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能面検事の奮迅|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【中山七里】

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能面検事の奮迅』は中山七里さんによる〈能面検事〉シリーズの第2弾です。国有地払い下げを巡る疑惑と検察内部の文書改ざん事件を軸に、その裏に隠された20年前の悲劇と人間ドラマが描かれるリーガルミステリーです。現実の社会問題をモチーフにしつつ、著者ならではの「どんでん返し」が光る一冊となっています。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

大阪地検特捜部が捜査に乗り出したのは、学校法人・萩山学園への国有地払い下げに関する不正疑惑。土地が不当に安く売却された背景には、財務局職員・安田と学園理事長・萩山の関係が噂されていた。この疑惑を追っていた特捜部のホープ・高峰検事に、まさかの文書改ざん疑惑が浮上する。

検察内部の不祥事を重く見た最高検察庁は、監察チームを派遣。東京地検の岬次席検事も加わり、能面検事の異名を持つ不破俊太郎も調査チームに招集される。感情を一切表に出さない不破は、組織の思惑が渦巻く中で、この複雑な事件の真相に迫っていく。単なる収賄や改ざんに留まらない、より深いもうひとつの闇へと繋がっていた。

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小説の特徴

緻密な捜査と論理的な推理が展開される本格リーガルミステリーです。社会問題を取り入れつつも、登場人物たちの心理描写や人間ドラマに重点が置かれています。
序盤は現実の「森友学園問題」や「大阪地検特捜部証拠改ざん事件」を彷彿とさせる社会派ミステリーとして展開します。中盤からは、汚職事件だけではなく、登場人物の過去が絡み合い始めます。そして、終盤にはどんでん返しが用意されています。

物語の主要な舞台は大阪地検です。検察内部の派閥争いや、捜査官たちの葛藤がリアルに描かれています。また、過去の事件の舞 台となる大学などは、昭和なノスタルジーを感じさせます。

テーマ

  • 法と情の狭間での正義の追求
    厳格な法と、人間の感情や倫理観が衝突する中で、真の正義とは何かを問いかけます
  • 組織の論理と個人の信念
    検察という組織の論理や出世欲と、不破検事の揺るぎない個人の信念が対比的に描かれます
  • 真実を明らかにすることの意義
    隠された真実を暴くことが、関係者にとってどのような意味を持つのかが示されます

登場人物

  • 不破 俊太郎(ふわ しゅんたろう)
    主人公。大阪地検の一級検事。感情を一切顔に出さないことから能面検事の異名を持つ。証拠と事実のみを追求し、組織の論理や情に流されることなく職務を遂行する。一見冷徹に見えるが、その裏には人間的な情や、不器用ながらも相手を思いやる優しさを秘めている。過去の経験から感情を封じるようになった
  • 惣領 美晴(そうりょう みはる)
    不破俊太郎の検察事務官。感情が豊かで、不破の無表情な言動に戸惑いながらも、彼の行動を観察し、読者の視点に近い形で物語を語る。不破の数少ない理解者の一人
  • 高峰 仁誠(たかみね じんせい)
    大阪地検特捜部の主任検事。国有地払い下げ事件の担当検事だったが、後に決裁文書改ざん疑惑が浮上し、不破の捜査対象となる。安田とは大学時代からの友人
  • 安田 啓輔(やすだ けいすけ)
    近畿財務局の国有財産調整官。学校法人への国有地払い下げに関与し、収賄疑惑がかけられる。高峰とは大学時代からの友人である
  • 荻山 孝明(おぎやま たかあき)
    学校法人萩山学園の理事長。国有地払い下げ問題の中心人物の一人
  • 兵馬(ひょうま)
    国有地払い下げ問題に関与が疑われる有力な現役国会議員
  • 小春(こはる)
    高峰と安田が学生時代に通っていた定食屋「一膳」の看板娘
  • 実花(みか)
    小春の妹
  • 岬 恭平(みさき きょうへい)
    東京地検の次席検事。不破の元上司であり、不破の人間性や仕事の流儀を深く理解している数少ない人物。ピアニスト岬洋介の父親でもある
  • 仁科(にしな)
    惣領美晴の話し相手。情報通で、惣領の心の葛藤や疑問を代弁する役割も担う
  • 榊 次席検事(さかき じせきけんじ)
    大阪地検の次席検事。不破の上司の一人
  • 折伏 最高検検事(しゃくぶく さいこうけんけんじ)
    最高検察庁から派遣された調査チームのメンバー。出世欲が強く、高圧的な態度をとる

