『剣持警部の殺人』は〈金田一少年の事件簿〉シリーズのエピソードで、単行本では上下巻に収録され、全12話で構成されています。テレビアニメ『金田一少年の事件簿R』では、第19話から第22話として、2014年8月16日~9月6日に放送されました。登場する怪人は〈死刑執行人〉です。少年犯罪をモチーフにした社会派推理の側面も持ち合わせており、事件の要因となった出来事はシリーズの中でも特に陰惨な内容となっています。この記事ではあらすじ、ネタバレ、登場人物、感想などをまとめています。
あらすじ
三年前に発生した凄惨な女子高生死体遺棄事件――被害者は当時17歳の十神まりなという女子高生だった。まりなは同級生だった毒島陸、多間木匠、魚崎葉平の三人の少年によって監禁され、想像を絶する暴行を受けた末に転落死し、遺体は空き地に遺棄された。
犯人の三人組は逮捕され、主犯格の毒島が他のふたりに暴行を指示したということが明らかになる。いずれも未成年だったということで重い罪を免れていた。
最も重い刑となった毒島が出所し、剣持警部を呼び出した。当時、剣持は十神まりなの事件を担当しており、さらにまりなとは知り合いで、剣道の指導もしていた。毒島はそんな剣持に対して、まったく反省していない素振りをみせつけ、剣持を激昂させる。
その夜、毒島が何者かに銃で襲われ軽傷を負う。使用されたのは、剣持警部の銃に違いなかった。
その後、魚崎葉平がホテルのバスタブで溺死体となって発見される。続いて、多間木匠が不動高校の駐車場で、車に仕掛けられた爆弾が爆発し焼死する。これらの殺害方法は、三年前にまりなが受けた暴行の一部(水責め、火あぶり)に見立てられているようだった。
多間木殺害に使われたと思しきリモコンには剣持の指紋が付着していた。毒島襲撃に使われた拳銃などの証拠品とあわせると、剣持警部こそが犯人の「死刑執行人」であると疑わざるを得なかった。実際、事件発生直後に剣持警部は行方不明となり、携帯電話も不通の状態だった。
残る最後の元少年である毒島陸も再び命を狙われ、何者かに襲われる。密室となったビルの一室で首を吊られた状態で発見され、その現場には行方不明だった剣持警部がいた……。
登場人物
- 金田一一(きんだいち はじめ)
天才高校生探偵。剣持警部の無実を信じ、事件の真相に迫る - 七瀬美雪(ななせ みゆき)
はじめの幼馴染 - 剣持勇(けんもち いさむ)
警視庁捜査一課の警部。三年前に発生した女子高生死体遺棄事件の捜査を担当。今回の事件で容疑者となる。十神まりなは剣道の教え子で、親しかった - 明智健悟(あけち けんご)
警視庁捜査一課の警視。剣持警部が容疑者となったことで、はじめに協力を要 請します。個人的には剣持警部の無実を信じていました。 - 毒島陸(ぶすじま りく)
三年前に発生した女子高生死体遺棄事件の主犯格。拳銃で襲われ、最後は首吊り状態にされるが、一命を取り留める - 多間木匠(たまき たくみ)
三年前に発生した女子高生死体遺棄事件の犯人のひとり。大病院の院長の息子。遺棄事件のあと父親の力ですぐに無罪放免となり、アメリカに渡る。今回の事件で不動高校に転校し、金田一たちと知り合うことに。送り迎え用の車に仕掛けられた爆弾によって爆死する - 魚崎葉平(うおざき ようへい)
三年前に発生した女子高生死体遺棄事件の犯人のひとり。バスタブで溺死する - 十神まりな(とがみ まりな)
三年前に発生した女子高生死体遺棄事件の被害者。享年17歳 - 十神えりな(とがみ えりな)
十神まりなの妹。姉の事件によって深い傷を負っている - 青井零児(あおい れいじ)
警視庁不動山署刑事課の刑事。十神まりなの恋人で結婚も約束していた - 湖森涼介(こもり りょうすけ)
弁護士。三年前に発生した事件で少年たちの弁護を担当。今回の事件でも多間木や魚崎を擁護する立場となる - 村上草太(むらかみ そうた)
はじめの友人 - 正野刑事(ただの けいじ)
警視庁捜査一課の刑事で、剣持警部の部下 - 剣持和枝(けんもち かずえ)
剣持警部の妻 - 高遠遙一(たかとお よういち)
地獄の傀儡師
ネタバレ
魚崎と多間木を殺害した真犯人は毒島陸です。
毒島は三年前の女子高生死体遺棄事件で主犯格とされていましたが、実は監禁・暴行には一切関与していません。主犯は多間木と魚 崎のふたりで、この二人が毒島の自宅アパートを乗っ取り、十神まりなに暴行を加えていました。
