『踊る大捜査線 THE GAME 潜水艦に潜入せよ!』はバンダイナムコゲームスから2010年7月15日に発売されたニンテンドーDS用のゲームソフトで、踊る大捜査線シリーズの『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』に登場する「潜水艦事件」が描かれています。テレビドラマや映画で直接映像化されたことはなく、ゲームのみのエピソードとなっています。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレなどをまとめています。
あらすじ
2002年3月19日――湾岸署管内の台場1丁目海浜公園で男性の死体が発見される。被害者は頭部を鋭利なもので殴られていた。事件発生を受けて、湾岸署に「台場男性殴打殺人事件特別捜査本部」が設置され、警視庁の室井慎次が指揮を執ることになる。
青島たちの捜査により、被害者の身元が判明。被害者は海上自衛隊の潜水艦「むつしお」の乗組員・清家洋二だった。凶器は潜水艦乗組員が使用する「ピッチングハンマー」であることもわかったが、海上自衛隊は事件に非協力的だった。警察庁と自衛隊の争いも絡み、上層部の判断により捜査本部は解散を余儀なくされる。
同じ頃、湾岸署には、岩城ありさという女性のストーカー被害に関する相談が持ち込まれていた。担当となった恩田すみれは、捜査を通じて、ストーカー男・大谷正樹の部屋からありさの盗撮写真を発見する。その写真に写っていたのは、潜水艦乗組員の清家洋二で、しかも写真は潜水艦の演習場所を示した極秘の海図を渡している場面だった。ありさにスパイ容疑がかかるが、公安の介入により、こちらの捜査は中断されてしまう。
捜査が暗礁に乗り上げる中、室井のもとに清家の血液が付着し、「むつしお」の船体番号が刻まれたピッチングハンマーが匿名の告発文と共に届く。室井は、自衛隊が事件を隠蔽しようとしている現状を鑑み、送り主が「むつしお」の艦長・里中であると推測。里中艦長の協力を得て、青島をコンピュータ技師になりすまさせて潜水艦「むつしお」に潜入させることを決断する。
登場人物
- 青島俊作(織田裕二)
元営業マンの異色な経歴を持つ刑事。本事件では、コンピュータ技師になりすまし、潜水艦「むつしお」に潜入して内部調査を行う潜入捜査官となる - 室井慎次(柳葉敏郎)
警察組織改革を目指すキャリア組の警視。地上から青島に指示を送り、事件全体の指揮を執る。上層部の隠蔽体質に反発する - 恩田すみれ(深津絵里)
男勝りの女刑事。青島が潜水艦に潜入中、地上でストーカー事件の捜査を進める - 真下正義(ユースケ・サンタマリア)
青島を慕うキャリア組の刑事。電子機器に強く、盗聴器発見や画像解析、情報収集などで青島や室井をサポートする - スリーアミーゴス(神田総一朗、秋山晴海、袴田健吾)
湾岸署の所長、副所長、刑事課長。普段は自己中心的でコミカルな振る舞いが目立つ - 和久平八郎(いかりや長介)
元ベテラン刑事。序盤でロスへ出発する - 津田誠吾(柄本明)
事件解決後、公務員職権乱用罪で告訴された青島を弁護する弁護士。潜水艦事件が公式に『容疑者 室井慎次』へとつながる
ネタバレ
潜水艦に乗り込んだ青島は、室井からの指示を受けつつ、艦内で乗組員との交流を通じて情報収集を行います。途中、乗組員の由木航海長と清家の妻・美沙子の不倫疑惑が浮上しますが、由木のアリバイが確認され容疑者からは外れることになります。
真犯人は「むつしお」の乗組員である料理係の男・飛田でした。飛田は、清家が機密情報の取引において報酬を多く要求したこと、そして潜水艦への愛着がない発言をしたことに激怒し、ピッチングハンマーで殺害したことを自白します。飛田は以前から青島を「刑事さん」という渾名で呼んでいましたが、それが図らずも本物であったことに驚きます。
犯行が露見した飛田は逆上し、艦内の武器庫から銃を持ち出し、乗組員を撃って負傷させ、潜水艦をジャックします。そして、清家から入手した東京湾の海底にある潜水艦専用の極秘ルート「湾岸96号線」を使い、東京湾への侵入を企てます。「どうせ撃沈されるなら、最後に歴史に残るような大きなことをしたい」と叫び、潜水艦に搭載された魚雷で東京湾を火の海にしようとします。
この事態を知った地上では、警察庁の上層部が国家の威信と面子を優先し、パニックを避けるという理由で、避難勧告を発令しない決断を下します。これに対して室井は「人命を最優先すべきだ」と主張し、上層部の命令に反発。湾岸署のスリーアミーゴスも「市民を見殺しにはできない」と室井に同調し、命令違反を承知の上で東京湾周辺の市民の避難誘導を開始します。このとき、真下は交通整理、魚住は海上安全確保、恩田は和久と共に逃亡しようとしていたスパイ・ありさを逮捕します。
