『共犯者』は松本清張の短編小説で、銀行強盗を働き成功した男性実業家が過去の共犯者からの脅迫を恐れるあまり自滅していく物語となっています。2015年9月30日にテレビ東京系列で放送された観月ありささん主演のスペシャルドラマは、この短編を原作としていますが、主人公が美容整形と殺人の秘密を抱えながら化粧品会社の社長として成功した女性に変更されています。この記事では、2015年版ドラマ『松本清張特別企画 共犯者』のあらすじ、登場人物、ネタバレ、原作小説との違いなどをまとめています。
あらすじ
化粧品会社「ニンファ・ミワ」の社長・内堀美輪(観月ありさ)は、その美貌とカリスマ性でメディアの寵児となっていた。
7年前、美輪は自分の容姿に強いコンプレックスを抱き、常にマスクで顔を隠して生きる美容整形外科の清掃員だった。ある日、院長である秋月義彦(寺島進)に素顔を見られたことをきっかけに、秋月の勧めで最新の整形手術を無料で受けることになる。その手術は成功し、誰もが羨む美貌を手に入れた美輪は、人生が生まれ変わったかのように感じ、やがて恩人である義彦と結婚する。しかし、優しかったはずの義彦は本性を現し、美輪の行動をすべて管理し、意に沿わないと暴力を振るうようになってしまう。
自由を奪われた絶望の日々の中、美輪の唯一の心の支えとなったのが、秋月家に出入りする造園業者の町田武治(山本耕史)だった。虐待される美輪の姿を見ていた武治は美輪に優しく接し、二人は次第に惹かれ合い、秘密の関係を持つようになる。
ある夜、ささいなことから義彦の怒りを買い、激しい暴行を受けていた美輪。そこへ駆けつけた武治は美輪を助けようとするが、ゴルフクラブを手にした義彦と揉み合いになり、二人で義彦を殺害してしまう。美輪は殺人を隠蔽するため、武治に金庫にあった5000万円を渡し、「二度と会わない」と告げて彼を逃がす。
それから10年弱が経過し、美輪は社長として華やかな成功を収めていたが……、ネットで「本当の内堀美輪を知っている」という書き込みをみつけてしまう。恐怖に駆られた美輪は、偶然出会った自身のファンを名乗る元探偵・竹岡良子(仲里依紗)に、自分を恨んでいるであろう共犯者・武治の素行調査を依頼する。
登場人物とキャスト
- 内堀美輪(観月ありさ)
主人公。化粧品会社「ニンファ・ミワ」の社長。過去に整形手術で美貌を手に入れ、夫殺しという罪を犯した。成功の裏で常に過去が露見することに怯えている。自らを、魔法が解ければ泡になって消える「人魚姫」に重ねている - 竹岡良子(仲里依紗)
美輪の熱狂的なファンを装って近づく元探偵。調査能力は非常に高いが、その内には美輪への羨望と嫉妬が渦巻いている。物語の後半、美輪を脅かす「新たな脅威」として立ちはだかることに - 町田武治(山本耕史)
美輪の共犯者。元造園業者でミュージシャンを目指していた。美輪を純粋に愛し、彼女の整形の秘密を知ってもその想いは変わらなかった。美輪から受け取った金でバーを開業する - 秋月義彦(寺島進)
美輪の元夫で、彼女を整形させた美容整形外科医。結婚後は美輪を支配し、暴力を振るうDV夫と化し、最終的に美輪と武治によって殺害される - 島尾健作(大地康雄)
警視庁の刑事。 7年以上もの間、秋月義彦殺害事件を単独で追い続けている。物取りの犯行という見立てに疑問を持ち、美輪に疑いの目を向けている - 村田桂子(YOU)
美輪の忠実な秘書。美輪の過去を知らないながらも、公私にわたって彼女を支え続ける
ネタバレ
美輪から武治の調査依頼を受けた元探偵の良子は美輪の「元DV恋人」という説明に不審を抱き、独自に7年前の義彦殺害事件に辿り着きます。そして良子は美輪を試すため、巧妙な罠を仕掛けます。
まず「武治の店が経営難に陥った」と嘘の報告で美輪の不安を煽り、次に「T」と名乗って500万円を要求する脅迫状を送付。美輪が恐怖から要求に応じると、今度は突き飛ばすなどして、精神的に追い詰めていきます。
