『水車館の殺人』は綾辻行人先生の推理小説で、館シリーズの2作目です。現在と過去を行き来するような章立てになっており、トリックやロジックはもちろんですが、物語の構成についても評価の高い作品です。
項目 | 説明 |
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タイトル | 水車館の殺人 |
著者 | 綾辻行人 |
シリーズ | 館シリーズ 1作目 |
発行日 | 1988年2月 |
Audible版 | なし (2025年1月時点) |
出版社 | 講談社 |
評価 |
あらすじ
仮面の当主と孤独な美少女が住む水車館で、嵐の夜に殺人事件が発生。バラバラ死体や衆人環視による密室から消失した男の謎などを残したまま、1年が過ぎます。
物語は1985年9月28日(および29日)と1年後の1986年の同日が交互に描かれます。探偵役の島田潔は1985年の事件で消失し、そのまま行方不明になった古川恒仁の知り合いで、事の真相を調べるために、水車館を訪れます。島田が一年前の出来事を追体験するような流れで、話は進んでいきます。
島田が水車館に興味をもったのは、前作『十角館の殺人』にも登場した中村青司が水車館を設計したためです。水車館の事件とは直接関係はありませんが、本作にも中村青司という要注意人物が登場するのは間違いありません。
登場人物
- 藤沼紀一(ふじぬま・きいち)
41歳。水車館の主人。仮面の男。車いす。亡き藤沼一成(ふじぬま・いっせい)の息子 - 藤沼由里絵(ふじぬま・ゆりえ)
19歳。紀一の妻。水車館に住む美少女 - 野沢朋子(のざわ・ともこ)
31歳。通いの家政婦 - 根岸文江(ねぎし・ふみえ)
45歳。水車館の住み込みの家政婦。1985年に転落死する - 正木慎吾(まさき・しんご)
38歳。紀一の友人 - 水車館の招待客
- 古川恒仁(ふるかわ・つねひと)
37歳。住職。1985年に失踪 - 大石源造(おおいし・げんぞう)
49歳。美術商 - 森滋彦(もり・しげひこ)
46歳。美術史の教授 - 三田村則之(みたむら・のりゆき)
36歳。外科病院の院長 - 島田潔(しまだ・きよし)
36歳。探偵役
事件概要
1985年、水車館で家政婦の根岸文江が転落死します。さらに、ゲストの一人、古川恒仁が姿を消します。衆人環視の状況だったため、密室から古川が消失したという不可解な事件でした。そのまま、古川はみつからず、その直後、バラバラ死体も発見されて、死体は正木慎吾、犯人は古川だと推測されます。
翌年1986年、館に1年前と同じメンバーが集まり、再び連続殺人事件が発生します。まず、医師の三田村則之が殺され、家政婦の野沢朋子も死体となって発見されます。
読む順番及びシリーズについて
館シリーズの2作目です。1作目の『十角館の殺人』を読んでいなくても特に問題はありませんが、十角館の話題が少し登場します。ネタバレが書かれているわけではないので、水車館から読んでも問題ありません(十角館を先に読んでいない読者は珍しいかもしれませんが…)。ただし、先に十角館を読んでおくことをオススメします!
感想
館、仮面の男、車いす、美少女というキーワードにそそられるのは間違いないと思います。館の設計者で中村青司が登場するのも、印象に残ります。現在と過去を行き来するような物語の章立てが面白いです。あっちに飛んだり、こっちに飛んだりすると読みにくいですが、そんな感じはなく、自然な流れという印象でした。
- 緻密なトリックとロジック!
トリックの巧妙さ、論理的な推理など、本格ミステリーとしての完成度が高いです!最後に全てが繋がった時の快感がたまらないです - 水車館の魅力的!
どんでん返し、意外な犯人、ミステリーとしての構成などなど、ミステリー小説として抜群の面白さがあります!もちろんホラーの要素もあります
ネタバレ注意
真犯人は正木慎吾です。バラバラ死体になったと思われていた正木ですが、実は生きており、藤沼紀一に成りすましています。1985年に本物の藤沼紀一は正木に殺されています。つまり、1986年(いわゆる現在)に登場した藤沼紀一は正木です。動機は由里絵と財産。そして正木はなりすましを隠すため、口封じで次々に家政婦や医師などを殺し、偽装工作や犯行を重ねていました。
トリック
バラバラ死体は正木と考えられていましたが、ほんとうは行方不明になった古川恒仁の死体でした。正木は自分が死んだようにみせるため、左手薬指だけを切断して、焼いた古川の死体のそばに置いていました。この薬指が根拠となって、死体は正木だと判断されることになります。
古川の密室からの消失は、窓からバラバラにした死体を投げ捨てていました。人間まるごとは通れないけれど、バラバラにすれば通ることができるというトリックです。
結末
所在が明らかではなかった藤沼一成の遺作『幻影群像』は水車館の地下にあります。そこには、正木に殺された藤沼紀一の遺体もありました(正木に襲われたあと、瀕死の状態にありながら、自力で移動した)。
『幻影群像』には水車の館や仮面が描かれており、まるで、藤沼紀一の未来を予知しているかのようでした。そして、薬指を失った人物も小さく描かれていました。それは、正木の未来を予知したかのような絵でした…。藤沼一成は幻視者で、惨劇を予言していたといえます。
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