『ブレイクショットの軌跡』は、その壮大なスケールと緻密な構成で大きな話題を呼んでいる小説です!著者の逢坂冬馬さんはデビュー作『同志少女よ、敵を撃て』で本屋大賞を受賞した注目の作家さんです。この記事では、あらすじや登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。
項目 | 評価 |
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【読みやすさ】 スラスラ読める!? |
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【万人受け】 誰が読んでも面白い!? |
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【キャラの魅力】 登場人物にひかれる!? |
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【テーマ】 社会問題などのテーマは? |
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【飽きさせない工夫】 一気読みできる!? |
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【ミステリーの面白さ】 トリックとか意外性は!? |
あらすじ
自動車工場の期間工である本田昴は、SUV「ブレイクショット」の製造中にボルトが車体内部に落下するのを目撃する。この些細な出来事が、やがて予測不能な連鎖反応を引き起こし、様々な人々の人生を大きく揺り動かしていく。
投資ファンドの副社長、実直な板金工とその才能ある息子、悪徳不動産会社の営業、そして遠く離れたアフリカの少年兵たち。一見何の繋がりもない彼らの運命は、一台の「ブレイクショット」を軸に複雑に絡み合い、現代社会が抱える多岐にわたる問題(特殊詐欺、LGBTQ、国際紛争、SNSの功罪、格差社会など)が浮き彫りになっていく。
絶望的な状況に直面しながらも、登場人物たちはそれぞれの「善良さ」を信じ、かすかな希望を求めて奮闘する。果たして彼らの人生は、どのような軌跡を描き、どこへたどり着くのか。
小説の特徴
- 読みやすさとエンタメ性
ページ数の多さを感じさせないスピーディな展開と、読者を引き込む 巧みなストーリーテリングが特徴です。社会派のテーマを扱いながらも、エンターテイメントとして高い完成度を誇ります - 緻密な描写
各分野(自動車製造、金融、SNSなど)に関する詳細な描写は、作者の深い調査力と観察眼に裏打ちされており、物語にリアリティがあります - 群像劇
複数の登場人物の視点と時系列が章ごとに切り替わりながら物語が進行します。それぞれの物語が独立した短編としても成立するほどの完成度を持ちつつ、最終的にすべてが繋がる緻密な構成が特徴です - 伏線回収
冒頭の些細な出来事から始まり、物語全体に張り巡らされた伏線が見事に回収されていく様は、読者に大きな驚きと感動を与えます。ビリヤードの「ブレイクショット」になぞらえた構成は、まさに「正多面体が出来上がっていく」ような感覚をもたらします - 現代日本と世界が舞台
自動車工場、投資ファンド、不動産業界、SNSの裏側、少年サッカーなど、現代日本のリアルな社会情勢が多角的に描かれます。また、中央アフリカの紛争地帯という遠隔の地も舞台となり、グローバルな視点から 物語が展開されます。
テーマ
- 善良さと希望
理不尽な現実に直面しながらも、人間が持つ「善良さ」や「誠実さ」が最終的に人生を好転させる力となることが描かれます - 現代社会の闇
特殊詐欺、LGBTQ、国際紛争、SNSの拡散と炎上、格差社会、ブラック企業、高次脳機能障害など、現代社会が抱える様々な問題が深く掘り下げられています - バタフライエフェクト
一つの小さな出来事が、連鎖的に多くの人々の人生に大きな影響を与える様が描かれ、個人の行動が持つ意味を問いかけます - 人生の選択と再生
困難な状況下で人々がどのような選択をし、挫折からいかに立ち直り、前向きに生きていくかが描かれます
登場人物
- 本田昴(ほんだ すばる)
自動車工場の期間工。Twitter(現X)を社会との唯一のつながりとしていた青年 - 鈴木世玲奈(すずき せれな)
昴の交際相手 - 幻龍(げんりゅう)
ラッパー - 霧山冬至(きりやま とうじ)
投資ファンド「ラビリンス」の副社長。タワーマンションに住む成功者で、マネーゲームの世界に身を置いています - 霧山修悟(きりやま しゅうご)
冬至の息子。サッカーの才能に恵まれ、プロサッカー選手を目指しています - 後藤晴斗(ごとう はると)
修悟が慕う頭脳明晰な人物。サッカーを通じて修悟と深い絆で結ばれています - 後藤友彦(ごとう ともひこ)
