『カササギ殺人事件(Magpie Murders)』は2019年に「このミステリーがすごい!」や「本屋大賞翻訳小説部門」などで第1位に輝き、高い評価を受けた推理小説です。2022年7月にはこの小説を原作としたドラマも放送されています。この記事では、あらすじと登場人物、ネタバレ、感想、原作小説とドラマの違いなどをまとめています。
項目 | 評価 |
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【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
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【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
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【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
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【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
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【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
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【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
上巻のあらすじ
1955年7月の英国の片田舎。サマセット州のパイ屋敷で、村人から煙たがられていた家政婦メアリ・ブラキストンが、鍵のかかった屋敷の階段から転落死する。警察は事故と判断するが、村中では息子のロバートによる殺人の噂が広まる。その後、屋敷の主人である准男爵サー・マグナス・パイが首を切断されて惨殺されるという第二の事件が発生。この連続死に不審を抱いた名探偵アティカス・ピュントは、助手のジェイムズ・フレイザーと共に捜査を開始する。村人全員が何かしらの秘密や動機を抱えている中、ピュントは次々と関係者への聞き取りを進め、ついに真相に到達する……。
下巻のあらすじ
現代のロンドン――作中作『カササギ殺人事件』を読み進めていた出版社の編集者スーザン・ライランドは 、肝心の結末部分の原稿がないことに憤慨する。そんな中、『カササギ殺人事件』の作者であり、人気ミステリー作家のアラン・コンウェイが自宅屋上から転落死したというニュースが飛び込んでくる。警察は自殺と判断しますが、アランの死に疑問を持ったスーザンは、失われた原稿を探しつつ、自らアランの死の真相を探り始める。アランの周囲の人々が作中作の登場人物と酷似していることに気づいたスーザンは、二つの事件の関連性を探る。
登場人物
作中作『カササギ殺人事件』の登場人物(1955年の英国)
- アティカス・ピュント
脳腫瘍により余命3ヶ月を宣告された名探偵。ドイツ出身で、几帳面な小柄な男。冷静かつ鋭い観察眼で事件の真相に迫る - ジェイムズ・フレイザー
ピュントの助手兼秘書 - サー・マグナス・パイ
殺害されたパイ屋敷の主人。村人から嫌われている - メアリ・ブラキストン
パイ屋敷の家政婦。階段から転落死。村人のゴシップを書き留めていた - ロバート・ブラキストン
メアリの長男。母との口論が目撃されている - ジョイ・サンダーリング
ロバートの婚約者。ピュントに捜査を依頼 - クラリッサ・パイ
マグナスの双子の妹。屋敷を追い出され兄を恨んでいる - フランシス・パイ
マグナスの妻。若い男と浮気している - チャブ警部補
バース警察の刑事。ピュントの旧友 - その他村人(牧師夫婦、医師夫婦、骨董品屋夫婦、庭師など)
現実世界の登場人物(現代の英国)
- スーザン・ライランド
クローヴァーリーフ・ブックスの文芸編集者。アラン・コンウェイの担当。下巻の探偵役。ミステリー小説をこよなく愛し、素人ながらも、持ち前の好奇心と推理力で複雑な謎に挑む - アラン・コンウェイ