読む順番

『能面検事の奮迅』はシリーズ第二弾です。第一弾は『能面検事』ですので、第一弾を最初に読むことをオススメします。

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感想

中山七里さんのストーリーテリングの巧みさを感じます。序盤は特捜部らしい硬い話で、法律用語の多さに苦戦したりもしますが、その先に待っていたのは、予想をはるかに超える人間ドラマでした。そして終盤はどんでん返しです。これで終わり、と思わせてからのさらなる真実の畳みかけは、興奮してしまうほど、たまらないです。

岬検事の登場は嬉しいサプライズでしたし、不破検事の能面ぶりは相変わらずでした。何を考えているのかわからないのはお約束という感じでしょうか。真相に近づくにつれて、また違った一面を見たような気もします。

高評価なポイント

  • どんでん返しが秀逸
    読者の予想を裏切る、複数回のどんでん返しが用意されており、最後まで飽きさせない
  • 一気読みさせる展開
    序盤の難解さを乗り越えると、物語が加速し、ページをめくる手が止まらなくなる
  • 不破検事のキャラクター
    無表情ながらも、その裏に隠された人間味や不器用な優しさ、ブレない信念がある
  • 岬検事の登場
    他シリーズのキャラクターである岬検事が登場し、不破の理解者として良い味を出している
  • 社会派と人間ドラマの融合
    現実の社会問題をモチーフにしつつ、単なる告発に終わらず、登場人物たちの深い人間ドラマを描いている
  • 友情と贖罪
    過去に犯した罪を隠し続ける登場人物たちの友情と、それに対する贖罪の形が深く掘り下げられている

低評価なポイント

  • 序盤の難解さ
    法律用語や専門的な話が多く、序盤で読みにくさを感じる読者がいる
  • どんでん返しがよめる
    中山七里作品を読み慣れていると、どんでん返しが予想できてしまう、あるいは期待ほどではないと感じる人もいる
  • 設定の不自然さ
    死体隠蔽の場所や、文書改ざんの動機、大学の描写などに一部不自然さやご都合主義を感じる
  • モチーフの活かし方
    現実の事件をモチーフにしているが、その社会派要素が薄い、あるいは期待と異なる方向へ物語が進んだと感じる
  • キャラへの不満
    不破検事の活躍が、他の登場人物に比べて物足りない。また、事務官・惣領美晴の感情的な言動や、成長が見られない点にイライラする

ネタバレ

国有地払い下げの真の動機は、20年前に起きた殺人事件の隠蔽にありました。大阪地検の高峰検事と近畿財務局の安田調整官は、大学時代の友人でした。彼らは当時、共通の想いを寄せていた定食屋の看板娘・小春が、ストーカーに襲われ、そのストーカーを殺害してしまった現場に遭遇します。小春の将来を案じた二人は、遺体を廃病院跡地(後に国有地候補地となる)に埋めて隠蔽しました。

その後、安田は遺体が埋まっている土地が国有地として払い下げられるのを避けるため、別の工場跡地を不当に安く払い下げるよう画策します。その事実を知った高峰は、友人を守るために、決裁文書を改ざんしていました。

結末

不破検事の執拗な捜査により、20年前の殺人事件の真相が明らかになります。しかし、ストーカーを撲殺したのは小春ではなく、姉を探しに現場に駆けつけ、姉が襲われているのを見て衝動的に殴り殺した小春の妹・実花でした。小春は妹をかばうため、警察を呼ばないでほしいと高峰と安田に頼んで息絶えていたのです。

不破は、真実を全て暴き出しますが、当時14歳だった実花を不起訴処分とします。これは、罪を問うこと自体が禊となるという不破なりの不器用な優しさであり、法と情の狭間での彼の信念を貫いた決断でした。岬検事もこの不破の判断を理解し、彼の人間性を評価します。

次にオススメの推理小説

  • 『能面検事』シリーズ
    本作の続編である『能面検事の死闘』を読めば、不破検事のさらなる活躍や人間性の深掘りを楽しめます
  • 『さよならドビュッシー』シリーズ
    本作にも登場した岬検事の息子、岬洋介が主人公の音楽ミステリーシリーズ。親子の関係性にも注目です
  • 『御子柴弁護士』シリーズ
    法曹界の裏側を描く、中山七里氏のもう一つの人気シリーズ。不破検事とは異なる視点から「正義」が描かれます
  • 今野敏『隠蔽捜査』シリーズ
    組織の論理と個人の信念の対立をテーマにした警察小説。主人公の竜崎伸也のブレない姿勢は不破検事にも通じるものがあります
  • 柚月裕子『佐方貞人』シリーズ
    徹底した正義を貫く検事が主人公のシリーズ。不破検事と同様に、感情に流されず事実を追求する姿が魅力です
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