『透明な螺旋』は東野圭吾(ひがしの・けいご)氏の長編推理小説です。ガリレオシリーズ10作目で、湯川、草薙、内海といったお馴染みのメンバーが登場します。この記事では、物語のあらすじと真相、読者の感想などをまとめています。
項目 | 説明 |
---|---|
タイトル | 透明な螺旋 |
評価 | |
著者 | 東野圭吾 |
出版社 | 文藝春秋 |
シリーズ | 10作目 |
発行日 | 2021年9月 |
Audible版 | なし |
あらすじ
とある女性が身ごもり出産したのだが、相手の男性が急逝してしまい、経済的な理由で子育てが難しくなってしまう。やむを得ず女性は子供を児童養護施設の前に置いていく決意を固める。女性は手作りの人形を子供に持たせ、子供を捨て、その場から立ち去るのだった。それから月日は流れ――。
島内園香(しまうち・そのか)が生花店での仕事を終えて帰宅すると、一緒に暮らしている母親の千鶴子(ちづこ)が風呂場で倒れていた。病院に運ばれた千鶴子だったが、クモ膜下出血で亡くなってしまう。身寄りのない園香は母子ともに仲良くしていたナエさんという人物を頼る。ナエさんの本名はわからなかったが、年は千鶴子よりも2まわり上の老婦人だった。しばらくして園香は映像関係の仕事をしていた上辻亮太(うえつじ・りょうた)と出会う。その後、一緒に暮らすことになる。
ある日、南房総沖で上辻の遺体が発見される。上辻は背中を銃で撃たれていたため、警察は殺人の可能性が高いと判断する。一緒に暮らしているらしい園香からは、警察に行方不明者届が出されていた。しかし、肝心の園香とは連絡が取れず、勤務先の生花店は休職中になっていた。
捜査を担当する草薙刑事は、内海薫と共に園香のアパートを訪れ捜査を進める。化粧品類がないことから、園香は自分の意思で外出した可能性が高かった。また、園香の親友に事情聴取すると、園香が上辻からDVを受けていたかもしれないという疑惑が浮上する。さらに、園香が頼りそうな人物としてナエという女性の名前が挙がる。
登場人物
主な登場人物をまとめます。事件の中心人物となるのが島内園香です。
名前 | 説明 | 解説 |
---|---|---|
島内園香 しまうち・そのか |
生花店勤務 容疑者 |
上辻と一緒に暮らしていた女性 上辻の死体発見後、行方を暗ます |
上辻亮太 うえつじ・りょうた |
フリーランス 被害者 |
南房総沖で死体となって発見される 園香と一緒に暮らしており暴力をふるっていた |
島内千鶴子 しまうち・ちづこ |
園香の母 | くも膜下出血で他界する 「あさかげ園」の出身 |
アサヒナナ あさひ・なな |
絵本作家 | 園香の部屋にあった絵本の作者 アサヒナナはペンネーム |
湯川学 ゆかわ・まなぶ |
大学教授 | 母親が認知症となり父親が介護している 一人で介護する父親を手助けするため、両親の自宅に滞在中 |
事件概要
物語は、名前のわからない女性が児童養護施設の前に子供を捨てるところから始まります。この女性の相手の男性は脳出血で倒れ、帰らぬ人となってしまいます。月日は流れ、今度は島内園香という若い女性の母親・千鶴子がくも膜下出血で他界します。島内親子はナエさんという老婦人と親しくしていました。詳細が語られるわけではありませんが、千鶴子が捨てられた子供で、ナエという人物が母親であるようにみえます。
相関関係が明確ではないまま、上辻の殺人事件が発生します。上辻はパワハラを繰り返すような人格破綻者で、園香に暴力をふるっていたというのも事実です。そんな上辻が殺され、DV被害者だった園香が疑われることになりますが、園香は行方を暗ましています。
しかしながら、園香にはアリバイがありました。上辻が殺されたと思しき日、園香は友人と京都旅行に出かけていました。完璧なアリバイがあるにも関わらず、逃亡しているらしい園香を警察は探しますが、アリバイがあるのに逃げるというのは、奇妙な行動といえます。
