『錬金術殺人事件』は絶海の孤島に建つ謎め いた錬金術館を舞台に、財宝探し番組の参加者たちが連続殺人事件に巻き込まれるエピソードです。仮面の怪人「錬金術師」による不可解な犯行と、閉ざされた孤島という極限状況の中、金田一はじめが隠されたトリックと悲しい真相に挑みます。この記事ではあらすじとネタバレ、登場人物、感想などをまとめています。
あらすじ
人気財宝探し番組「財宝を探せ！」の企画で、金田一はじめと七瀬美雪はADのアルバイトとして、タレントや一般参加者、番組スタッフと共に恋琴（れんきん）島を訪れる。この島には、かつて天才物理学者・絵崎蔵人が錬金術の研究に没頭し、莫大な金塊を隠したとされる錬金術館があった。番組の目的は、その金塊を見つけ出すことだった。
参加者たちは奇妙な間取りの錬金術館に宿泊することになる。各部屋の扉は分厚い金属製で、内側からしか鍵がかからないという特殊な構造だった。
――そしてその夜、最初の犠牲者が…。ADの繭村拓也が巨大な剣によって胸を刺され殺害される。監視カメラには、マントをまとい鉄仮面をつけた怪人「錬金術師」の姿が映っていた。
孤島に閉じ込められ、外部との連絡手段も絶たれた状況で、参加者たちの間に疑心暗鬼が広がる。
さらに、タレントの深森蛍、ディレクターの鬼沢龍子、カメラマンの不二森映が次々と「錬金術師」によって殺害されていき、特に深森蛍の殺害は、内側から鍵のかかった部屋で発生し、密室の謎が生じていた。
相次ぐ殺人と不可解なトリック、そしてアイドル速水玲香に容疑がかかる中、はじめは錬金術館の構造や、被害者たちの過去の繋がりの中に事件の糸口を見出していく。やがて、2年前に起きたあるア イドルの自殺事件が、この連続殺人と深く関わっていることが明らかになる。
登場人物
- 金田一はじめ（金田一一）
不動高校の生徒。類稀なる推理力で難事件を解決する - 七瀬美雪
はじめの幼馴染で不動高校の生徒会長。ADのアルバイトとして番組に同行し、事件に巻き込まれる - 速水玲香
人気絶頂のアイドル。特別ゲストとして番組に参加。事件発生後、状況証拠から最も疑われる人物となる - 神丘風馬
宝探し番組の一般参加者。国立歯科大学の学生。冷静沈着に見えるが、ある秘密を抱 えている - 一色理科子
宝探し番組の一般参加者。高校生クイズ王。天才的な知識を持つが、挑戦的な性格。錬金術館の主・絵崎蔵人の娘だと主張する - 深森蛍
タレント。速水玲香の同僚。清純派アイドルとして活動しているが、裏の顔を持つ - 鬼沢龍子
番組ディレクター。通称「鬼龍」。強引で高圧的な性格 - 園光寺忍
番組プロデューサー。金にがめつい一面があるという噂 - 繭村拓也
番組AD。AD歴が長く、要領が良い。最初の被害者となる - 不二森映
番組カメラマン。無表情で寡黙だが、速水玲香の大ファン - 谷河クリスティーナ
番組レポーター兼MC。明るく華やかな雰囲気だが、過去にスキャンダルがあった - 赤柴大樹
お笑いタレント。関西弁を話す。谷河クリスティーナとの関係が疑われる - 美影紗月
速水玲香と深森蛍のマネージャー。元アイドル。芸能界の裏側を知っている様子 - 錬金術師
仮面とマントで全身を隠した謎の怪人。事件の実行犯 - 絵崎蔵人
錬金術館の主。天才物理学者だったが、錬金術に傾倒し行方不明となった - 夕凪はるか
2年前に自殺したアイドル。速水玲香や深森蛍の同僚だった - 剣持勇
警視庁捜査一課の警部。はじめの頼れる味方。事件発生後、島へ向かおうとするが…（原作のみ） - 探偵学園Qメンバー（三郎丸豊、キュウ、メグ、リュウ、カズマ、キンタロウ）
宝探し番組の予選オーディションに登場。金田一と競うが、本編の事件には関わらない（原作のみ）
ネタバレ
事件の真犯人、「錬金術師」の正体は、宝探し番組参加者の神丘風馬です。
神丘風馬の犯行動機は、2年前に自殺した実の妹、夕凪はるかの復讐です。幼い頃に両親を亡くし、施設で育った神丘とはるかは、それぞれ別の家庭に引き取られましたが、兄妹としての絆は続いていました。
その後、人気アイドルとなったはるかは、芸能界で成功しますが、鬼沢龍子、深森蛍、繭村拓也、そして美影紗月（直接的な加害ではないが黙認）によって仕組まれた『覚醒剤スキャンダル』で全てを失い、無実を訴えながらも自殺に追い込まれました。
神丘は、はるかの遺書や手紙からこの事実を知り、妹を死に追いやった関係者たちへの復讐を決意しています。
不二森映はスキャンダルには関与していません。しかし、犯行の隠蔽を目撃したため、口封じで殺害されています。犯人の神丘にとっては想定外の犠牲者でした。
