『深淵のテレパス』は2024年8月16日に東京創元社から出版された上條一輝さんのデビュー作です。〈創元ホラー長編賞〉を受賞し、〈このホラーがすごい!2025〉では1位に輝いています。この記事では、ホラーとミステリーの要素を巧みに融合させた作品として注目を集める深淵のテレパスのあらすじや特徴、ネタバレ、感想と考察などをまとめています。
項目 | 評価 |
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【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
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【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
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【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
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【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
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【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
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【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
PR会社の営業部長である高山カレンは、部下の誘いで大学のオカルト研究会が主催する怪談イベントに参加する。イベントで桐山楓という女子学生から奇妙な怪談を聞いた日を境に、カレンの日常は怪奇現象に蝕まれていく――暗闇から響く「ばしゃり」という水音、ドブ川のような異臭、足跡の形をした汚水といった現象など――追い詰められたカレンは、藁にもすがる思いでYouTubeチャンネル「あしや超常現象調査」を運営する芦屋晴子と越野草太の二人組に助けを求める。
主な登場人物
- 芦屋晴子(あしや はるこ)
「あしや超常現象調査」の代表。冷静沈着で理詰めで怪異に対処する頼もしい女性。 行動力と人脈が豊富で、チームを牽引する - 越野草太(こしの そうた)
晴子の助手。最初は頼りないが、物語を通して成長し、推理力や発想力を発揮して活躍する。読者からの共感を得やすいキャラクタ - 高山カレン(たかやま カレン)
怪異の依頼者であり、物語の導入部の視点人物。仕事熱心な敏腕社員 - 犬井椿(いぬい つばき)
超能力者。自身の能力を「しょぼい」と自嘲するが、重要な局面でその能力が活かされる。癖が強く、物語にユーモラスな要素を加える
小説の特徴
関係の無いと思っていた事件が一つに繋がっていく構成で、会話と語りが多く、読みやすいです。序盤はじわじわと怪異が迫るホラーですが、謎解きミステリーやアドベンチャーのような要素もあります。被害者視点と調査員視点が交互に描かれ、怪異に襲われる恐怖と冷静に探求するミステリーの両方を楽しめる。
- 大学のオカルト研究会の怪談イベントが物語の発端
- 高山カレンの自宅マンションでの怪異現象がリアルに描写される
- 幽霊や怪異が実在するか否かというオカルト的要素とそれを科学的に解明しようとするアプローチの融合
- 著者のWebライターとしての経験が活かされた、テンポが良く読みやすい文体
- ホラーでありながら、登場人物たちのコミカルなやり取りや前向きな姿勢がエンタメ性を高めている
- 怖がらせすぎず、程よく現実的な部分とオカルト要素が混ざり合うバランスの良さ
感想
「変な怪談を聞きに行きませんか?」
この一言から始まる『深淵のテレパス』は、小島秀夫さんのXで取り上げられたりして、話題性は抜群です。関係のないと思っていた事件が一つに繋がっていく構成など、読んでいて非常に気持ちが良い作品でした。また、キャラクターが非常に立っており、彼らの活躍を追うのが楽しく感じられます。
ホラー要素は期待していたほどではなかったという感想もあるようです。エンタメ要素の方が強くて、メインの登場人物たちには怪異がそこまで直接的に関係しないなどの内容がホラー要素を感じさせない要因になっているようですが、〈創元ホラー長編賞受賞〉や〈このホラーがすごい!1位〉という功績がそもそも期待値を違った方向に導いている可能性もありそうです。
幽霊や怪異が実在するかしないかはひとまず置いておき、その怪異の退治方法を第一に考え対処するスタイル――怪異を「謎」として捉え、理詰めで対処しようとする姿勢――は、今の時代のホラーといえるのかもしれません。
