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乱歩と千畝|ネタバレ徹底解説・あらすじ・感想【青柳碧人】

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乱歩と千畝(らんぽとちうね)RAMPOとSEMPO』は探偵小説の巨匠・江戸川乱歩と、「命のビザ」で知られる外交官・杉原千畝という、異なる分野で活躍した二人の人生を友情という架空の絆で結びつけた歴史フィクションです。同じ時代を生き、同じ学校(旧制愛知県立第五中学校、早稲田大学)の先輩後輩という共通点から着想を得て、史実を巧みに織り交ぜながら、二人の出会いとそれぞれの人生の足跡、そして再び交錯する運命が描かれます。激動の昭和を背景に、互いに影響を与え合いながら信念を貫く二人の姿が、感動的かつエンターテイメント性豊かに紡がれる作品です。この記事では、あらすじや登場人物、ネタバレ、感想などをまとめています。

項目 評価
【読みやすさ】
スラスラ読める!?
【万人受け】
誰が読んでも面白い!?
【キャラの魅力】
登場人物にひかれる!?
【テーマ】
社会問題などのテーマは?
【飽きさせない工夫】
一気読みできる!?
【ミステリーの面白さ】
トリックとか意外性は!?
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あらすじ

大正8年、まだ何者でもない青年だった平井太郎(後の江戸川乱歩)は、早稲田大学近くの蕎麦屋で、同じ愛知五中出身の後輩・杉原千畝と偶然相席する。人間嫌いを自負する太郎だったが、共通の出身校という縁から話しかけ、二人に奇妙な友情が生まれます。探偵小説家を夢見る太郎と、医者になるという父の期待に背き、語学の道に進むことを決意した千畝。異なる夢と不安を抱えながら、浅草の猥雑な路地を歩き語り合い、それぞれの道へと進んでいく。

小説の特徴

物語は、乱歩が探偵小説の巨匠として名を馳せるまでの苦悩と奮闘、そして千畝が外交官として満州やリトアニアで激動の国際情勢と向き合い、「命のビザ」を発給するまでの葛藤と決断を交互に描きます。二人の人生が直接的に交わることは少ないものの、節目節目で再会し、互いの生き方に深く影響を与え合います。

若き日の横溝正史や、松岡洋右、川島芳子といった歴史上の人物、さらには美空ひばりなどのスターもカメオ出演し、物語に彩りを添えます。戦前、戦中、戦後を駆け抜けた二人の人生が、やがて一つの円環を閉じるように終息する、壮大な友情の物語です。

  • 史実をベースにした「もしも」の物語でありながら、本当にあったかのようなリアリティ
  • 二人の若き日から始まり、激動の昭和史を共に駆け抜け、最終的に円環が閉じるように終息する。江戸川乱歩と杉原千畝、二人の主人公の人生が交互に描かれる並行構成
  • 大正時代から昭和の戦前、戦中、戦後にかけての激動の日本と世界が舞台。東京(特に早稲田、浅草)、満州、リトアニアなど、二人の活躍した場所が登場
  • 読みやすく、引き込まれる文章と巧みな構成力。全体的に明るく爽やかな展開で、感動とユーモアが随所に散りばめられている

テーマ

  • 友情
    異なる分野で活躍した二人の間に育まれる、深く、時には衝突しながらも揺るがない絆
  • 信念と葛藤
    己の信じる道を貫くことの困難さや理想と現実の狭間での苦悩。大きな歴史の流れの中で、個人がいかに決断し、行動していくか
  • 平和の尊さ
    戦争の悲惨さと、平和な時代だからこそ享受できる文化やエンターテイメントの価値

登場人物

  • 江戸川乱歩(平井太郎)
    日本の探偵小説の礎を築いた巨匠。本名は平井太郎。自己評価が低く、締切を守らないなど破天荒な一面を持つ奇人として描かれます。創作への情熱と苦悩を抱えながら、探偵小説というジャンルを確立し、後進の作家たちに大きな影響を与えます。杉原千畝とは旧制中学と大学の先輩後輩にあたり、偶然の出会いから生涯にわたる友情を育みます
  • 杉原千畝
    「命のビザ」で知られる日本の外交官。真面目で誠実な性格で、語学に堪能。外交官としての職務と人道的な信念の間で葛藤し、ユダヤ難民を救うために危険な決断を下します。江戸川乱歩とは対照的な生き方を送りながらも、互いの存在がそれぞれの人生に深く影響を与え合います
  • 江戸川乱歩の妻
    乱歩の破天荒な性格を理解し、時に叱咤激励しながらも、彼の創作活動と生活を献身的に支える存在として描かれます。彼女の存在が、乱歩が偉大な作家となる上で不可欠であったことがわかります
  • 江戸川乱歩の妻
    千畝の人生において重要な役割を果たす女性たち。特に、彼の外交官としてのキャリアや「命のビザ」発給の決断を理解し、支える姿が描かれます。彼女たちの強さと賢さが、千畝の偉業を可能にした一因として強調されます
  • 横溝正史
    若き日の姿で登場し、江戸川乱歩との交流が描かれます。乱歩の批評が彼の作品に影響を与えるなど、日本のミステリー文学史における重要な役割が描かれます
  • 松本清張
    乱歩の批評に感銘を受け、後に著名な作家となる人物の一人として登場します
  • 高木彬光
    同上。乱歩の批評が彼の創作意欲を刺激する場面が描かれます
  • 仁木悦子
    同上。乱歩の批評を読んで、その才能にいち早く気づく人物として登場します
  • 夢野久作
    文壇の著名人として登場し、乱歩との交流が描かれます
  • 萩原朔太郎
    文壇の著名人として登場し、乱歩との交流が描かれます
  • 北里柴三郎
    杉原千畝の人生に影響を与える人物として登場します
  • 松岡洋右
    外交官である杉原千畝が関わる政治家の一人として登場します
  • 川島芳子
    激動の時代を象徴する人物として登場します
  • 古関裕而
    音楽家としてカメオ出演
  • 美空ひばり
    幼少期の姿でカメオ出演
  • 広田弘毅
    杉原千畝が関わる政治家の一人として登場します
  • 根井三郎
    ウラジオストク領事代理として、杉原千畝の「命のビザ」発給に関わる人物として登場します
  • 岡本一平
    漫画家・小説家として登場し、乱歩との交流が描かれます
  • 花菱アチャコ
    漫才師として登場
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感想