速水玲香に濡れ衣をきせようとしたのは、はるかが出演予定だった映画の代役としてトップアイドルになった玲香が、妹の成功を奪った存在だと誤解していたためです。しかし、玲香がはるかの死を悼み、代役を引き受けた経緯を知り、神丘は自身の誤解を悟り、玲香に謝罪しました。
殺害トリック
- 部屋番号の秘密と密室トリック（深森蛍）
錬金術館の各部屋の番号は、元素周期律表の原子番号に対応していました。深森蛍の部屋は50号室で、これは元素の「錫（すず）」を意味します。錫は融点が約232℃と比較的低く、トーチなどで容易に溶かすことができます。犯人はこの性質を利用し、深森の部屋の金属扉の一部をトーチ（ガスバーナー）で溶かして隙間を作り、そこから手を入れて内側のかんぬきを開けました。犯行後、事前に用意しておいた同じサイズの錫のインゴットパネルをはめ込み、溶かした錫で継ぎ目を埋めることで、扉を元通りにし、密室を作り上げました。犯行時、深森は睡眠薬入りの飲み物を飲んで眠っており、トリックに気づきませんでした - 凶器の行方と不二森殺害
最初の殺人（繭村）に使用された巨大な剣も、融点の低い錫でできていました。犯人は剣を溶かし、繭村の部屋にあった花瓶の中に流し込んで隠しました。固まった錫が入った重いこの花瓶は、不二森を撲殺する凶器として利用されています。いわば上げ底状態ですので、花瓶に挿されていた造花の茎が不自然に短くなっていました。これは、犯人が茎を切り詰めた痕跡であり、この茎が藤森殺害の現場に落ちていました - 鬼沢龍子殺害トリック
犯人は鬼沢龍子の飲み物に下剤を仕込み、彼女がトイレに行くように仕向けました。鬼沢がトイレの個室に入ったところを、天井裏から待ち伏せしていた犯人が襲撃し、殺害しました - くじ引きトリック
深森蛍を計画通り50号室に泊まらせるため、犯人は部屋割りのくじ引きにトリックを仕掛けました。これは買収されたADの繭村が共犯になっています。まず、適当な口実をつくって（若い順と言って）繭村→深森→神丘の順番にくじを引くようにし、繭村がくじを引く際に、50番しか書かれていないくじともともとくじ箱に入っていたくじすべてを入れ替えています。深森がくじを引いたあと、神丘は繭村からもともとくじ箱に入っていたくじを受け取り、元に戻してから50のくじをすべて回収しています。このトリックは、使用済みのくじが回収され、さらに美雪がくす玉の飾りに再利用したことで物証が残っていました。1枚の用紙を破ってくじを作ったはずなので、すべてのくじをつなぎ合わせれば1枚の用紙になるはずですが…50号室のくじだけは仲間外れになっていました。つまり、50のくじだけは複数枚存在したということになります
遺産の行方
錬金術館に隠されていた時価4億円の金塊は、金の原子番号である79番の部屋、つまり速水玲香の部屋の金属扉でした。この扉は純金でできており、メッキで偽装されていたようです。しかし、事件解決後、この金塊は怪盗紳士によって盗まれてしまいました。怪盗紳士は一色理科子に変装していました。
後日談
- 行方不明だった絵崎蔵人は、錬金術館の地下にある秘密の研究室で発見される（実験の失敗によりシロップ状に溶けた遺体だった）
- 美影紗月は、夕凪はるかの事件における自身の行動を悔やんでいました。事件後、彼女が速水玲香のマネージャーを続けているかは不明ですが、後の事件では別の人物が玲香のマネージャーを務めています
- 司会者・谷河クリスティーナが常に抱えていた壺の正体は、最後まで明かされません
- 剣持警部の妻の株の損失は、偶然その株が急騰したことで取り戻され、住宅ローンも無事返済の目処が立ちます
感想・考察
錬金術というテーマと、科学的なトリックが組み合わさったエピソードでした。孤島という閉鎖空間を舞台にした連続殺人は、サスペンス感が高まりますね。部屋番号と元素周期律表を結びつけるアイデアや、融点の低い金属を利用した密室トリックなどがみどころといえいます。
トリックについては、いくつか疑問点もあります。特に、一切痕跡も残さずに錫の扉を溶かして修復するという作業を行えるのか？という点が気になりますね。なんどもリハーサルしたとのことでしたが、かなりの熟練工のような気がします。
原作漫画の序盤では『探偵学園Q』のキャラクターがカメオ出演しています。アニメ版では、探偵学園Qメンバーの登場や剣持警部の登場シーンなどがカットされるなど、いくつかの変更点があります。また、トリックの一部にも整合性を取るための修正が加えられています。
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