続編を期待させる内容になっていますので、早く次回作を読みたいところです。
高評価のポイント
- 伏線回収の巧みさ
関係ないと思っていた事件が一つに繋がり、さりげなく登場した小道具や設定が終盤で意味を持つ構成が痛快で気持ちいい! - キャラクターの魅力
芦屋晴子と越野草太の凸凹コンビをはじめ、登場人物が全員個性的でキャラが立っている! - 読みやすさとテンポの良さ
会話と語りが多く、文章が分かりやすい - ホラーとミステリーの融合
怪異を科学的に解明しようとするアプローチが面白い!ホラーが苦手な人でも楽しめそう - 現代的な作風
YouTubeチャンネルを運営する設定や、怪異を理詰めで対処するスタイルが今の時代のホラーっぽい - 続編への期待
謎が残る部分や登場人物の過去が未解明なため、シリーズ化してほしい
低評価のポイント
- ホラー要素の物足りなさ
ホラー要素は期待していたほどではないかもしれません。怖さはマイルド、ガチホラーというよりエンタメ色が濃いです - エンタメ要素の強さ
ホラーとしての深みよりもエンタメ性が先行し、ラノベっぽさがあると感じる人もいるかもしれません - ストーリーの都合の良さ
展開が強引と感じる人もいそうです - 結末の好みの分かれ目
完全に解決しない、謎が残る終わり方に対して好みが分かれそう - 既視感
既視感(どっかで読んだぞ)を覚えるかもしれません - 設定の深掘り不足
一部の要素について説明が弱い、中途半端と感じるかも…
ネタバレ
芦屋と越野は怪異の謎を解明するため、探偵の倉元、そして、しょぼい超能力を持つ犬井達と共に真相に迫っていきます。
調査を進める中で、芦屋たちはカレン以外にも同じ怪談を聞いた参加者が何人もおり、そのほとんどが1ヶ月以内に失踪しているという恐ろしい事実を突き止めます。
さらに、怪異の根源が戦時中に旧日本軍が戸山公園の地下に秘密裏に建設した人体実験施設にあることが明らかになります。怪異の原因は、この施設で実験の犠牲となった太村義一の怨念でした。怪談イベントで語られた「変な怪談」は、太村の怨念が発するテレパシーのようなものであり、特定の条件(鉛筆で名前を書くこと)を満たした者が呪いの対象となる仕組みでした。
- 怪談の正体
桐山楓が語った怪談は、単なる創作話ではなく、彼女が持つテレパス能力によって過去の出来事(太村義一の体験)を「宣託」として受け取ったものでした - 呪いのトリガー
怪異の直接的なトリガーは、怪談を聞いたこと自体ではなく、怪談会で配られた「火星鉛筆」に名前を書いたことでした。この鉛筆が、太村義一の怨念と繋がる媒介となっていたのです - ストーリーの都合の良さ
展開が強引と感じる人もいそうです - 結末の好みの分かれ目
完全に解決しない、謎が残る終わり方に対して好みが分かれそう - 既視感
既視感(どっかで読んだぞ)を覚えるかもしれません - 設定の深掘り不足
一部の要素について説明が弱い、中途半端と感じるかも…
結末
クライマックスでは、芦屋晴子、越野草太、倉元、犬井のチームが地下施設に潜入し、太村の怨念と対峙します。絶体絶命のピンチに陥るものの、越野の機転と犬井のテレパシー能力が決定的な役割を果たし、彼らは辛くも生還します。
怪異の物理的な原因は特定され、対処法もみつかったわけですが、太村の怨念が完全に消滅したわけではないことが示唆されます。
物語の依頼者である高山カレンが、実は職場でパワハラを行っていた上司であったという衝撃的な事実も明かされます 。彼女自身にはその自覚がないようでした。彼女が呪われるのは自業自得なのか?という倫理的な問いです。
最終的な結末は、怪異が完全に解決したわけではなく、その影響が残る可能性や、新たな形で継承されるような不穏な描写(カレンの瞳の色に関する示唆など)を残して幕を閉じます。
次にオススメの小説
- 『残穢』 (小野不由美)
物語の構成や、関係のない事件が一つに繋がっていく点が似ています。じわじわと迫る恐怖と、調査によって明らかになる過去の因縁が好きな方におすすめです - 『リング』/span> (鈴木光司)
呪いの伝播というテーマや、怪異の謎を追う展開が本作と共通しています。日本のホラーの金字塔であり、本作の参考文献にも挙げられています - 『仄暗い水の底から』 (鈴木光司)
水の怪異や、日常に忍び寄る恐怖の描写が本作と共通しており、本作の参考文献にも挙げられています - 『ゴーストハント』シリーズ (小野不由美)
超常現象を科学的に調査するというアプローチが本作と似ています。個性的なキャラクターたちが怪異に挑む姿を楽しめます - 『ぼぎわんが、来る』 (澤村伊智)
現代ホラーの傑作であり、怪異が日常を侵食していく描写や、人間関係の闇が描かれる点が共通しています。本作の推薦者である澤村伊智さんの作品でもあります
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