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最後の鑑定人|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【岩井圭也】

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最後の鑑定人』は元科捜研のエース鑑定人である土門誠が、民間の鑑定所を舞台に、科学的な手法を駆使して難事件の真相を解き明かしていくサイエンス×ミステリーの連作短編集です。著者は岩井圭也さんで、2025年7月には藤木直人さん主演でフジテレビ系列にてドラマも放送されます。この記事ではあらすじ、ネタバレ、感想などをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

本作は4つの独立した短編で構成されており、それぞれ異なる事件が描かれています。主人公の土門誠が、依頼人から持ち込まれる証拠品を科学的に鑑定し、事件の真相を暴いていきます。

  • 遺された痕
    DNA鑑定の結果が矛盾する女子大生殺害事件。動かぬ証拠があるにもかかわらず無罪を主張する被疑者の裏に隠された、衝撃的な真実が暴かれます
  • 愚者の炎
    火災現場から逃げずに通報した技能実習生の青年が放火犯として逮捕され、その後黙秘を続ける事件。火の痕跡から、青年の悲しい境遇と事件の背景が明らかになります
  • 死人に訊け
    海から引き揚げられた車の中から発見された白骨遺体と高価な宝飾品。12年前に起きた強盗殺人事件との関連が疑われ、土門の卓越した鑑定技術が過去の事件を呼び起こします。このエピソードでは、土門の元妻である尾藤主任も登場します
  • 風化した夜
    自殺した元女性刑事の遺品鑑定を依頼されたことから、土門が科捜研を辞めるきっかけとなった7年前の冤罪事件の真相に迫ります。この物語を通じて、土門の過去の葛藤と、彼が「最後の鑑定人」として科学を信じ続ける理由が深く描かれます

小説の特徴

本作は4つの短編で構成されており、弁護士、判事、刑事、被害者遺族など、各話で依頼人が異なります。そして物語は、それぞれの依頼人の視点で展開されます。事件の解決後には、犯人の独白が挿入されることが特徴で、これにより犯行に至るまでの心理や背景が深く掘り下げられます。

舞台設定

物語の主な舞台は、元科捜研のエースである土門誠が独立して開いた民間の「土門鑑定所」です。警察組織のしがらみから離れた自由な立場で、科学的真実を追求します。科捜研や科警研といった公的機関との連携や対立も描かれ、鑑定のプロフェッショナルたちの矜持がぶつかり合う場面も見どころです。

テーマ

中心となるテーマは「科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間です」という土門の信念です。科学が示す客観的な事実と、人間の感情や思惑によって歪められる「嘘」との対比が描かれます。また、冤罪、報われない労働環境、過去の罪と向き合うこと、そして真実がもたらす悲しみや、それでも前に進むための「赦し」といった、重く普遍的なテーマが各エピソードに織り込まれています。

作風

非常に読みやすい文章で、各エピソードがスピーディーに展開されます。科学的な知識に裏打ちされた鑑定の描写はリアリティがありますし、単なる科学捜査ものにとどまらず、登場人物たちの複雑な感情や人間関係が丁寧に描かれています。

主人公について

主人公の土門誠は「最後の鑑定人」と呼ばれるほどの卓越した鑑定技術を持つ天才です。しかし、その人柄は「偏屈」「無愛想」「奇人」と評され、感情を表に出さず、無駄な話を嫌う合理主義者です。聞き込みが苦手という人間味あふれる一面も持ち合わせています。彼のクールな態度の裏には、過去の「ある事件」で経験した喪失と、それによって培われた「科学だけが唯一信じられるもの」という強い信念が隠されています。元妻である科警研の尾藤主任との複雑な関係性も、彼の人間性を深く掘り下げています。

土門鑑定所の技官である高倉柊子は、心理学を専門とし、人の嘘を見抜くことに長けています。彼女もまた、一風変わった人物で、依頼人に手作りの「まずいハーブティー」を振る舞い、その反応から嘘を見抜くというユニークな習慣があります。土門の冷静さとは対照的に、人間的な感情を観察する彼女の存在が、物語に彩りとユーモアを加えています。

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感想

読み応えがありました。科学的な知識が物語の根幹にありながらも、専門用語が難解すぎることなく、ストーリーに引き込まれます。そして、「科学は嘘をつかない、嘘をつくのは人間」という言葉が、作品全体をピリッと引き締めています。ドラマ化もされますので、続編を大いに期待しています!

個人的には、「死人に訊け」のスピード感や「風化した夜」で描かれた複雑な人間感情などが印象的です。
「死人に訊け」では、海から引き揚げられた白骨遺体から12年前の強盗殺人事件を追う展開に引き込まれました。科学鑑定が次々と真実をあぶり出し、事件が動き出し、土門の類いまれな鑑定技術がみどころとなるエピソードだったと思います。
最終話の「風化した夜」では、あの事件の真相が明かされるにつれて、土門の無愛想な人柄の裏に隠された深い葛藤や、科学への揺るぎない信念がより鮮明に浮かび上がってきます。

