『吸血鬼伝説殺人事件』は〈吸血鬼・ヴァンパイア〉が登場するエピソードで、新シリーズの第1巻に収録されています。この事件は、テレビドラマでは2005年9月24日に単発スペシャルとして、テレビアニメでは2007年11月19日にスペシャル第2弾として放送されました。
あらすじ
長期の自転車旅行から戻った金田一一(はじめ)は、幼なじみの七瀬美雪と剣持警部を秋田県の舞蘭村(ぶらんむら)にある廃墟風ペンション「ルーウィン」に呼び出す。このペンションに、かつてはホテルとして営業していたが、3年前に吸血鬼の噂が広まり、それが原因でゴーストタウンと化していた。ペンションでは、はじめの元クラスメイトである貴船葉平がアルバイトとして働いており、金田一たち以外の、宿泊客としては医者の二神育夫やブティックオーナーの海谷朝香、作家の流山森太郎、フリーライターの猫間純子らがいた。
吸血鬼伝説が語られる夜、宿泊客の海谷朝香(かいたにあさか)が美雪の目の前で吸血鬼の仕業に見せかけて殺害される。海谷は首元に吸血鬼に噛まれたような跡があり、体内から血液のほとんどが抜き取られた状態だった。美雪は拘束され、血を抜かれたり髪を切られたりする被害に遭っていた。
さらに、別の宿泊客である医者の二神育夫(ふたがみいくお)も密室で殺害される。死体は美雪の部屋で発見され、現場は大量の血が撒き散らされた状態だった。美雪に容疑がかり、落ち込む中、はじめは美雪の疑いを晴らすため、そして事件の真犯人を突き止めるために捜査を開始する。
登場人物
- 金田一一(きんだいち はじめ)
主人公。美雪にかかった疑いを晴らすため必死の捜査します - 七瀬美雪(ななせ みゆき)
ヒロイン。はじめの幼なじみ。事件のトリックに利用され、血を抜かれたり髪を切られたりするなど散々な目に遭い、容疑者扱いもされる - 剣持勇
警部。美雪と共にルーウィンを訪れます - 湊青子(みなと あおこ)
ペンション「ルーウィン」のスタッフ。ミステリー好きで、金田一にライバル意識を燃やす探偵キャラとして描かれています。幼少期は元ももいろクローバーZの有安杏果が演じています - 緋色景介(ひいろ けいすけ)
ルーウィンの宿泊客の一人。長身で冷徹な視線を持ち、吸血鬼のようだと評されます。物語のキーパーソンである辻由利亜の恋人 - 海谷朝香(かいたに あさか)
ブティック経営者。事件の最初の被害者 - 二神育夫(ふたがみ いくお)
医者。事件の第二の被害者 - 辻由利亜(つじ ゆりあ)
6年前に亡くなったペンションの元のオーナーの娘。血液型は珍しいボンベイ型 - 流山森太郎(ながれやま しんたろう)
廃墟を題材にした小説を書く作家です。ドラマでは報道カメラマンとして登場 - 猫間純子(ねこま じゅんこ)
フリーライター。警察を相手にすることにも慣れており、事件やミステリーに興味津々です - 安池薫(やすいけ かおる
ドラマオリジナルの宿泊客で、事件中に吸血鬼騒動を起こします
ネタバレ
犯人は、ペンション「ルーウィン」のスタッフである湊青子です。動機は6年前に亡くなった姉・辻由利亜の復讐です。
由利亜は青子と同じボンベイ型の血液を持つ希少な血液型でした。由利亜は医師の二神と看護師だった海谷に高額な報酬と引き換えにボンベイ型の少女への輸血を強いられ、その結果衰弱して命を落としていました。青子は二神と海谷を「金儲けのために由利亜を殺した人でなしの吸血鬼」と認識しており、復讐を決意したわけです。
しかし実際には、由利亜は余命わずかであることを知った上で、自らの意思で輸血を決めていました。
トリック
- 海谷朝香殺害のトリック(一人目)
- 実際には地下の物置の一室にカバーやカーテンで簡易的な客室を作り、そこで殺害を実行しています
- 2階の海谷の部屋で犯行があったように見せかけるため、遺体を地下から2階へ移動させています
- 移動には積載制限45kgのエレベーターを使用。海谷の体重をエレベーターの制限内に収めるため、遺体の血を全て抜き、後に戻すことで吸血痕を偽装しました
- トリック実行のために一時的に容疑者となるはずだった美雪の体重が47kgで制限を超過していたため、苦肉の策として美雪の髪を5cmほど切って体重を調整し、エレベーターを動かしました。抜かれた血は風呂に混ぜて処分されました
- なお、美雪が部屋の電気コードが部屋の真ん中を横切っていたのを目撃していたことが、地下の偽装現場の存在を暴く手がかりとなります
- 二神育夫殺害のトリック(二人目)
- 「困難の分割」という考え方を応用したトリックです
- まず、美雪の部屋のドアの隙間から血を流し込み、部屋の床を血まみれにしました
- 血まみれの部屋を見た美雪が驚いて皆を呼びに戻った隙に、あらかじめ用意しておいた二神の遺体を部屋に運び込みました
- 美雪が一人で部屋に戻るようにするため、金田一の自転車のタイヤをズタズタにしてすぐに発見される場所に放置し、金田一たちをそちらに引きつけました
- 朝食時に美雪の椅子の背もたれに血をつけ、彼女が着替えに戻るように仕向けたのも、遺体移動のタイミングを計るためでした
この事件ではボンベイ型(ボンベイタイプ)という珍しい血液型がキーになっています。この血液型は、通常の血液型検査ではO型と判定されますが、O型の血液を輸血できず、ボンベイ型の血液しか輸血できないという特性があります。
原作漫画とドラマやアニメの違い
- 金田一のキャラクター設定
- ドラマ版
金田一が「殺人事件を解いたことのない」という設定で、最初のうちは事件解決に乗り気でない金田一少年が描かれています - アニメ版
金田一は旅に出ておらず、最初から美雪たちと行動を共にしています - 登場人物の変更や役割
- ドラマ版
安池薫というオリジナルキャラクターが追加され、吸血鬼騒動の犯人として描かれています。また、流山森太郎の職業が作家からカメラマンに変更され、剣持警部と金田一は初対面という設定です(KAT-TUNの田中聖と中丸雄一が陸上部員役で出演していましたが、再放送時には田中聖の逮捕により出演シーンが全カットされ、説明がテロップで補われました) - アニメ版
二神育夫は二神育子に、海谷朝香は海谷政夫に変更され、被害者が二神育子一人に変更されています。流山森太郎や貴船葉平は登場しません。また、猫間純子の職業がTVリポーターに変更されています - トリックや物語の描写
- ドラマ版
美雪が猫間によって階段から突き落とされるシーンが追加されています。金田一が床板を踏み外す代わりに、美雪の一本背負いで床板が壊れる場面もあります - アニメ版
美雪が辻由利亜と容姿がそっくりという設定が追加され、美雪が吸血鬼と疑われる一因となっています。金田一が全裸で入浴中に悲鳴を上げる場面は、着替え中に変更されています - 真相解決後の展開
- ドラマ版
青子は病室で目覚めた後、由利亜を本気で愛していた緋色に対して感謝の気持ちを述べています - アニメ版
青子は緋色への謝罪をせず、美雪に謝罪するシーンに変更されています。緋色が過去に自殺を試みていた設定がなくなり、由利亜の死後は彼女の妹を探していたとされます