潜水艦内では、飛田が魚雷に時限爆弾を仕掛け、自爆か東京湾攻撃かの究極の二択を乗組員に迫ります。緊迫した状況の中、青島は飛田を制圧することに成功。しかし、飛田は魚雷の自爆装置と発射管制装置を破壊しており、残された選択肢は潜水艦の自爆のみとなってしまいます。乗組員たちが意気消沈する中、青島が「生きてるうちは戦わなきゃ!」と鼓舞し、艦のメインコンピューターをハッキングして時限装置の解除を試みます。パスワードが必要な状況で、青島は飛田が自己顕示欲が強いタイプだと推測し、彼が大ファンだった声優の名前「UMEDACHIHIRO(梅田ちひろ)」を入力。間一髪で爆弾を解除し、一人の犠牲者も出すことなく事件を解決に導きます。
結末
事件解決後、青島は潜入捜査や指揮権掌握といった行為が「公務員職権乱用罪」にあたるとして告訴されますが、警視庁の依頼を受けた津田誠吾弁護士の手腕により和解が成立し、無罪となります。上層部の命令に逆らった室井に対しても、最終的には公式な懲罰は下されませんでした。
シリーズの繋がり
THE MOVIE2
『THE MOVIE2』の劇中で、青島俊作(織田裕二)と室井慎次(柳葉敏郎)が再会したときに、「2年ぶりだな」「潜水艦の事件以来ですね」という会話を交わします。この『潜水艦の事件』が描かれているのが、ここで紹介するゲームです。
『THE MOVIE2』のエンドロールに、潜水艦を背景に青島と室井が握手しているスチール写真が一瞬映し出されますが、この写真は潜水艦事件の時のものだと考えられています。
事件の発生時期は、公式記録では2002年3月19日とされており、時系列的には『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』と『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003年公開)の間の「空白の5年間」に起きた出来事と位置づけられています。
そんな潜水艦事件は、元々『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』のストーリー候補の一つとして、シリーズ脚本家の君塚良一氏によって考案されたプロットでした。しかし、様々な事情により採用が見送られ、本編の映像としては制作されませんでした。
容疑者 室井慎次
『容疑者 室井慎次』に登場する弁護士・津田誠吾(柄本明)は、潜水艦事件解決後に公務員職権乱用罪で起訴された青島の弁護を担当しました。公式資料であるシナリオ・ガイドブックなどで事件の詳細な設定が記されています。
ゲームについて
シリーズ生みの親である亀山千広プロデューサーが監修、君塚良一氏が原案を務めており、映画やドラマでは描かれなかった潜水艦事件の全容が、メインストーリーとして展開されます。
ゲームは全9章の構成で、各チャプターにはミニゲーム形式の「ミッション」があります。取り調べやハッキング、時にはテレビ修理といった多岐にわたるミニゲームをクリアすることでストーリーが進行する仕組みです。選択肢を選ぶタイプではありません。室井慎次が捜査情報を整理し、容疑者を絞り込む「ロジックモード」もあります。 チャプターを捜査時間内にクリアすると、おまけとして「スリーアミーゴスの日常」というコント形式のショートシナリオも解放されます。
ゲームの難易度は比較的優しく設定されており、ゲームをあまりプレイしない「踊る大捜査線」ファンでも楽しめるよう配慮されています。BGMにはテレビや映画でお馴染みの楽曲が使用されており、シリーズの雰囲気を感じられる作りとなっています。
一部のファンからは、ストーリー上の不自然な点や公式設定との矛盾、ミニゲームによるボリュームの水増しなどが指摘されることもありますが、映画やドラマでは描かれなかった潜水艦事件の全貌を体験できる唯一の作品として、貴重なゲームとなっています。室井の信念や青島の諦めない姿勢が描かれたクライマックスは、シリーズのテーマにも通じる感動的なシーンといえます。
- テレビドラマ『踊る大捜査線』の世界観をゲーム化した作品。キャラクターは本編の俳優をモデルにしたイラストで描かれています。ボイスは収録されていません
- 本庁と所轄の対立といったシリーズのテーマは簡略化されており、事件捜査は主に湾岸署の刑事が中心となって進める
- シリーズのあらすじや登場人物を閲覧できるデータベース機能も充実している
- 初回特典として、カエル急便特製タッチペンが付属していた