毒島の父親は医療機器会社を経営しており、その売上は多間木の病院に依存していました。その病院の息子である多間木は毒島にビジネスのことをちらつかせて無理を押しつけていました。そういった事情があって、毒島は多間木と、その連れである魚崎に部屋を奪われてしまいます。
毒島は被害者の十神まりなと知り合いで、毒島はまりなに恋心を抱いていました。そんなまりなが姿をみせなくなり、一ヵ月後、毒島が久しぶりに自宅を訪れると、窓から転落するまりなを目撃してしまいます。
無惨な姿のまりなをみた毒島は多間木と魚崎に脅され、死体遺棄に協力。二人に懇願されて主犯格となって罪を被ることになります。
事件直後、多間木は毒島の父親が経営する会社の借金を返済すると約束していたようですが、その約束が果たされることはありませんでした。このことで毒島は我に返り、真実を綴った剣持警部宛の手紙を弁護士の湖森に渡しましたが、その手紙は湖森が揉み消していました。理由は重い病気を患った娘に治療を受けさせるためで、その治療のためには多間木の父親の協力が必要だったからです。
毒島は手紙が剣持警部によって揉み消されたという嘘を牧師から聞かされ、剣持に罪を被せる計画を立てます。この牧師は地獄の傀儡子・高遠遙一でした。
トリック
魚崎の溺死には、携帯電話のバイブレーション機能が利用されています。毒島はあらかじめバスタブの縁に栓を絡めた状態の携帯を置いていました。電話をかけて携帯がバスタブの中に落ちれば栓が閉まる仕組みです。水を出しっぱなしておけば、電話をかけたタイミングで、水が溜まることになります。
毒島の首吊り未遂は自作自演で行われたものでした。足場はありませんでしたが、カーペットを丸めて足場にしています。
誰かに襲われそうになっていたのも、もちろん演技です。このとき電話で「あいつら」と発言し、ミスを犯しています。確かに魚崎も多間木も殺されていましたが、多間木の殺人については事件直後のため、毒島はまだ知らないはずでした。
なお、被害者の十神まりなは、生前、録音機能付きのストラップに毒島が無罪であるというメッセージを残していました。
原作漫画とアニメの違い
原作とアニメに大きな違いはありませんが、いくつかの細かな変更点があります。暴力シーンのカットがアニメでの主な変更点といえます。表現の自主規制や視聴者への配慮などによるものと考えられます。
- 多間木の死亡
原作では「おそらく助からない」と記述されるだけでしたが、アニメでは焼死したことが明言されている。なお、原作では火だるまになる直接的な描写がある - まりなへの暴行描写
原作には陰惨な描写がある。アニメでは直接的な暴力シーンはほとんどなく、魚崎のまりなをバスタブに沈める回想なども省略 - 剣持警部が毒島を殴る理由
原作では、毒島が三年前に反省していなかった態度を見て「お前も共犯者だ」と怒って殴るシーンがある。アニメでは「もっと早く探していれば助かっていたかもしれないのに」と、まりなを救えなかったことへの後悔から泣き崩れ、毒島を殴る - まりなの録音メッセージ
アニメでは、ストラップに録音されたまりなの言葉に「私の知っている毒島君は真面目で真っ直ぐな人」というメッセージが追加されている
感想
少年犯罪というテーマ性があり、その上、被害者の受けた仕打ちや加害者の反省のなさに憤りを感じる事件でした。どうしようもない奴にみえた毒島でしたが、実は被害者で、状況や周囲の思惑によって犯人に仕立て上げられてしまうという内容でした。
トリックに関しては、被害者にみせかけて容疑者から外れる典型的なトリックが登場しています。むごたらしい事件を起こしておきながら、少年という理由で保護され、まったく反省していないというのは、誰でも怒りを覚えそうです。この怒りが、毒島を殺人の容疑者から心理的に外すトリックになっているように思えます。また、仮に毒島を疑えたとしても、その動機を想像するのは、かなり難しそうです。
携帯電話のバイブレーションを利用したトリックや、首吊りトリックなども面白かったと思います。首吊りは危うく死んでいたわけですが、死ぬ覚悟があったということでしょうか。最後には高遠遙一が事件の裏で暗躍し、毒島を唆していたこともわかります。地獄の傀儡子が描いたシナリオだったわけですね。
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