『マスグレーヴ家の儀式』は、貴族の末裔であるマスグレーブ家に代々伝わる儀式書に関する物語です。原作は1893年に発表されました。作品が収録された短編集「シャーロック・ホームズの思い出」が発行されたのも1893年です。
項目 | 内容 |
---|---|
発表 | 1893年5月発表 (ストランド) |
発表順 | 20作品目 (60作中) |
発生時期 | 1879年10月2日 |
発生順 | 2件目 (60作中) |
あらすじ
ある日、ワトスン博士がシャーロック・ホームズの奇行について語り出す。その奇行というのは、スリッパの爪先にタバコを詰めたり、ジャックナイフで未返信の手紙を棚にぶっ刺したり、室内で拳銃を発射しVR(ヴィクトリア女王Victoria Reginaのイニシャル)と描いてみたりと、それはそれは酷いものであった。みかねたワトスンがホームズに片づけを提案すると、ホームズがブリキの箱を持ってきて、中身を見せびらかしはじめる。それは、ホームズが以前に解決した事件の記念品だった。
ホームズが大学を卒業した四年後、モンタギュー街の下宿で暮らしていた彼のもとに大学時代の友人であるレジナルド・マスグレーヴがやってくる。レジナルドは執事のブラントンとメイドが失踪するという事件を抱えていた。ことの始まりは、ブラントンが盗み見た儀式書にあった。一族に代々伝わる儀式書を勝手にみられたレジナルドは憤慨し、ブラントンに解雇を言い渡した。ブラントンには1週間の猶予を与えたのだが、それから3日後に、執事は姿を消した。そして今度はメイドのレイチェル・ハウェルズが行方を暗ます。レイチェルはブラントンに捨てられた女性で「執事は行ってしまった」などと意味不明なことを口にしていた。残された足跡から、レイチェルが池へ向かったらしいということがわかり、捜索のため、レジナルドは池をさらうが、レイチェルらしき人物はみつからなかった。代わりに袋がみつかり、その中には、錆びついた金属や石などのガラクタしか入っていなかった。
レジナルドの話を聞いたホームズは、「これは去りし人のもの、来たる人のもの。陽はカシの上、影はニレの下。北へ20歩、東へ10歩、南へ4歩、西へ2歩。そして下」と書かれた儀式書を確認し、それが特定の場所を示す文書であると推理する。その後、ホームズはマスグレーヴの屋敷へと赴き、そこでカシの木を発見する。儀式書は、カシの木の上に太陽がきた時、ニレの木によって生じる影が歩数を進める出発点であることを示しており、ホームズはその通りに歩を進める。そしてついに、地下倉庫の石板へと到達する。
ネタバレ
石板にはブラントンのマフラーがくくりつけられていた。その重い石板を持ち上げると、そこには穴があり、中で執事のブラントンが死んでいた…。そんな状況をみてホームズは一つの推理を披露する。
ブラントンは儀式書を解読し、石板へとたどり着いた。しかし、石板を一人で持ち上げることはできなかった。そこで、メイドのレイチェルに助けを求め、石板を動かした。石板にはつっかえ棒をし、ブラントンが穴に入って、あの袋をみつけた。その袋をレイチェルが受け取ったのだが、この時、ブラントンに捨てられたことを恨んでいたレイチェルが報復のために、つっかえ棒を取り除いた。レイチェルはその袋を池に捨てて逃げ出し、閉じ込められてしまったブライトンは窒息死してしまった。
レイチェルが捨てた袋にはガラクタが詰まっていたのだが、それは「去りし人、来たる人」という言葉から、チャールズ1世の処刑後、マスグレーブ家に託された元イングランド王冠であることが判明する。
ドラマ
グラナダ版ドラマは1986年7月30日に放送されました。シーズン3の第4話(52分)です。日本語のタイトルは「マスグレーブ家の儀式書」となっています。
項目 | 内容 |
---|---|
シーズン | 3 |
話数 | 4 |
放送順 | 17 |
放送日(英) | 1986年7月30日(水) |
出演者 | キャスト一覧 |
ストーリー
ホームズとワトスンが、ホームズの旧友であるサー・レジナルド・マスグレーブの邸宅に到着し、執事の失踪を知る。執事のブラントンは頭がよくて教養もあるが、気まぐれな人間で、婚約者だったメイドのレイチェルを捨てていた。ブラントンはある夜、マスグレーブの儀式書を勝手に調べており、それをみつけたレジナルドは執事を解雇したのだが、その後、執事は失踪してしまったのだった。