江戸川乱歩と杉原千畝、同じ時代を生きながらも全く異なる場所で活躍した二人の間に、まさかこれほどまでに深く、そして尊い友情が描かれるとは想像だにしませんでした。フィクションであると分かっていても、「本当にこんなことがあったのかも?」と思わせるほどのリアリティと、激動の時代を駆け抜けた爽快感がこの作品にはあります。

二人の出会いから始まり、それぞれの人生の足跡が交互に描かれていくのですが、その中で再び、そして三たびと交錯する邂逅が、まるで運命の糸が紡がれるように感じられました。特に、杉原千畝が「命のビザ」を発給する場面では、彼の信念と葛藤がひしひしと伝わり、胸が熱くなりました。そして、その決断の裏に乱歩との友情が影響を与えていたかもしれないという「もしも」の展開は感動的です。

高評価なポイント

  • 史実を超えた友情の描写
    全く接点がなかったとされる二人の間の友情がみごとに描かれている!
  • 読みやすさと構成力
    読みやすい文章と、二人の人生を交互に描く巧みな構成に引き込まれ、一気に読み進められる
  • 妻たちの魅力
    二人の主人公を支える妻たちが、強く、頼もしく、素晴らしい存在として描かれており、物語に深みを与えています
  • 「もしも」の醍醐味とエンタメ性の高さ
    史実ではないからこそ、想像力を掻き立てられ、こんな世界線があったらと胸が躍る。歴史フィクションでありながら、暗くなりがちな時代背景を明るい展開で描き、読者を飽きさせないエンタメ性がある

低評価のポイント

  • 史実との乖離への違和感
    フィクションと理解しつつも、あまりにも史実と異なる設定に無理があると感じてしまう。子供時代の美空ひばりのカメオ出演など、強引にも思える
  • 歴史的情報の浅さ
    史実に関する描写が浅めで、深みに欠ける
  • 登場人物の多さによる混乱
    次々と有名人が登場するため、どこまでが史実でどこからがフィクションなのか混乱するという声や、人物が多すぎて深みが薄れたと感じる
  • 二人の関係性の描写不足
    交互に描かれるパートが多く、二人が共にいる期間が少ないため、友情の意義が薄いと感じる
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結末(ネタバレ注意)

物語のクライマックスは、杉原千畝がリトアニアでユダヤ難民に「命のビザ」を発給する場面です。外務省からの命令に背き、自身のキャリアを犠牲にしてまで人道的な決断を下す千畝の姿が感動的に描かれます。この決断の背景には、若き日に乱歩との交流で得た「自分の信念を貫く」という教えが影響を与えたかのように描かれています。

一方、江戸川乱歩は探偵小説の道を究め、日本のミステリー界の礎を築きます。乱歩の『本陣殺人事件(横溝正史著)』に対する批評が、後の著名な推理作家たち(松本清張、高木彬光、仁木悦子など)に大きな影響を与え、日本のミステリー文学の発展に貢献する様子が描かれます。

二人の人生は、それぞれの場所で大きな功績を残し、多くの人々に希望を与えます。千畝は「命のビザ」によっ て数千人の命を救い、乱歩は数々の傑作を生み出し、後進の作家を育てます。史実では、杉原千畝はビザ発給の責任を問われ、外務省を解雇されますが、物語ではその後の彼の苦悩と、それでも信念を貫いた生き様が描かれます。

最終的に、二人は生涯にわたって数えるほどしか会わなかったにもかかわらず、互いを「真の友人」と認め合う深い絆で結ばれていたことが示唆されます。物語は、二人がそれぞれの人生を全うし、その功績が歴史に刻まれることで終息します。

この本を読んだ後に読みたい推理小説

  • 江戸川乱歩の作品
    • 『人間椅子』
    • 『芋虫』
    • 『屋根裏の散歩者』
    • 『少年探偵団』シリーズ
  • 横溝正史の作品
    • 作中で乱歩との交流が描かれているため、彼の作品にも興味が湧くでしょう
    • 『本陣殺人事件』(横溝正史の作品ですが、作中で乱歩が批評する場面が印象的です)
  • 松本清張の作品
    • 作中で乱歩に影響を受けた作家として登場するため、おすすめです
  • 高木彬光の作品
    • 同様に、作中で乱歩に影響を受けた作家として登場します
  • 青柳碧人氏の他の作品
    • 『むかしむかしあるところに、死体がありました。』シリーズ(「昔ばなし×ミステリ」の代表作)
    • 『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』(本作と同じく歴史上の人物が登場する作品)
  • 有栖川有栖の作品
    • 『濱地健三郎の霊なる事件簿』『濱地健三郎の呪える事件簿』(作中で言及されているため)
  • 三津田信三の作品
    • 『寿ぐ嫁首 怪民研に於ける記録と推理』(作中で言及されているため)

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