劇場版『名探偵コナン 世紀末の魔術師』は、1999年4月17日に公開された映画〈名探偵コナン〉シリーズの第3作目です。服部平次と怪盗キッドが劇場版に初登場した作品となっています。ストーリーとしては、ロマノフ王朝の秘宝「インペリアル・イースター・エッグ」を巡る謎を中心に展開し、歴史上の人物や出来事が関わってきます。
あらすじ
鈴木財閥の蔵から、ロマノフ王朝の遺産である51個目の「インペリアル・イースター・エッグ」、通称「メモリーズ・エッグ」が発見される。
同じ頃、怪盗キッドからエッグを盗み出すという予告状が届いていた。 警視庁は予告状を「8月22日の夕方から翌日の夜明けまでに大阪城の天守閣から盗みに現れる」と解読し、大阪府警と合同で厳重な警備体制を敷く。
コナンたちは、鈴木財閥会長の鈴木史郎から警備を依頼された毛利小五郎に同行し、大阪へ向かう。そこで服部平次や遠山和葉と再会し、エッグを手に入れようとするロシア大使館一等書記官のセルゲイ・オフチンニコフ、美術商の乾将一、ロマノフ王朝研究家の浦思青蘭、映像作家の寒川竜らと出会う。
予告状の真の意味に気付いたコナンだったが…キッドが大阪の街を停電させ、エッグは盗み出されてしまう。コナンと平次はキッドを追跡するのだが、謎の狙撃によりキッドは大阪湾に転落してしまう。
エッグは無事回収されたものの、キッドの生死は不明のまま、コナン一行は鈴木財閥の豪華客船で東京へ戻ることになる。
船上では、エッグを手掛けた職人の子孫である香坂夏美から、もう一つのエッグの存在が示唆される。その夜、船内で寒川竜が何者かに右目を撃たれて殺害される事件が発生。現場の状況から、国際指名手配中の強盗殺人犯「スコーピオン」の犯行と断定される。 スコーピオンが香坂家の城に隠された2つ目のエッグを狙っていると考えたコナンたちは、白鳥警部補と共に横須賀の城へと向かうが、そこでさらなる事件に巻き込まれていく。
登場人物
- 江戸川コナン / 工藤新一
主人公。蘭に正体を疑われ、窮地に立たされる - 毛利蘭
ヒロイン。コナンの誕生日が新一と同じであることから、コナンの正体への疑惑を深める - 毛利小五郎
蘭の父親。鈴木財閥会長の依頼でエッグの警備にあたる - 服部平次
コナンの親友でありライバル。「西の高校生探偵」。劇場版初登場。キッド追跡中に負傷し、戦線離脱する - 遠山和葉
平次の幼馴染。劇場版初登場。蘭や園子と共に大阪観光を楽しむ - 怪盗キッド
神出鬼没の大怪盗。劇場版初登場。エッグを狙うが、スコーピオンに狙撃され行方不明となる - 灰原哀
APTX4869の開発者。劇場版初登場。ロマノフ王朝の知識を披露し、コナンの推理を助ける - 阿笠博士
コナンの理解者。劇場版で初めてダジャレクイズを出題する - 吉田歩美、小嶋元太、円谷光彦
少年探偵団のメンバー。城の謎解きにヒントを与える - 鈴木園子
蘭の親友。劇場版で事件に深く関わるのは本作が初 - 鈴木史郎
鈴木財閥会長。園子の父。劇場版初登場。エッグの警備を小五郎に依頼する - 目暮十三
警視庁捜査一課の警部。寒川竜殺害事件の捜査を担当する - 白鳥任三郎
警視庁捜査一課の警部補。劇場版初登場 - 高木渉
警視庁捜査一課の刑事。劇場版初登場 - 中森銀三
警視庁捜査二課の警部。劇場版初登場。キッド逮捕に執念を燃やす刑事さん - 茶木神太郎
警視庁捜査二課の警視。劇場版初登場
オリジナルキャラクター
- 香坂夏美(こうさか なつみ)
フランスで働くパティシエール。エッグの最初の所有者である香坂家の相続人 - 浦思青蘭(ほし せいらん)
ロマノフ王朝研究家。灰色の瞳を持つ中国人美女 - セルゲイ・オフチンニコフ
ロシア大使館一等書記官。エッグのロシア返還を求める - 乾将一(いぬい しょういち)
美術ブローカー。エッグの高額取引を望む - 寒川竜(さがわ りゅう)
フリーの映像作家。ニコライ二世の娘の指輪を所持していた - 西野真人(にしの まさと)
鈴木財閥会長秘書。多言語に堪能で、羽毛アレルギー - 沢辺蔵之助(さわべ くらのすけ)
香坂家の執事。香坂家の内情に詳しい - スコーピオン(Scorpion)
