『速水玲香と招かれざる客』は〈金田一少年の事件簿〉シリーズの短編エピソードの一つで、原作漫画は「週刊少年マガジン」に掲載され、単行本としては「雪霊伝説殺人事件(下)」に収録されています。テレビアニメ「金田一少年の事件簿R」では第5話として、2014年5月3日に放送されました。この記事ではあらすじとネタバレ、登場人物、感想などをまとめています。
あらすじ
国民的アイドルである速水玲香がファンに向けて開いた豪華客船でのクルージングパーティー――その船に、なにやら怪しい客が偶然紛れ込んでしまう。その客は自身の正体を隠すため、船内で遭遇した乗客の御手洗幸男を襲撃し、彼の服を奪ってなりすまそうとする。
しかし、運悪く(あるいは運良く?)、その豪華客船には金田一一(はじめ)と、剣持警部が乗り合わせていた。
パーティーでは、玲香との特別な時間を過ごせる権利をかけた、彼女に関するマニアックなクイズ大会が開催される。怪しい客は特にファンではないため、玲香と二人きりになれるチャンスという賞品に目もくれず、適当に解答するのだが……、なぜか金田一と共に全問正解してしまう。そしてそして、玲香、金田一と三人で個室で過ごすことになってしまう。
金田一は、怪しい客のファンらしからぬ言動や、些細な身体的な特徴から違和感を覚え、正体を見破るために巧妙な罠を仕掛ける。
ネタバレ
怪しい客の正体は、脱獄犯の朽沼末吉です。逃走のため、偶然乗り合わせた豪華客船のトイレで遭遇した御手洗幸男になりすましました。金田一がどうやってその正体を見破ったかは下記の通りです。
金田一の推理
- トイレでの違和感
朽沼が御手洗を襲った直後、金田一が偶然トイレにやってきます。故障中の札がかかった個室対する朽沼の挙動不審な様子に金田一は何か妙なものを感じ取ります - 不自然な言動
朽沼は世間の出来事(ネットやブログなど)にも疎い様子をみせます。金田一が「どこか(タレント事務所など)に入っていたのか」と尋ねた際に、刑務所にいた朽沼が過剰に動揺し否定したことも、金田一に疑念を抱かせました - 身体的な特徴と靴の秘密
朽沼はヘビースモーカーであるにも関わらず、歯が非常に綺麗でした。これは刑務所での生活によるものと考えられます。また、玲香が誤って朽沼の足の先をハイヒールで踏んでしまった際、朽沼が全く痛がる素振りを見せなかったことに金田一は注目します。これは、朽沼が奪った御手洗の靴のサイズが合わず、つま先部分にトイレットペーパーを詰めていたためでした。漫画版では、朽沼がトイレでトイレットペーパーを使って何かをしていた描写があり、これが伏線となっています - 領収書の「上様」
事件解決の決定的な手がかりの一つです。朽沼が持っていた領収書には 「上様」と書かれており、朽沼は「上」が玲香の本名だと思い込んでいました(刑務所暮らしが長かったために世間の常識に疎くなっていた?)。玲香の熱狂的なファンが集まるパーティーにも関わらず、朽沼は玲香に知っていて当然の知識が欠けていました
これらの手がかりから、金田一は朽沼が御手洗幸男本人ではないこと、そして脱獄犯である可能性が高いことを見抜き、剣持警部と協力して彼を逮捕しました。
登場人物
- 金田一はじめ(きんだいち はじめ)
名探偵・金田一耕助の孫。普段はひょうきんな高校生だが、事件となると明晰な推理力を発揮する - 七瀬美雪(ななせ みゆき)
はじめの幼馴染で、不動高校の生徒会長。真面目でしっかり者。最後に少し登場する - 剣持警部(けんもち けいぶ)
警視庁捜査一課の警部。はじめの頼れる協力者であり、保護者のような存在 - 速水玲香(はやみ れいか)
国民的な人気を誇るアイドル。過去にも金田一と事件を通じて関わったことが何度か。はじめに惚れており、クイズでは回答を記入した用紙を渡して、はじめと二人きりになろうとする - 朽沼末吉(くちぬま すえきち)
脱獄犯。自身の逃走のために御手洗幸男になりすますが… - 御手洗幸男(みたらい ゆきお)
速水玲香のファンで、豪華客船の乗客。朽沼に襲われるが、命に別状はなさそう
漫画版とアニメ版の違い
『速水玲香と招かれざる客』は、漫画とアニメでストーリーの大きな流れや結末に違いはありません。しかし、いくつかの細かい点で異なる描写が見られます。
- 描写の強調
漫画版では、さとうふみや先生による犯人・朽沼の「顔芸」とも呼ばれる豊かな表情の変化がコミカルに描かれており、彼の内心の焦りや動揺が強調されています - 一部描写のカット
アニメ版では、物語のテンポを良くするためか、漫画版にあった一部の細かい描写がカットされています。例えば、朽沼が世間の常識に疎いことを示す「二千円札」に関するくだりなどがアニメ版では描かれていません - 剣持警部の歌声
アニメ版では剣持警部の歌声がきけます
感想
このエピソードは、犯人が物語の冒頭で明らかになり、探偵役である金田一はじめがその犯人の正体や犯行の証拠を追っていく「倒叙モノ」と呼ばれる形式で描かれているのが特徴です。そのため、一般的なシリーズの事件とは異なり、シリアスな雰囲気よりもユーモラスでコメディタッチな要素が強く出ています。「金田一少年の事件簿」シリーズの中でも珍しい形式といえます。犯人が誰であるかが分かっている状態で物語が進むため、犯人がどのようにボロを出し、金田一がそれにどう気づいていくのかという過程を楽しむ作品です。
朽沼のどこか抜けている部分や、金田一の彼を追い詰める際のユーモラスなやり取りが面白く、シリアスな長編事件の合間の息抜きとして楽しめます。特に、朽沼がハイヒールで足を踏まれても痛がらないシーンや、領収書の「上様」といった日常の中にある些細な違和感が伏線となっている点が秀逸です。速水玲香が登場するのも嬉しいポイントだと思います。
全体的に、本格的な推理を楽しむというよりは、キャラクターたちのやり取りや、犯人が追い詰められていく様子を軽妙なタッチで描いたコメディミステリーとして楽しめる作品という感じですね。
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