完全に良子を信じ込んでいる美輪は「武治が東京に潜伏している」という嘘の情報を掴まされることになります。自身の破滅を恐れた美輪は、武治を殺害することを決意し、ナイフを手に良子から教えられたアパートへ向かいます。しかし、部屋で待ち構えていたのは良子でした。そこで、良子は全ての脅迫が自分の仕業であったことを明かします。そして、武治は美輪を恨むどころか、成功した姿を遠くから見守りたいと願うほど感謝していたという衝撃の事実を告げます。真実を知り逆上した美輪は良子に襲いかかりますが、あっけなく制圧されます。
殺人未遂という弱みを完全に握られた美輪は、良子の要求を呑むしかありませんでした。良子は会社の役員の座を手に入れると、その立場を利用してマスコミに美輪の整形をリーク。「自社の技術力の証明」という名目で美輪を広告塔に仕立て上げ、彼女のカリスマ性を完全に破壊します。
社会的地位を失った美輪に追い打ちをかけるように、良子は会社を辞め、武治に急接近して恋人関係になります。武治と良子の親密な様子を目の当たりにした美輪は、激しい嫉妬に駆られ、武治の愛を取り戻したいという思うようになります。
結末
精神的な限界に達した美輪は武治と良子の殺害決意。武治の家に侵入します。しかし、武治を愛するが故に、最後の一線を超えることはできません。そんな美輪の葛藤と行動の一部始終を、実は島尾刑事が監視していました。美輪と武治の関係を確信し、逮捕状を準備していた島尾が部下と共に踏み込み、美輪は殺人未遂の現行犯で逮捕されます。こうして、美貌と成功というかりそめの幸せを築き上げた美輪の人生は、静かに泡となって消え去ります。
原作小説とドラマの違い
2015年のドラマ版は原作の「過去の罪に怯える共犯者が、疑心暗鬼から自滅する」という骨格は継承しつつも、主人公の性別をはじめ、犯罪の動機、物語のテーマなどを大きく変更しています。原作が純粋な心理サスペンスであるのに対し、ドラマ版は整形、DV、不倫、そして嫉妬といった現代的な要素と「人魚姫」のモチーフを加え、より複雑な人間模様が絡む愛憎サスペンスとなっています。主な違いは下記の通りです。
テーマについて
- 原作
共犯者からの脅迫を一方的に恐れる「疑心暗鬼」が引き起こす自滅の物語 - ドラマ版
共犯者への「愛」と、その愛を脅かす存在への「嫉妬」が引き起こす破滅の物語
事件の設定について
- 原作
主人公は男性の実業家「内堀彦介」。共犯者は元同僚の「町田武治」。罪は金銭目的の「銀行強盗」。探偵は主人公が雇った男性探偵「竹岡良一」で、主人公の異常さに気づき、罠を仕掛けて破滅に導く - ドラマ版
主人公は女性<の化粧品会社社長「内堀美輪」。共犯者の「町田武治」は彼女の恋人という設定。罪は夫からのDV(家庭内暴力)から逃れるための「夫殺し」。探偵は主人公のファンを装う女性の元探偵「竹岡良子」。彼女自身が主人公を脅迫し、社会的地位や恋人まで奪い尽くす第二の脅威となる
感想
ネットでの匿名の書き込みやSNSが人の社会的生命を脅かすという、現代ならではの恐怖が織り交ぜられたサスペンスでした。封印したはずの過去が、新たな人間関係によって暴かれる…。そんな出来事に直面した主人公の心理的に追い詰められていく様子が見事に描かれていたと思います。
「人魚姫」というモチーフはこの物語を的確に言い表しているといえます。過去(声)を捨ててでも手に入れたかった美貌と成功(人間の足)でしたが、それによって武治(王子)との幸せを得ることはできず、最後は自ら招いた新たな脅威によって全てを失い、泡となって消えています。
観月ありささん、仲里依紗さん、山本耕史さんらキャスト陣の説得力のある演技もみどころのひとつです。特に仲里依紗が演じる竹岡良子の存在感は印象深いです。竹岡は主人公の罪を暴く探偵役のようなキャラと、主人公の幸せを妬む犯罪者のようなキャラを併せ持つ、まさに現代的な悪役という感じでした。ドラマ『アンチヒーロー』に登場する明墨(あきずみ)のような印象です。粘着質で計算高い行動には不快感と恐怖がありました。