2018年4月に放送された「黒井戸殺し」のあらすじや犯人、キャスト、感想などをご紹介します。「黒井戸殺し」は勝呂武尊シリーズの第2作目となる作品で、アガサ・クリスティーの「アクロイド殺し」を原作にしています。脚本は古畑任三郎シリーズなどで有名な三谷幸喜氏です。
あらすじ
1952年(昭和27年)、殿里村で唐津佐奈子の遺体が発見される。遺体は村唯一の医師である柴平祐によって調べられ、睡眠薬の過剰摂取による自殺と判断される。以前から佐奈子には夫殺害の噂が広がっており、その噂が自殺の原因と考えられた。未亡人だった佐奈子は村の富豪である黒井戸禄助と結婚の約束をしており、佐奈子の死を知った禄助は相当なショックを受けている様子だった。そんな禄助が柴平祐を屋敷に呼び出し、佐奈子が強請られていたことを伝える。しかし、強請っていた人物が誰なのかまでははっきりわかっていなかった。
柴平祐と黒井戸禄助が話していると、そこに、何通かの郵便が届く。その中には、生前に唐津佐奈子が送った遺書もあった。禄助はすぐに遺書を読み、そこに恐喝者の名前が記されていることを悟る。柴平祐は、それが誰なのかを知ろうとしたが、禄助に部屋を追い払われてしまう。
柴平祐は黒井戸の屋敷を後にし、帰路についた。途中、復員服の不審な男とすれ違ったりもした。自宅に戻り、しばらくして、電話が鳴った。相手は黒井戸家の執事である袴田で、用件は“黒井戸が殺害された”という内容だった。柴平祐は急いで黒井戸家へと戻り、玄関先で袴田に事情を伝えたが、なぜか袴田には話が全く通じなかった。そんな袴田を無視して柴が書斎へと向かうと、そこには背中を刺された黒井戸禄助の姿があった。
警察が到着し捜査が始まり、容疑者として殺された黒井戸の義理の息子である兵藤春夫の名前が挙がる。春夫は東京にいるはずだったが、村に帰ってきているようだった。春夫に疑いがかかっていることを知った婚約者の黒井戸花子は数ヶ月前に村に引っ越してきた勝呂武尊に相談する。ちょうど退屈していた勝呂は調査を快く引き受けることになる。
登場人物とキャスト
主な登場人物をまとめます。探偵はシリーズお馴染みの勝呂武尊で、助手役は柴平祐となります。
役名 | キャスト | 説明 |
---|---|---|
勝呂武尊 すぐろ・たける |
野村萬斎 | 名探偵だが探偵業は引退中 カボチャを栽培している |
柴平祐 しば・へいすけ |
大泉洋 | 殿里村唯一の医師 勝呂の助手となる |
柴カナ しば・かな |
斉藤由貴 | 平祐の姉。噂好き |
黒井戸禄助 くろいど・ろくすけ |
遠藤憲一 | 被害者 村の名士でお金持ち |
唐津佐奈子 からつ・さなこ |
吉田羊 | 自殺した未亡人 禄助と結婚する予定だった |
兵藤春夫 ひょうどう・はるお |
向井理 | 容疑者 禄助の義理の息子 |
黒井戸花子 くろいど・はなこ |
松岡茉優 | 禄助の姪 春夫の婚約者でもある |
事件概要
この事件は関係者の証言によって犯行時刻が絞り込まれます。死体がみつかったのは22時頃で、最後に被害者を目撃したのは黒井戸花子でした。時刻は21時45分頃だったので、つまり、この15分の間に犯行が行われたことになります。さらに遡ってみると、21時30分には秘書が被害者の声を聞いています。ちなみにですが、医師である柴平祐が被害者と話し、屋敷を立ち去ったのが20時50分頃で、それから21時30分までの間には、特に何も起きていません。
最も疑わしいのは、被害者の義理の息子である春夫です。本来、東京にいるはずの春夫ですが、村に帰ってきています。怪しいことに、堂々と姿をみせず、こそこそと逃げ回ってはどこかに隠れています。現場の窓の外には春夫の靴の足跡らしきものが残っており、さらに、被害者が死ねば莫大な遺産を相続するという事実もあります。
若干ひっかかるのは、現場にあった椅子の位置です。死体を発見したのは執事と医師でしたが、この時、執事は椅子がいつもとは違うところに置いてあることに気付いています。不思議なことにその椅子は勝呂達が調べたときには元の位置に戻されていたようです。誰が戻したのかはわかっておらず、もしも春夫の仕業であるならば、わざわざ現場に戻ってきて椅子の位置を戻したことになります。不可能ではないですが、かなり不自然な状況といえます。
ネタバレ
唐津佐奈子を恐喝し、黒井戸禄助を殺害したのは柴平祐です。柴平祐は佐奈子が夫を毒殺したことに気付き、それをネタに金を要求していました。恐喝の動機は金です。実は柴平祐の姉であるカナは脳腫瘍を患っており、余命いくばくという状況でした。手術には金が必要なため、柴平祐は佐奈子を強請っていました。
ところが、恐喝に耐えかねた佐奈子が自殺し、さらに、遺書で黒井戸禄助に恐喝犯の名前を伝えようとします。柴平祐は黒井戸禄助との会話の最中に、佐奈子が残した遺書があることを知り、その遺書を読みそうになった禄助を殺害しました。殺人の動機は口封じといえます。
犯行の全てを明らかにされた柴平祐ですが、勝呂に猶予を与えられ、最後は睡眠薬で自殺を図ります。柴が完成させた手記は、柴カナが亡くなった後に公表され、このとき、世間は柴平祐が犯人だったことを知るはずです。
トリック