晴斗の父親。板金工の職人で、実直で善良な性格の持ち主。ある事故をきっかけに、過酷な現実に直面します - 十村稔(とむら みのる)
不動産会社の営業職。業績を上げるために、悪徳な手法に手を染めていきます - 志気和馬(しき かずま)
「カズ塾長」として経済学に関するYouTube動画を配信する人物 。特殊詐欺グループと関わりを持ち、晴斗の人生に大きな影響を与えます - 中邑翔(なかむら しょう)
友彦の後輩の職人。友彦を慕い、彼の困難な状況を案じます - 須藤幹也(すどう みきや)
修悟や晴斗が所属するユースチームの司令塔 - 真田城生(さなだ しろお)
運輸にかかわる企業の課長 - 大内充・羽奈(おおうち みつる・はな)
夫婦でバー経営を夢見る人物たち - エルヴェ
貧しい家庭に生まれ、少年兵となった青年。中央アフリカで外部ゲストの護衛を務めます - フェリックス
エルヴェの相棒のような役割を果たす少年兵。通訳もこなします - ジェイク・ウィルソン
アフリカで置き去りにされた少年。元NFLのスター選手、コーナー・ウィルソンの息子 - コーナー・ウィルソン
アメリカNFLの元スター選手
感想
見事な結末だったと思います。あの人物がこう繋がり、あちらがこうなるのかと、散りばめられたピースが完璧にハマっていく爽快感は、鳥肌が立つほどです。特に、プロローグのボルトの落下が、実は負の連鎖の始まりではなく、別の意味を持っていたというミスリードには、見事に騙されました。再読すればまた違った楽しみ方ができるでしょうし、その緊迫感とドラマ性は、ぜひ映像作品としても見てみたいと思わせる傑作です。
また、たった一本のボルトが誰かの人生を大きく変えてしまうように、私たちの日常の行動がいかに大きな意味を持つかを教えてくれました。行動の影響を想像する力、そしてそれを支える知識の重要性を痛感します。
高評価なポイント
- 構成の巧みさ
いくつものストーリーがもつれながら進んでいき、いつ、どのように繋がっていくのかワクワクする! - テーマの深さとリアリティ
スケールの大きい作品!今の時代の空気感がすごく伝わってくる - 読後感の良さ
善良であることで人生が好転していく展開でホッとする!多幸感ある読了感 - 作者の筆力と新境地
戦争を描いてきた作家が、現代社会に関してもこれほどの物語を紡げるのかという驚き
低評価なポイント
- 内容の辛さ・重さ
フィクションでこんな現実(特に後藤家)はみたくないと思うほど辛い - 要素の多さ・散漫さ
ページも要素も多くて疲れる…章ごとに視点と時系列が変わり若干読みにくかった - 結末への意見
大団円すぎる、あまりにもキレイにまとまりすぎてる気はする
結末(ネタバレ注意)
物語の終盤、後藤晴斗は、サッカー選手としての夢を追う霧山修悟を支えるため、特殊詐欺グループの一員である志気和馬に利用されてしまいます。しかし、自身の行いの過ちに気づいた晴斗は、志気と対峙し、その悪事を暴きます。最終的に、プロサッカー選手となった修悟と晴斗は交際関係にあることを公表し、晴斗自身も過去の過ちを世間に堂々と公表することで、自らの信念を貫きます。
プロローグで描かれた、自動車期間工・本田昴がSUV「ブレイクショット」の車体内部にボルトを落とすミスを目撃するシーンは、物語全体に暗い影を落とすかのように描かれますが、エピローグでこのミスは実際には昴によってきちんと報告され、改善されていたことが明かされます。これにより、一連の不幸な出来事がボルトの落下に起因するというミスリードが解消されます。
さらに、本田昴の恋人である鈴木世玲奈が、実は物語の別の場所で活躍していた門崎亜子であることが判明します。 彼女のLGBTQに関する活動も成功を収めていることが示唆され、物語全体は多くの登場人物に救いが訪れるハッピーエンドで幕を閉じ ます。作者は、人間の「善良さ」が最終的に報われるという温かいメッセージを読者に届けます。
次にオススメの推理小説
- 『乱反射』貫井徳郎
本作の読者レビューでも言及されているように、複数の視点から一つ の事件が描かれ、人間関係が複雑に絡み合う群像劇の傑作です - 『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎
伏線回収の妙と、主人公が理不尽な状況に巻き込まれながらも奮闘する姿が描かれる点で共通点があります - 『何者』朝井リョウ
SNSをテーマにした社会派作品であり、若者の心理描写や人間関係の裏側がリアルに描かれています - 『ガソリン生活』伊坂幸太郎
車が物語の重要な要素となる点で共通しており、ユーモアと 温かさのある群像劇が楽しめます
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