ロマノフ王朝の財宝を狙う国際指名手配犯。標的の右目を撃ち抜く特徴がある - 香坂喜市(こうさか きいち)
夏美の曾祖父。ロマノフ王朝の細工職人で「世紀末の魔術師」と呼ばれた - グリゴリー・ラスプーチン
ロマノフ王朝に深く関わった実在の人物。作中の事件の鍵となる
ネタバレ
「メモリーズ・エッグ」は、2つのエッグを重ねて下から光を当てることで、内部に隠されたニコライ皇帝一家の写真が周囲に映し出されるという精巧なカラクリが施されていました。その中には、夏美の曾祖母と喜市が写った写真も含まれており、コナンの推理により、夏美の曾祖母が銃殺されたはずのニコライ皇帝の三女・マリア皇女であったことが指摘されます。
喜市はマリアを密かに日本に匿い、彼女の遺体を革命軍から守るために、彼女が所有していた宝石を売って横須賀にドイツ風の城を建て、エッグと共に地下室に埋葬したのでした。
殺人事件の真相
一連の強盗殺人事件の犯人・スコーピオンの正体は、ロマノフ王朝研究家である浦思青蘭でした。青蘭は中国人ではなくロシア人で、ラスプーチンの末裔でした。
青蘭には、ロマノフ王朝の財宝はラスプーチン一族のものになるべきだという考えがありました。そして、先祖の無念を晴らすために、標的の右目を撃ち抜くという方法で強盗殺人を繰り返していました。
- 寒川竜殺害の理由
寒川が青蘭の部屋にあったラスプーチンの写真をビデオカメラで撮影したと思い込み、口封じのために殺害 - 乾将一殺害の理由
乾が青蘭が拳銃にサイレンサーを取り付けているところを目撃してしまったため、口封じのために殺害 - 小五郎と蘭を狙った理由
小五郎がラスプーチンを「世紀の大悪党」と侮辱したため、彼とそれを聞いた蘭を殺害しようとしました
結末
コナンは、青蘭がラスプーチンの末裔であること、そして彼女の銃には最後の1発が残っていることを突き止めます。青蘭は燃え盛る城の中で、コナンの右目を狙って発砲しますが、コナンは事前に阿笠博士に改良してもらった特殊な硬質ガラス製の眼鏡で弾丸を防ぎます。その隙に、どこからか飛んできたトランプが青蘭の拳銃を弾き、コナンが蹴った鎧兜が命中し、青蘭は気絶。駆けつけた白鳥警部補に逮捕され、城からの脱出に成功します。
スコーピオンに狙撃され、海に転落したと思われた怪盗キッドですが、もちろん生きており、実は白鳥警部補に変装し、コナンたち と行動を共にしていました。キッドが青蘭の銃にトランプを投げ、コナンを助けたのは、コナンが負傷したハトを手当てしたことへの「お礼」です。
船の無線電話を盗聴していたキッドは、そこでコナンの正体が工藤新一であることに気づいています。 事件解決後、蘭に正体を明かそうとするコナンを、新一に変装したキッドが引き止め、蘭の疑惑を一時的に晴らしました。キッドはコナンに「世の中には謎 のままにしておいた方がいいこともある」と助言を残し、去っていきます。
感想
『名探偵コナン 世紀末の魔術師』は、劇場版シリーズの中でも人気の高い作品のひとつのようです。その理由は、謎解き、アクション、そして人間ドラマのバランスが非常に優れている点にあります。怪盗キッド、服部平次、灰原哀といった人気キャラクターが劇場版に初登場し、それぞれの個性が光る活躍をみせています。特に、キッドとコナンの頭脳戦や、蘭がコナンの正体に迫る緊迫した展開はみどころです。
ロマノフ王朝の秘宝やラスプーチンといった歴史的要素をストーリーに巧みに取り入れたことで、作品に深みとスケール感が加わっています。また、大阪や横須賀といった実在の場所が舞台となり、臨場感あふれる映像も魅力です。 興行収入が初めて20億円を突破したことからも、本作がシリーズの大きな転換点となったことが伺えます。
余談
上映時間は100分で、興行収入は26億円、観客動員数は216万人を記録しています。
蘭がコナンの正体に迫るシーンが描かれ、これは当時の原作で連載されていた「命がけの復活」シリーズとリンクする展開となっています。作画面では、原作の絵柄に近づける試みや、コンピュータ作業による新たな映像表現が導入されています。
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