いを、スイミングスクールのインストラクターである早宮葵に打ち明けられていました。謎解きのあと、美波留は早宮から真相を聞かされることになります。
原作漫画とアニメの違い
原作漫画で虹枝光代は死亡します。しかし、アニメ『金田一少年の事件簿R』では一命を取り留め、意識を取り戻すという変更が加えられています。漫画はとても残酷な結末になっていますが、アニメは救いのある結末になっています。
感想
「すれ違いの悲劇」が色濃く描かれたエピソードでした。犯人の動機は復讐ですが、その根底には被害者の不器用な愛情表現と、それを知り得なかった犯人の誤解があります。
トリックに関しては、中学生が大量の塩(約400kgと推測される量)を運び込み、プールに細工を施すという点に、物理的な困難さを指摘する声もありそうです。これもまた、金田一少年らしいといえば、そうかもしれませんね。細かいところはさておき、塩分濃度が濃いプールへの飛び込みは危険ということを知識として獲得できます。役に立つかどうかはわかりませんが…。
派手なトリックや猟奇的な犯行ではありませんが、登場人物たちの本心とすれ違いが大きな悲劇を生むというストーリーが面白い作品だと思います。
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