柴平祐が書斎を出た時、既に黒井戸禄助は死んでいました。秘書が21時30分に耳にした声はディクタフォン(録音機)が再生していた音で、本人の声ではありませんでした。さらに、21時45分に被害者をみたという花子の証言は嘘でした。花子は二階にある禄助の部屋から金を盗んでおり、階段から降りてきたのではなく書斎から出てきたようにみせるため、咄嗟に嘘をついていました。実際、書斎には入っていません。
椅子がずれていたのは、机に置いたディクタフォンを椅子の背もたれで隠すためです。元に戻したのは、もちろん柴平祐です。柴平祐にかかってきた電話は柴が患者にかけさせています。このような細工をした理由は、自分が第一発見者となってディクタフォンを回収するためです。
柴は春夫のもとを訪ねたときに春夫の靴を盗んでいます。春夫が姿を隠していたのは柴の入れ知恵や協力があったからであり、柴は春夫をかくまうふりをして、実は容疑者に仕立て上げていました。
その他の真実
事件関係者は、それぞれ秘密を抱えていました。以下に内容をまとめます。
- 兵藤春夫
実は黒井戸家の女中である本多明日香(ほんだ・あすか)と結婚している。結婚は黒井戸禄助に隠していたが、本多が打ち明け解雇されてしまう。 - 黒井戸花子
黒井戸禄助の寝室から10万円を盗むが、指示したのは母親の黒井戸満つる(くろいど・みつる)だった。実は秘書の冷泉茂一(れいぜい・もいち)も10万円を盗もうとしていた。なお、花子は作家の蘭堂吾郎(らんどう・ごろう)と結婚することになる。 - 来仙恒子(らいせん・つねこ)
復員服の男の母親。金を無心されていた。
原作とドラマの違い
原作はアガサ・クリスティーの「アクロイド殺し」です。原作の舞台はイギリスで、「黒井戸殺し」は日本が舞台になっていますが、ストーリーやトリックなどはほぼ同じです。ただし、原作の方に犯人の姉が大病を患っているという設定はありませんので、結末に関する部分はやや異なるといえます。その他、原作では執事が主人であるアクロイド氏を強請っていましたが、ドラマでは前にいた屋敷で強請をやっていたということになっています。
ドラマ名探偵ポワロでも「アクロイド殺し」は映像化されていますが、名探偵ポワロ版と原作もストーリーやトリックは概ね同じです。
感想と考察
「アクロイド殺し」はアガサ・クリスティーの作品の中でも、かなり有名な作品の一つです。しかしながら、最も重要な証言が嘘だったり、録音機が登場したりするので、飛びぬけて凄いトリックには思えなかったりします。映像化作品だけをみていると、その印象は強くなるように思います。
映像化が難しい理由
原作小説の方には物語の語り手が犯人という叙述トリックが仕掛けられており、これが、名作傑作の理由となっています。もしも、語り手が犯人というのを映像で再現するならば、主人公そのものの視点で物語を進めるなどの工夫が必要になります。主人公そのものの視点というのは、ゲームや小説などでは一人称視点と表現されますが、これは、自身の手や足だけが映る状態で、鏡などを見ない限り、全身はみえません。こういった視点をドラマで再現すれば、主人公が犯人だった(言い換えればカメラマンが犯人だったということになります)ということは可能ですが、映画やドラマなどの映像作品では、滅多に登場しない視点だと思います。
普段はあまり意識しない容疑者――このエピソードの場合は語り手――が犯人という部分に意外性があるため、原作の驚きはひとしおです。ただ、この語り手は探偵の助手という役割が与えられているため、自分自身が犯人という視点のトリックがなくても、意外性があって楽しめます。ドラマでは、犯人っぽくない有名な俳優さんが演じていたので、配役という原作にはない驚きがあったと思います。
なお、原作では手記というあまり一般的ではないかたちで物語が語られています。通常は、語り手の感情や思考が直接描かれることになりますが、手記なので、嘘が含まれていてもおかしくはない形式になります。
まとめ
ドラマ「黒井戸殺し」について、あらすじや真相などをまとめました。アガサ・クリスティの「アクロイド殺し」が原作で、トリックや真相などは同じです。初めて見る方なら、きっと評価はもっと高くなると思いますし、笑えるシーンがいくつか盛り込まれていますので、話を知っていても飽きずにみれると思います。ただ、オリジナルの作品とか、あまり知られていない作品のリメイクをみたいと思ったりもします。
犯人
柴平祐(大泉洋)
姉の手術費用を手に入れるために、夫を殺害した未亡人を脅迫するが、脅迫が原因で未亡人は自殺してしまう。未亡人は婚約者に脅迫について相談していたため、その婚約者も、口封じのために殺すことになる。村唯一の医師という信頼ある人物だったということもあり、探偵の助手となる。手記で事件をまとめるが、もちろん「私が犯人ですよ」などということは一切書かずに嘘まみれで書き上げ探偵に渡す。が、探偵が騙されることはなかった。
仕掛けたアリバイトリックは録音機を使ったものだけだったが、盗みを働いた女性によって、意図せず、二重のアリバイ工作が仕掛けられることになる。
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