メタルギアソリッドシリーズはゲームでありならがらも、冷戦時代から近未来を舞台に、秘密組織や兵器、そして情報の統制を巡る壮大な物語が描かれます。シリーズの中で特に重要なキーワードとなるのが「賢者の遺産」「愛国者達」「らりるれろ」です。メタルギアシリーズの壮大なストーリーは、この「賢者の遺産」を巡る争いから始まり、「愛国者達」による情報統制と、それに抗う人間たちの物語を通して、自由とは何か、情報とは何かというテーマを問い掛けているともいえます。この記事では、それぞれについて詳しく解説しています。
賢者の遺産
「賢者の遺産」とは、メタルギアの正史シリーズに登場する、組織「賢者達」が捻出した莫大な秘密資金を指します。この資金は『メタルギアソリッド3 スネークイーター(2004年発売)』にて初めて登場し、その後の作品でも物語の鍵を握る要素として度々その名前が語られます。
資金捻出の目的は、第一次世界大戦終結時、米国、中国、ソ連の権力者たちが「賢者達」を結成し、大戦勝利のための軍事技術研究開発や諜報活動を共同で推進することにありました。この資金は、第二次世界大戦中に米中ソの重要な資金源として機能し、マンハッタン計画のような原子爆弾開発や宇宙ロケット開発、そして元連合国軍の特殊部隊「コブラ部隊」の創設にも利用されました。
第二次世界大戦中の原子爆弾製造計画である「マンハッタン計画」は、ナチス・ドイツの核開発を恐れたアメリカ、イギリス 、カナダが科学者や技術者を総動員して進めたもので、1942年に着手され、多額の資金が投入されました。賢者の遺産がこの計画の資金源であったことは、その規模と歴史的影響の大きさを物語っています。
大戦終結後、かつて同盟国であった米中ソ三国の賢者達は対立し、遺産の奪い合いが始まります。当初はソ連が独占していましたが、1964年の「スネークイーター作戦」によって、その半分(ヴォルギン大佐の所有分とされる1000億ドル相当)が米国賢者達に奪取されました。しかし最終的には、同作戦の指揮官であったCIAのゼロ少佐という人物がこれを手中に収め、さらに元米国賢者達のスパイであるオセロットの協力によって残りの半分も手に入れました。
愛国者達
ゼロは1970年、賢者の遺産を資金として非政府諜報機関サイファーを創設し、これが愛国者達の前身となります。愛国者達は、伝説の兵士ザ・ボスの遺志を実現するために東西冷戦下のアメリカで誕生した組織であり、ゼロ少佐、ビッグ・ボス、パラメディック、シギント、EVA、リボルバー・オセロットといった「スネークイーター作戦」の関係者たちが創設メンバーとなりました。
「愛国者達」という存在は『メタルギアソリッド2』にて初めてその存在が語られました。当初はザ・ボスの遺志を継ぐという目的でしたが、ゼロの強硬な姿勢や「恐るべき子供達計画」(ビッグ・ボスのクローン作成計画)を巡る対立により、ビッグ・ボスは組織を離反します。その後、メンバーの離反や高齢化などに伴い、80年代以降、組織の運営はシギントが開発した代理AIネットワークに委ねられることになり、これが「愛国者達」の実体となります。組織運営をAIが担うようになって以降は「愛国者達」と名前が変わります。
このAIネットワークは、「J・D」を頂点とし、「G・W」、「T・J」、「A・L」、「T・R」という4つのAIがその統制下に置かれました。AIは「思想・意識の統一化により完成する統一世界」の実現を目指し、予算配分を通じてアメリカ社会のあらゆる領域(政治、経済、文化など)を支配・管理しました。このAIは、高性能化するにつれて人間の無意識を統制し、戦場管理システム「SOPシステム:Sons Of the Patriots」を確立するなど、ゼロの理念とはかけ離れた戦争経済を作り出す存在へと変貌していきます。
FOXHOUNDと愛国者達
FOXHOUNDは、もともとビッグ・ボスとゼロ少佐によって設立されたアメリカ陸軍のエリート特殊部隊です。ソリッド・スネークもかつてこの部隊に所属していました。しかし、この部隊も愛国者達の暗躍の中で翻弄されることになります。例えば、『メタルギアソリッド』では、リキッド・スネークが指揮するFOXHOUNDがシャドー・モセス島を占拠するテロリスト集団と化し、その後の『メタルギアソリッド2』では、解散したはずのFOXHOUNDの指揮官がAIによる偽装であったことが判明するなど、愛国者達の計画のために利用されました。
愛国者達の結末
最終的に、ソリッド・スネークや雷電、そしてビッグ・ボスたちの活躍により、代理AIは破壊され、愛国者達は完全に消滅します。しかし、愛国者達が統制していた情報が自由になったことで、サイバネティック技術の実用化など新たな変革が生まれるます。一方で、戦争経済に慣れ切った社会はSOPシステムに代わる形でサイボーグ技術による戦場の管理へと移行するなど、愛国者達が作り出した「規範」の影響は「愛国者達の息子達(Sons Of the Patriots)」として世界に残され続けることになりました。
らりるれろ
「らりるれろ」は、愛国者達による徹底した情報統制の象徴です。『メタルギアソリッド2』で初めてその存在が語られ、「愛国者達」という単語を口にしようとすると、軍用のナノマシンを注入された人物は、その作用によって無意識のうちに「らりるれろ」という隠語を発するようになります。これは組織の存在自体を秘匿するための仕組みであり、外部の人間には「愛国者達」が「らりるれろ」というコードネームでしか呼べないという設定が存在します。
この情報統制は、MGS2の「ビックシェル占拠事件」において、愛国者達がS3計画のデータ収集のためにソリダス・スネークらを「演習の駒」として利用した際にも見られます。