アティカス・ピュントシリーズの作者。転落死する - チャールズ・クローヴァー
クローヴァーリーフ・ブックスの最高経営責任者 - ジェイムズ・テイラー
被害者アランの恋人。ピュントの助手フレイザーのモデルとされる - メリッサ・コンウェイ
アランの元妻。ピュントのモデル - クレア・ジェンキンズ
アランの姉。クラリッサ・パイのモデルとされる - アンドレアス・パタキス
スーザンの恋人。ギリシャ人。アランの元同僚 - リチャード・ロック警視
アランの死の事件を担当する警視 - その他アランの周辺人物(ウェイター、プロデューサーなど)
小説の特徴
最大の特徴は二重の「劇中劇(作中作)」構造にあります。上巻では、ほぼ全てが、アラン・コンウェイ作のミステリー小説『カササギ殺人事件』です。下巻は、その小説の担当編集者スーザン・ライランドが主人公となり、現実世界で起こったアラン・コンウェイの死の謎と、作中作の失われた結末を探る物語が展開します。
本作は「アガサ・クリスティへの完璧なオマージュ」を謳っており、古典ミステリーの王道を行く作風も特徴のひとつです。緻密な伏線と鮮やかな回収、多すぎる容疑者、そして事件の背後にある人間の心理が深く描かれています。一方で、物語のテンポは非常に良く、飽きさせません。テレビドラマの脚本家だった作者の経験が構成力に生かされていると言われています。
作中作の舞台は1955年のイギリスの美しい片田舎、サクスビー・オン・エイヴォン村。閉鎖的な村社会の濃密な人間関係 や、古き良き時代の英国の雰囲気が丁寧に描かれています。一方、現実世界の舞台は現代のロンドンとその周辺。iPhoneやiPadが登場し、時代のコントラストが際立ちます。
感想
緻密な構成、巧みな伏線回収、そして何よりもミステリーというジャンルへの深い愛を感じる一冊でした。帯に書かれていた受賞歴は決して飾りではありません。面白かったですし、他の方のレビューでも「面白かった」という感想をよくみけけます。冒頭の謎めいた編集者のモノローグに「?」が浮かび、読み進めていくと、まさに、著者の手のひらの上で踊らされているような気分でした。
クリスティへのオマージュが満載で、まるでポアロやマープルが活躍する物語を読んでいるような懐かしさを感じました。特に、ピュント氏の飄々とした人柄と、容疑者たちの証言から少しずつ真実が浮かび上がってくる様子に引き込まれました。アナグラムや言葉遊びなど、細部にまでこだわり抜かれた仕掛けも楽しかったです。
社会派のようなテーマ性はそこまで感じられず、伝統的なフーダニット(犯人当て)が中心です。下手に社会問題などを取り込まず、ミステリーというジャンルへの「愛と批評」がテーマになっていたと思います。ミステリー作家の苦悩や、読者の期待と作家の創造性の間で揺れ動く感情など、ジャンルそのものに対する深い洞察が示されていました。
高評価なポイント
- 驚きの二重構造
作中作と現実の物語が絡み合い、「一粒で二度美味しい」という読書体験。下巻冒頭の展開が特に多くの読者を驚かせたようです - 緻密な構成と伏線回収
広げた風呂敷を完璧に畳み、細かな伏線まですべて回収する作者の手腕がすごい - アガサ・クリスティへのオマージュ
古典ミステリーの雰囲気を忠実に再現しつつ、クリスティ作品への愛が随所に感じられる点がファンに喜ばれている - 読みやすさとテンポの良さ
翻訳作品でありながら、文章が自然で読みやすく、物語の展開もスピーディーで読者を飽きさせない - 登場人物の魅力
主要人物はもちろん、多くの容疑者たちも個性が際立っており、読者が感情移入しやすい - ミステリーへの深い愛情
作者がミステリーというジャンルを深く理解し、その面白さを最大限に引き出している - 革新性と伝統の融合
古典的王道ミステリーの面白さを保ちながら、新しい構成で新鮮な驚きを生み出している
低評価なポイント
- 登場人物の多さと名前の覚えにくさ
翻訳作品のため、多くの登場人物の名前や関係性を把握するのに苦労する - 序盤の退屈さ・読み進めるのに時間がかかる
物語の核心に入るまでに時間がかかると感じ、途中で挫折しそうになった読者もいる - 期待値とのギャップ
各種ランキングで絶賛されているため、読者の期待値が高くなりすぎ、相対的に物足りなさを感じることもある - 下巻の展開への賛否
作中作の続きを期待していたため、下巻で現実世界の物語に移行することに戸惑いや不満を感じる読者もいる - アナグラムの伝わりにくさ