高評価のポイント

  • 読み応えとスピード感
    どの話も読み応えがあり、特に「死人に訊け」はスピード感があって面白いと評価されています
  • 科学的知識の裏付け
    歩容、燃焼残渣、DNA鑑定など、科学的知識に裏付けされた展開がリアルで興味深い!
  • キャラクターの魅力
    主人公・土門誠の偏屈ながらも仕事に真摯に向き合う姿勢や、助手の高倉柊子の個性的なキャラクターが魅力的!
  • 読みやすさ
    専門用語が出てくるものの、短いセンテンスや章の区切りが心地よく、スムーズに読み進められる!
  • シリーズとしての魅力
    『科捜研の砦』との時系列の前後関係が、キャラクターの背景や関係性の理解を深め、シリーズとしての面白さを増している

低評価のポイント

  • 結末の悲しさ/後味の悪さ
    真実が明らかになっても必ずしもハッピーエンドではなく、「切ない」「やるせない」「解決しない方が良かったのでは」と感じる場合もありそう
  • 謎解きの意外性の欠如
    ミステリーとしての意外性やトリックが弱い、犯人を予測しやすいと感じる場合もあるかもしれません
  • 二番煎じ感
    「科捜研の女」や「ガリレオ」など、既存の科学捜査ドラマや小説との類似性を感じられなくもない…
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ネタバレ

  • 遺された痕
    女子大生殺害事件で、遺体から検出されたDNAが元交際相手と一致し逮捕されるが、被疑者は無罪を主張。土門が再鑑定を行うと、別のDNA鑑定法では一致しない可能性が高いという矛盾した結果が出る。土門は被害者の父親が、娘の恋人に異常な執着を抱き、その恋人を陥れるために、自身のDNAを現場に残し、さらに被害者の遺体を弄んだという衝撃的な真実を暴き出す。父親の歪んだ愛情と支配欲が引き起こした事件だった
  • 愚者の炎
    技能実習生が住む寮で火災が発生し、通報した青年が放火犯として逮捕されるが、彼は黙秘を続ける。土門は燃焼痕や炭化深度などから火の広がり方を分析し、青年が意図的に放火したのではなく、過酷な労働環境と絶望の中で、自らの存在を燃やし尽くすかのような行為に及んだことを突き止める。火災は、彼が抱える報われない希望と、誰にも届かなかった心の叫びの表れだった
  • 死人に訊け
    海から引き揚げられた車の中から白骨遺体と高価な宝飾品が発見され、12年前の未解決強盗殺人事件との関連が浮上する。土門は遺体の復顔や車に残された微細な砂利、塗料片などを鑑定し、事件の実行犯が遺体であること、そしてその背後にいた真の黒幕を特定する。この事件の捜査を通じて、土門は科警研の尾藤主任(彼の元妻)と再会し、互いの鑑定人としてのプライドがぶつかり合う
  • 風化した夜
    自殺した元女性刑事の遺品鑑定を依頼された土門は、彼女が関わっていた7年前の通り魔撲殺事件の再調査を始める。この事件は、土門が科捜研を辞めるきっかけとなった冤罪事件でもあった。当時の捜査では、警察組織の体裁や思い込みから、無実の路上生活者が犯人として扱われていた。土門は科学的証拠を再検証し、真犯人が、当時女性刑事が目をかけていた少年であり、彼が不遇な生い立ちから抱えた複雑な感情が犯行に繋がったことを突き止める

結末

最終話「風化した夜」では、主人公・土門誠が科捜研を辞職した決定的な理由が明かされます。それは、彼が関わった7年前の通り魔撲殺事件で、警察組織の都合により無実の人物が犯人として扱われ、その結果、事件に関わった女性刑事が自殺に追い込まれたという、重い冤罪事件でした。土門は、この事件の真実を7年越しに科学の力で暴き、真犯人を特定します。

この結末は、土門にとって過去の清算であり、彼が「科学は嘘をつかない。嘘をつくのは、いつだって人間です」という 信念を貫き続ける原点を示しています。真実が必ずしも関係者全員を幸せにするわけではないという苦い現実を突きつけられながらも、土門は事実を明らかにすることこそが、自身の「天職」であり「矜持」であると再認識します。

次にオススメの推理小説

  • 『科捜研の砦』
    続編ですが『最後の鑑定人』の前日譚にあたります。土門誠が科捜研時代に経験した事件や、元妻・尾藤との出会いが描かれています
  • 『追憶の鑑定人』
    シリーズのさらなる続編で、土門の活躍が続きます(2025年9月2日発売予定)
  • 『永遠についての証明』
    著者のデビュー作で、科学と人間ドラマが融合した作品です
  • 東野圭吾『ガリレオ』シリーズ
    物理学者・湯川学が科学の知識で事件を解決する人気シリーズ。土門と同様に天才的な頭脳を持つ主人公が活躍します
  • 中山七里『鑑定人氏家京太郎』シリーズ
    民間の鑑定人が主人公という点で共通点が多く、科学的な視点から事件を解き明かします。また、中山七里の他の作品(『さよならドビュッシー』の岬洋介シリーズや、御子柴礼司シリーズなど)も、人間の闇に迫る点で共通の面白さがあります
  • パトリシア・コーンウェル『検死官』シリーズ
    法医学者ケイ・スカーペッタが主人公の本格ミステリー。遺体や証拠品から真実を読み解く過程が詳細に描かれています

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