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一年半待て|あらすじ・ネタバレ解説・感想【松本清張】

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一年半待て』は松本清張氏による短編小説です。1957年4月に発表され、同年8月には短編集『白い闇』に収録されました。刑法の「一事不再理」から着想を得た作品で、これまでに12回も映像化されている人気のミステリーとなっています。

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あらすじ

生命保険の勧誘員である須村さと子が、夫の要吉を殺害した罪で逮捕される。要吉は失業後、酒とパチンコに溺れ、さと子や子供たちに暴力を振るう日々を送っていた。

世間はDV被害者であるさと子に同情した。特に婦人評論家の高森たき子は、日本の家族制度の悪習を批判し、減刑嘆願書を提出するなど、積極的にさと子を擁護した。その結果、さと子には懲役3年、執行猶予2年の判決が下される。しかし、さと子の恋人である岡島久男が高森の前に現れる。

登場人物

登場人物 説明
須村さと子
(すむら さとこ)
生命保険会社の勧誘員
夫を殺害した容疑で逮捕される
須村要吉
(すむら ようきち)
さと子の夫
無職で怠惰、家庭内暴力を振るう
脇田静代
(わきた しずよ)
さと子の高校時代の友人
バー「ミモザ」のママ
高森たき子
(たかもり たきこ)
婦人評論家
さと子の弁護を引き受け、世論を味方につける
岡島久男
(おかじま ひさお)
ダム建設工事場の主任
さと子の恋人
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ネタバレ

須村さと子の目的は、要吉を排除し、未亡人となって恋人である岡島久男と結ばれることにありました。つまり、夫を殺害し、情状酌量で執行猶予を得た一連の出来事は、計画的な殺人でした。
さと子が岡島にプロポーズされたあとの計画を簡単にまとめると下記のようになります。

  • 最初の半年
    要吉との夫婦の営みを拒否し、彼を精神的に追い詰める
  • 次の半年
    要吉が他の女性(さと子の友人である脇田静代)に目を向けるよう仕向け、不倫関係を構築させます。これにより、要吉の家庭内暴力がエスカレートします。さと子は「耐え忍ぶ妻」を演じるための状況を生み出し、DVの証拠を偽装するために壁の薄いアパートを選んだり、痣を化粧で作り出したりしています
  • 最後の半年(一年半後)
    要吉を殺害し、世間の同情を誘って裁判で執行猶予の判決を得ます

結末

さと子の「一年半待ってほしい」という言葉の裏には、殺人の計画が隠れていたわけです。
この計画は成功したかに思えましたが…、彼女の意図や計画に気づいた岡島は、さと子のもとを去ってしまいます。去ってしまったことです。しかし、日本の刑法における「一事不再理」の原則(一度判決が確定した事件は、本人の不利益になる再審は認められない)により、さと子の執行猶予判決が覆ることはありません。

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映像化作品について

1960年の初回放送以来、実に12回ものテレビドラマ化がなされています。各時代の社会情勢や表現の自由度、そして制作側の解釈によって、同じ物語が異なる視点やトーンで描かれてきました。

1984年版(主演:小柳ルミ子)

日本テレビの「火曜サスペンス劇場」枠で放送されたこのバージョンは、当時のテレビドラマの雰囲気を色濃く反映しています。小柳ルミ子演じるさと子の若さと美貌が強調され、夫・要吉役の高橋長英、婦人評論家・高森たき子役の樹木希林、恋人・岡島役の勝野洋といった豪華キャストが揃いました。

このバージョンでは、さと子の冷徹な計画が詳細に描かれ、特に樹木希林演じる高森が真実に気づき愕然とする場面は、視聴者に強い印象を与えました。岡島がさと子のもとを去るラストシーンは、さと子の「完璧な計画」が、最も大切なものを失う結果に終わるという皮肉な結末を強調しています。

2016年版(主演:菊川怜)

フジテレビの「金曜プレミアム」枠で放送された2016年版は、これまでの作品とは一線を画す新たな試みとして注目されまし た。従来の作品がさと子の視点から描かれることが多かったのに対し、このバージョンでは菊川怜演じる弁護士・高森滝子の視点で物語が展開されます。

この視点変更により、視聴者はさと子の計画を、高森が事件を再調査し、真実に迫っていく過程を通して知ることになります。これにより、高森の「正義」と、さと子の「正義」あるいは「目的」との対比がより鮮明に描かれ、物語に新たな深みが加わりました。ジェームス三木による脚本も、その巧妙な心理描写に貢献しています。

感想と考察

『一年半待て』は、松本清張が描いた数ある傑作の中でも、特にそのプロットの巧妙さとテーマの普遍性において際立っています。法制度の隙間を突き、世論を操り、自らの欲望のために冷徹な計画を実行する主人公の姿は、読者や視聴者に深い衝撃と倫理的な問いを投げかけ、読後に深い嫌悪感と恐ろしさを残す作品です。

最終的に、さと子は法的な自由を手に入れますが、最も欲しかったはずの岡島との未来を失います。ただ、表面的な悲劇のヒロイン像とは裏腹に、さと子の心の底に潜む冷徹な計算と、目的達成のためには手段を選ばない姿勢が鮮烈に描かれています。
さと子の計画が成功したのは、彼女が夫・要吉の性格を熟知していたからかもしれません。彼女は要吉の弱点や行動パターンを完璧に把握し、それを自身の計画に利用しました。

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