英語のアナグラムが作品の重要な仕掛けだが、翻訳ではその妙が十分に伝わらない
ネタバレ
家政婦メアリの死は、夫からの電話を取ろうとした際に掃除機のコードに足を引っかけて階段から転落した偶発的な事故でした。しかし、メアリは息子のロバートが弟を怒りで溺死させてしまった凶暴性を知っており、自身の死後に開封されるよう、ロバートの凶暴性を記した手紙をマグナスに託していました。マグナスの殺害は、この手紙の存在を知ったロバートが、空き巣に見せかけて屋敷に侵入し、手紙を見つけられなかったため、マグナスを殺害して証拠隠滅を図ったものでした。つまり、メアリの死は事故、マグナスの死はロバートによる殺人でした。
アラン・コンウェイの死は、彼が癌で余命わずかであることを告白した遺書を残していたため自殺とみなされていましたが、実際はクローヴァーリーフ・ブックスのCEO、チャールズ・クローヴァーによる殺人でした。アランは、自身の人気シリーズ全9作のタイトル頭文字を並べると「あなぐらむとけるか」となるという仕掛けを施しており、そのアナグラムが、人気探偵アティカス・ピュントの名前をアナグラムすると、メリッサへのひどい罵倒語になるという事実を暴露する計画を立てていました。チャールズはアランの死の直前にこのアナグラムの秘密を知り、シリーズのイメージが損なわれることを恐れて、アランが公表する前に殺害し、遺書を偽装しています。
スーザンは、ジェマイマの証言や遺書の不審な点からチャールズの犯行を突き止め、最終的にチャールズは逮捕されます。スーザンは出版社を辞め、恋人のアンドレアスと共にクレタ島でホテルを経営する新たな人生を歩むことになります。
ドラマと原作小説の違い
ドラマも、原作の著者であるアンソニー・ホロヴィッツ自身が脚本を手掛けています。原作のプロットはそのままですが、ドラマならではのテンポの良さと視覚的な面白さなどが追求されたドラマといえます。
物語の構成
- 原作小説
- 上巻(翻訳版)
ほぼまるごとアラン・コンウェイ作の劇中劇『カササギ殺人事件』が描かれます。古典的なフーダニットが展開され、上巻の最後に核心部分で物語が中断されます - 下巻(翻訳版)
現代パートの主人公である編集者スーザン・ライランドの視点に切り替わり、作中作の失われた結末を探すとともに、作者アラン・コンウェイの死の真相を追う物語が展開されます。作中作の結末は下巻の終盤で明らかになります
- 上巻(翻訳版)
- ドラマ版
- 原作とは異なり、作中作と現代パートが最初から交互に同時進行します。物語のテンポが大幅に向上し、各シーンの関連性がより視覚的に、かつ即座に理解できるようになっています。また、作中作のシーンと現代パートのシーンが、非常に巧妙にシンクロして描かれる演出が多用されています。例えば、作中作で葬儀のシーンが描かれた後に、現代パートでも葬儀のシーンが続くといった具合です。これにより、二つの物語の間の関連性が強調されています
登場人物の表現
- 原作小説
- 作中作の登場人物(例:アティカス・ピュントの助手ジェイムズ・フレイザー)と現実世界の登場人物(例:アラン・コンウェイの恋人ジェイムズ・テイラー)は、それぞれ異なる存在として描かれ、読者はその対応関係を読みながら把握します
- ドラマ版
- 作中作と現実世界の対応する登場人物を同じ俳優が一人二役で演じています。これにより、原作で読者が頭の中で行っていた人物のリンク付けが、視覚的に非常に分かりやすくなっています。例えば、ジェイムズ・フレイザーとジェイムズ・テイラーは同じ俳優が演じています
全体的な方向性
- 原作小説
- 小説ならではの構成の妙や、緻密な言葉遊び(アナグラムなど)といった、活字だからこそ表現できる仕掛けに重点が置かれています
- ドラマ版
- アンソニー・ホロヴィッツ自身が脚本を手掛けているため、原作の核となるストーリーは忠実ですが、映像化に適した形で物語が再構築されています
次にオススメの推理小説
- 『ヨルガオ殺人事件』(アンソニー・ホロヴィッツ)
本作の続編にあたるスーザン・ライランド・シリー ズ第2作 - 『メインテーマは殺人』(アンソニー・ホロヴィッツ)
作者自身が語り手となるホロヴィッツ作品 - 『刑事フォイル(ドラマ)』(アンソニー・ホロヴィッツ脚本作品)
ホロヴィッツが筆頭脚本を務めた人気テレビドラマ - 『バーナビー警部(ドラマ)』(アンソニー・ホロヴィッツ脚本作品)
ホロヴィッツが脚本を担当した英国ミステリ ードラマ