鮎川哲也氏が手がけた初期の代表作『黒いトランク』は戦後間もない日本を舞台としたミステリー小説です。この記事では、あらすじ、感想、ネタバレなどをまとめています。
項目 | 評価 |
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【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
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【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
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【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
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【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
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【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
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【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
1949年・昭和24年の暮れ、東京の汐留駅に到着した不審な黒いトランク。トランクからは異臭が漂い、開けてみると中には若い男性の腐乱死体が詰められていた。警察はすぐに捜査を開始し、福岡に住む近松という男がトランクの発送主であることを明らかにするが、近松はすでに服毒自殺を遂げていた…。
ところが、近松の未亡人である由美子の知己で、警視庁の鬼貫警部がこの事件に疑問を抱き、独自の捜査を開始する。鬼貫は、東京と北九州を往復しながら、事件の関係者たちに聞き込みを行い、その過程で、近松が「青ずくめの男」という謎の人物と行動を共にしていたこと、そして、全く同じトランクがもう一つ存在することが明らかになり。
容疑者として浮上した人物には、鉄壁のアリバイが存在し、鬼貫は、様々な証言、電車や船の時刻表、地図などを駆使して、少しずつ真相に近づいていく。
小説の特徴
- 物語の構成:
複雑な物語構成でありながら、論理的な整合性が保たれている点が特徴です。捜査が進むにつれて、徐々に真相が明らかになっていきます - 舞台設定:
舞台は戦後間もない1949年の日本。当時の社会情勢や人々の暮らしが色濃く反映されており、鉄道輸送が重要な役割を果たしています。夜行列車、三等船室、配給の白インゲンを使った駅弁など、昭和二十年代の旅情もたっぷり味わえます。
また、地理・地名・駅名がトリックの重要な要素となっており、当時の時刻表や地図を参考にしながら読むことで(読むことができたら)、より深く理解できそうです - テーマ:
時刻表トリックと巧妙なアリバイ工作がミステリー要素といえ、その裏には、登場人物たちの過去や感情が隠されており、事件の真相が明らかになるにつれて、その悲しい動機が浮かび上がってきます。社会問題を扱っているという印象はあまりないですが、戦後の混乱期における人々の価値観や倫理観の変化が、物語のテーマのひとつかもしれません - 作風:
緻密な論理に基づいた本格ミステリーでありながら、旅情豊かな描写や、登場人物たちの人間模様も丁寧に描かれています - 主人公:
主人公の鬼貫警部は、冷静沈着で論理的な思考力を持つ一方、情に厚く、人間味あふれる人物です
感想
緻密なトリックと複雑なアリバイということで、何度も読み返してしまいました。時刻表に詳しくはないですが、鬼貫警部の推理を追ううちに、徐々に真相が見えてくるのが面白かったです。戦後間もない時代の空気感や、登場人物たちの人間模様も魅力的でした。
高評価のポイント
- 時刻表トリックとアリバイ崩し:
複雑な時刻表トリックと、それを覆い隠す巧妙なアリバイ工作が大きな魅力です!知的好奇心を刺激されますね! - 戦後間もない日本の時代背景:
戦後の混乱期における社会情勢や人々の暮らしが描かれています!当時の風俗や文化、価値観などが、事件の背景になっており、ミステリーとしての面白さだけでなく、時代小説のような気分も味わえます - 意外な展開と読み応えのあるストーリー:
一見単純な事件から始まり、徐々に複雑化していきます。二転三転する展開や、予想を裏切るトリックに最後まで飽きません! - 登場人物の心情描写:
主人公の鬼貫警部をはじめ、登場人物たちの心情が丁寧に描かれています!鬼貫が、かつて想いを寄せていた女性と再会し、複雑な感情を抱く様子なんかも読みどころのひとつだと思います!
低評価のポイント
- トリックが複雑:
時刻表トリックやトランクの移動など、複雑な設定が多く、理解するのに苦労するかもしれません - 時刻表や地名に馴染みがないと難解:
時刻表トリックや地名がトリックの重要な要素になっています。時刻表や地名に馴染みがないとなおさら理解が難しいかもです… - 動機が薄弱:
トリックの巧妙さに比べて、犯人の動機が弱いと感じるかもしれません…特に、現代の読者にとっては動機を理解しにくいかも
ネタバレ
近松の同級生である蟻川耕三(ありかわ・こうぞう)が犯人です。蟻川は由美子に横恋慕し、由美子が近松と結婚したことで不幸になっていると考え、犯行に及んでいます。トリックは、同じトランクをふたつ使い、途中で死体の入ったトランクと空のトランクを入れ替えていました。
- トランクの入れ替え:
蟻川は、汐留に送るトランクとは別に、全く同じトランクを用意していました。そして、札島駅でこの2つのトランクを入れ替えます - X氏の正体:
青ずくめの男「X」は、蟻川が変装した姿でした。彼は、変装して、近松の妻である由美子に近づき、由美子にアリバイを証言させることで、自身の犯行を隠蔽しています - アリバイ工作:
蟻川は列車や船の時刻表を調べ上げ、犯行時刻には、自分が別の場所にいたように見せかけています - 手紙:
別府(べふ)と別府(べっぷ)という地名を利用して、由美子に宛てた手紙を送り、由美子を混乱させています
結末
鬼貫警部は、綿密な捜査の結果、蟻川のトリックを見破り、彼を追い詰めます。追い詰められた蟻川は、ついに犯行を自供。彼は、由美子に宛てた手紙で、犯行の動機やトリックの詳細を告白します。しかし、蟻川は、逮捕される前に青酸カリを飲んで自殺してしまいます。
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『りら荘殺人事件』など、鮎川哲也の他の作品も、緻密なトリックなどが魅力です - 時刻表トリックを使ったミステリー:
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松本清張の『点と線』など、戦後の社会情勢を背景にしたミステリーは当時の人々の生活や価値観を知ることができます
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