そんな折、真夜中にレイチェルがどこかへと消えてしまう。ホームズは儀式書が執事とメイドの鍵であると確信し、記されたカシの木とニレの木を探す。ニレの木は失われていたが、レジナルドの記憶と釣竿を使った比率の計算で儀式書を解読し、ホームズとワトスンは地下室へとたどり着く。
ネタバレ
地下室の石坂を持ち上げると、そこにはブラントンの死体があった。おそらくブラントンは儀式書を解読し、レイチェルと共に石板を持ち上げたのだが、隠されていたものがガラクタだと知ったレイチェルに裏切られ、穴の中に閉じ込められてしまった。ところが、そのガラクタはチャールズ一世の壊れた王冠だったのである。その後、ホームズ達がマスグレーヴの屋敷を後にすると、池の底からレイチェルの死体が浮かび上がるのだった。
原作とドラマの違い
原作とドラマの展開や結末は同じです。しかし、発端の部分が大きく異なります。原作では、ホームズの思い出話というかたちで事件が登場します。そのため、ワトスン博士はホームズの話を聞いているだけです。一方ドラマはホームズとワトスンがマスグレーヴ家を訪れ、執事の失踪を知ります。この時点でメイドは行方不明になっていません。つまり、ドラマではホームズもワトスン博士も、事件の当事者になっています。余談ですが、ドラマはホームズとワトソンが旅先で事件に遭遇するという話です。探偵が出先で事件に巻き込まれるというのは、さほど珍しくないかもしれませんが、シャーロック・ホームズシリーズではほとんど登場しないパターンです。
小説の冒頭に登場するホームズの奇行も、ドラマでは描かれていません。ラストも、メイドの生死について違いがあり、小説では、メイドがどうなったのかは明確に記されていません。しかしドラマでは、最後の最後にメイドの死体が生けの底から浮き上がってきます。
感想
ドラマの最後に登場する死体がホラー過ぎます。死体が浮いてくるとは思っていなかったので、あやうく叫びそうになりました。はじめは、水面がただ映っているだけで、「なんだろうか」などという疑問をもって注視していると、死体が出てくるという。まったくもってけしからん演出ですが、とても記憶に残っています。
楡と釣り竿
ニレの木は落雷で枯れてましたが、レジナルドがおおよその高さを憶えていました。同じ高さの棒を用意すればいいわけですが、64フィート(約19.5m)という長さのため、ホームズは比率と釣竿を使って影の長さを求めていました。例えば、8フィートの長さの棒があったとしたら、64フィートは8本分の長さということになります。なんだか、親指と人差し指の間隔(親指と人差し指を拳銃みたいな形にした時に、指先と指先を結ぶ仮想的な直線)で長さを測る方法を思い出します。指を使ったこの測り方に限っては、あまり当てにならない気がします。
考察
宝の地図を残すにしても、その動機はなんだったのでしょうか。この事件では、チャールズ一世の王冠を隠した結果、朽ちてしまいました。朽ちてもよいものであれば地図など残さないし、大切に保管して欲しければ、もっとわかりやすく書いたように思います。隠した人物は、一族の人間であれば解読できると思っていたのかもしれません。結局、ホームズらによって発見されたのが、200年以上後になっていますので、問題設定が、ちょっと難し過ぎたのかもしれません。
まとめ
シャーロック・ホームズの「マスグレーヴ家の儀式」について、原作とドラマのあらすじとネタバレ、感想などをご紹介しました。このエピソードは原作小説とドラマの発端が異なります(“原作とドラマの違い”にて詳説)。
- 発端【小説】ホームズがマスグレーヴの事件を語る
【ドラマ】ホームズとワトスンがマスグレーヴ家へ - 展開マスグレーヴ家の執事が失踪
執事が読んでいた儀式書を解読しある場所へ向かう - 結末行方不明だった執事がみつかる
儀式書の真意と執事の行動を解き明かす
登場人物
登場人物をネタバレありで簡単にまとめます。主人公であるシャーロック・ホームズとワトスン博士は除いています。
名前 | 説明 |
---|---|
レジナルド・マスグレーブ Sir Reginald Musgrave |
マスグレーブ家の当主で貴族の末裔 代々伝わる儀式書を調べていた執事を解雇する |
リチャード・ブラントン Richard Brunton |
執事 儀式書を解き明かすがメイドに裏切られ窒息死する |
レイチェル・ハウェルズ Rachel Howells |
メイド ブラントンと共に隠されたガラクタに辿り着く |
コメント
楽しく読ませて頂いております。設定改変が非常に魅力的なので、個人的に、グラナダ版ドラマで一番好きな話です。
コメントして頂き、とても嬉しいです。