『シリーズ横溝正史短編集4 金田一耕助悔やむ』第3話『湖泥(こでい)』はNHKBSで2025年5月22日(木)夜8:30に放送のドラマです!この記事では、あらすじや登場人物とキャスト、ネタバレ、感想などをまとめています。
あらすじ
三方を山に囲まれ、治水ダム湖にその多くが沈んだ僻村。この村では、古くから「北神家」と「西神家」という二大勢力が激しく対立していた。最近では、北神家の跡取り息子である北神浩一郎と、大陸からの引き揚げ一家である御子柴家の娘・由紀子の婚約を巡り、西神家の跡取り息子・西神康雄が横槍を入れたことで、両家の確執はさらに深まっていた。
そんな中、由紀子が突如として失踪する――。
由紀子は旧暦9月十三夜の晩、隣村の祭りに出かけたきり帰らなかった。祭りからの帰路、山裾の道は人通りが多かったにもかかわらず、由紀子を目撃した者は誰もいなかった。山越えの近道を通ったと証言する北神九十郎は、酔っていたためか特に何も気づかなかったという。康雄は隣村の親戚宅で泥酔して泊まり込み、浩一郎は祭りに行かず、山越えの道の登り口にある水車小屋で夜中まで米をついていた。
由紀子の失踪から5日後、金田一耕助は岡山県警の磯川警部と共に捜査に加わる。由紀子の弟が自宅の庭で、浩一郎から由紀子宛ての「祭りの夜、水車小屋で待っている」という内容の手紙を見つけるが、浩一郎は手紙を書いたことも由紀子が来たことも否定する。
手紙には一度開封されたような痕跡があった。さらに、湖面からは由紀子の帯が発見され、警察は由紀子が湖に沈んでいると推測し、捜索を続ける。
金田一は、湖畔にぽつんと建つ一軒家(北神九十郎の小屋)に鳥が集まっていることに気づき、磯川警部と共にその家へ向かう。そこで発見されたのは、無残な姿となった由紀子の遺体だった。遺体は全裸で、左目が抉り取られていた。由紀子は精巧な義眼をはめていたため、村人は誰も気づいていなかったのだ。
小屋の主である九十郎は、遺体は自分が湖で拾い上げたもので、蘇生させようとしたと供述するが、その言動には不審な点が多く、死姦の疑いで逮捕される。
その後、村長の妻・志賀秋子も行方不明になっていたことが判明。由紀子を呼び出した偽手紙の筆跡が西神康雄のものであることもわかいr、康雄は村長の後妻・秋子に唆されて由紀子を襲う計画を立てていたことを自白する。
また、浩一郎も村長の妻・秋子と不倫関係にあり、祭りの夜に水車小屋で密会していたことを認める。浩一郎は秋子と別れて水車小屋に戻った際、由紀子の死体を発見し、自分に疑いがかかることを恐れて湖に沈めたと供述する。
やがて、秋子の絞殺体が山中で発見され、その近くには義眼が落ちていた痕跡が見つかる。二つの事件が繋がり、義眼の行方が事件解決の鍵となる。
登場人物
- 金田一耕助 池松壮亮
独特の風貌と推理力を持つ私立探偵 - 磯川警部 くっきー!
