『魔女裁判の弁護人』は君野新汰さんのデビュー作で、16世紀の神聖ローマ帝国を舞台に、魔女裁判に挑む法学者の青年を描いたリーガルミステリです。この記事ではあらすじ、登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。
あらすじ
法学の元大学教授であるローゼンは旅の途中で、ある村で魔女裁判に遭遇。水車小屋の管理人を魔術で殺したとして告発されたのは、少女アンだった。アンの無罪を信じたローゼンは、法学者として審問し、村の領主に申し出て事件の捜査を開始する。
魔女の存在が信じられ、告発されること自体が死を意味した時代において、法学者の青年が論理的に魔女裁判に挑む。
主な登場人物
- ローゼン
法学の元大学教授。旅の途中で魔女裁判に遭遇し、少女アンの弁護人となる。博識で論理的な思考を持つキレ者 - アン
水車小屋の管理人を魔術で殺したとして告発された少女 - リリ
ローゼンの相棒 - クラ―マー
作中で『魔女の鉄槌』と訳される『魔女に与える鉄槌』の著者。偏った女性観を持つ人物として言及され、魔女狩りの背景を理解する上で重要な存在
ネタバレ
魔女裁判という設定からファンタジーが絡むミステリを想像させます。しかし、作中に登場する魔術や奇跡は、実は当時の人々には理解できない先進的な科学技術や知識に基づいたトリックでした。不可解な出来事は、論理的な思考と科学的な視点によって解明 されていきます。ファンタジーに見えて実はSFというジャンル的なひねりが、本作の最大の魅力の一つです。
感想
史実を巧みに織り交ぜた重厚な世界観と緻密な論理展開が魅力の本作は、本格ミステリの王道を行くかと思いきや、予想を裏切るサプライズが待ち受ける特殊設定ミステリの側面も持ち合わせています。
物語の背景には、史実の1557年ドイツ、アウクスブルグ宗教和議が成立し、宗教改革が一応の終結を見た頃の時代があります。この16世紀の神聖ローマ帝国という時代背景が非常に丁寧に描かれており、世界史に詳しくなくてもスムーズに物語に入り込めます。
文章は平易なラノベ調ではありませんが、読みにくさを感じさせません。硬すぎず、軽すぎない絶妙な文体です。章ごとに視点人物が変わる構成も巧みでした。
主人公ローゼンを追い詰めるキャラクターたちの知能レベルが低くないのも高評価だと思います。探偵役を輝かせるために周囲が急に愚かになるような展開がなく、キレ者同士の頭脳戦が繰り広げられます。
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