岡山県警の警部。金田一と共に事件捜査にあたる - 御子柴由紀子 ジュリアンヌ
大陸からの引き揚げ一家の娘。村一番の美人で、北神浩一郎と婚約していた。左目に義眼をはめている。事件の最初の被害者 - 北神浩一郎 井之脇海
北神家の跡取り息子。由紀子の婚約者。村長の妻・秋子と不倫関係にある - 西神康雄 こだまたいち
西神家の跡取り息子。由紀子に好意を抱いており、秋子に唆されて由紀子を襲う計画を立てる - 北神九十郎 宇野祥平
満州からの引き揚げ者。村外れに一人で住んでおり、村人からは「敗戦ボケ」として無視されている - 志賀恭平(村長) 嶋田久作
村長。後妻の秋子が行方不明になり、事件に巻き込まれる - 志賀秋子(村長の妻) 夏帆
村長の後妻。浩一郎と不倫関係にあり、由紀子と浩一郎の婚約を阻止しようと画策する。事件の第二の被害者 - 清水(駐在巡査) 濱田龍臣
村の駐在所の巡査 - 木村(刑事) 片岡哲也
事件捜査にあたる刑事。 - 由紀子の弟 不明
浩一郎から由紀子宛ての偽手紙を発見する
真相(ネタバレ注意)
事件の真犯人は、村人から存在を無視されていた北神九十郎でした。彼は村の人間関係や出来事を冷静に観察しており、村長の後妻・秋子と西神康雄が由紀子を巡って企てた計画を偶然立ち聞きしてしまいます。この計画を、自身が長年村から受けた蔑みへの復讐に利用することを思いつきます。
九十郎は秋子から由紀子への偽手紙を預かると、密かに開封して内容を確認します。そして、手紙を由紀子に渡した後、隣村へ行き、祭りで酒を飲んでいた康雄の酒に睡眠薬を混ぜて眠らせ、人目につかない林の中へ運び込みます。これは、由紀子が水車小屋へ来た際に康雄に見つからないようにするためでした。
水車小屋へ行くと、秋子に呼び出されて不在の浩一郎の代わりに、手紙の指示通りにやってきた由紀子だけがいました。九十郎はためらいなく由紀子の首を絞めて殺害します。由紀子の左目の義眼が不自然に光るのを見て、九十郎はそれを抜き取ります。
次に九十郎は村長宅へ向かい、浩一郎が立ち去るのを待ちます。そして、村長が浩一郎との関係を知って激怒してい ると秋子に嘘を言い、身を隠すよう唆して村外れの間道へ連れ出します。そこで秋子を絞殺し、遺体を穴に埋めます。この時、由紀子の義眼を持っていることに気づき、それも一緒に埋めます。
さらに、村長のポケットに秋子と浩一郎の密通を告発する密告状を忍ばせ、村長を怒らせることで事件をできる限り混乱させようとします。
一連の犯行を終えて帰宅した九十郎は、浩一郎が湖に沈めた由紀子の死体が自分の家の前に流れ着いているのを発見します。九十郎は死体に対して汚らわしい欲望を感じると同時に、死姦の罪で逮捕されることで、殺人容疑から逃れる煙幕にしようと考えます。しかし、片目を抉り取られた由紀子の顔に耐えられず、前夜に埋めた義眼を掘り起こしに行きます。
金田一は、「栓を必要とするものは、その栓のしっくり合う容器の持ち主」という言葉を引用し、義眼を持っている人物こそが犯人だと確信します。九十郎の小屋を調べても義眼は見つかりませんでしたが、金田一は九十郎に「義眼を見つけた」とブラフをかけます。その言葉に動揺し、敗戦ボケのふりをやめた九十郎は村への積年の恨みと、村に汚名を着せるために事件を起こしたことを叫び、自供します。金田一が見せた義眼は、実は岡山の医大から借りてきた偽物であり、九十郎の自供を引き出すための「インチキ」でした。
動機
九十郎の動機は、村人から長年無視され、人間扱いされなかったことへの深い恨みと、村全体への復讐心でした。彼は、村の有力者である北神家と西神家、そして村人たちが世間から軽蔑されるようなスキャンダラスな事件を起こし、村の評判を地に落とすことで溜め込んだ恨みを晴らそうとしていたわけです。
感想
「湖泥」は、横溝正史作品らしい因習に囚われた村を舞台に、意外な犯人とその衝撃的な動機が描かれる短編でした。特に、村人から「インヴィジブル・マン」として扱われていた九十郎が、その存在の薄さを逆手に取って犯行を遂げるという構図が秀逸です。彼の犯行の動機である村への復讐は、現代の感覚からすると理解しがたい部分もありますが、閉鎖的な村社会における差別や疎外感が生み出した悲劇として描かれており、横溝作品ならではの暗く歪んだ人間ドラマが展開されます。
ドラマ版では、宇野祥平さん演じる九十郎の、普段の茫洋とした雰囲気と、真実が暴かれた時の狂気に満ちた叫びのギャップが強烈な印象を残しました。また、金田一が義眼のブラフを使って犯人を追い詰めるシーンは、原作の巧妙なトリックを視覚的に面白く表現しており、見どころの一つです。灰色がかった映像や不穏な音楽といった演出も、作品の持つおどろおどろしい雰囲気を高めていました。
原作では九十郎の妻の病気や、九十郎が由紀子の死体に対して抱いた感情など、より生々しい描写がありますが、ドラマ版でもそれらを匂わせる表現があり、九十郎の歪んだ心理が伝わってきました。全体を通して、短編ながらも濃密な人間ドラマと意外な真相が詰まった、見応えのあるエピソードだったと感じます。
その他のエピソード
第1話と第2話は別のページにまとめています!
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