その後の展開をまとめると次のようになります。警察の捜査によって、湯川と事件関係者の接点や上辻と連絡を取っていた人物、園香が身を隠していそうな場所などが判明します。
園香のアパートからアサヒナナという作者が書いた絵本が3冊も見つかり、草薙と内海はアサヒナナがナエさんであると考える。調べてみるとアサヒナナの本名は松永奈江(まつなが・なえ)だった。松永から話を聞くため、草薙達は松永のマンションへと向かうが、留守だった。防犯カメラを調べてみると、園香が映っており、時間をずらして松永も映っていることがわかった。このことから草薙は、園香と松永が行動を共にしていると断定する。
松永奈江の絵本には、参考文献が記載されており、そこに湯川学(ゆかわ・まなぶ)の著書『もしもモノポールと出会えたなら』が書かれた。湯川と松永奈江の接点を期待して、草薙は湯川を訪ねる。湯川は認知症になってしまった母親を一人で介護している父親を手伝うため、両親の自宅に滞在していた。
草薙は湯川に、奈江をおびき出すような嘘のメールを送るよう頼みますが、湯川は断る。しかし、別のかたちで協力する旨を伝え、後日、園香の母親である千鶴子が働いていた児童養護施設「あさけげ園」へと向かう。そこで、半年ほど前に、画像の許諾に関する抜き打ち調査が行われたという事実を知る。その時、調査員が電話したのが園香で、園香はある人形を手に持っていた。
上辻の携帯を調べると、殺される前に上辻が銀座のママである根岸秀美(ねぎし・ひでみ)と連絡を取っていたことがわかる。顔見知りの草薙が根岸を訪ねると、秀美は園香をホステスとしてスカウトしようとしていたと話す。しかし、上辻がしゃしゃり出てきて、300万円もの支度金を要求したため、園香に男を見る目がないと思い、あきらめたという。草薙は、根岸が園香の生花店を訪ねたにも関わらず、そのことを隠したため、根岸も疑うことになる。
湯川と内海は以前松永奈江が暮らしていた場所を訪れる。そこには島内親子も訪れていた。近隣住民の話に聞き込みをすると、松永奈江はあるリゾートマンションを頻繁に利用していたという。そのマンションは亡くなった夫のスキー仲間が所有していたらしく、スペアキーも渡されていたという。
警察はそのマンションこそが園香と松永の潜伏先であると考え、捜査員を送るが、松永達は既に立ち去った後だった。この状況に対して、草薙と内海は湯川が情報を漏らしたのではないかと疑い始めることになる。
ネタバレ
上辻亮太を殺した犯人は根岸秀美です。根岸は自分の捨てた子が千鶴子だと思っていました。つまり、園香は孫娘ということになります。孫が暴力を振るわれていることを知った根岸は、かつての恋人から渡された密造銃を使って上辻を殺害しました。
京都旅行や行方不明者届の提出を指示したのも根岸です。根岸は園香が疑われないような殺人計画を立ていました。誤算となったのは、園香が自ら逃亡してしまったことです。園香が逃げたことで、アリバイがあるのに逃げるというちぐはぐな状況が生じてしまい、結局、警察に追われてしまいます。園香の逃亡を手助けしたのは松永奈江ですが、松永本人は具体的なことを知りませんでした。
根岸は子供を捨てた「あさかげ園」のホームページを時折覗いていました。そして、根岸が手作りした人形を園香が持っていることに気付き、私立探偵を雇って、調査させました。すなわち、ホームページの画像うんぬんという調査は探偵の仕業だったということになります。
なお、根岸が作った人形には“望夢”と書かれており、これは根岸と急死した夫が子供につけようとしていた名前です。“のぞみ”もしくは“のぞむ”と読み男の子・女の子を選ばない名前です。根岸が営むクラブの名前VOWM(ボウム)も、望夢からとられています。
湯川
松永奈江に捜査情報を漏らしたのは湯川学です。実は松永奈江は湯川学の実の母親でした。認知症になってしまった母親と介護していた父親は養親で、血のつながりはありません。なお、湯川の養母は亡くなってしまいます。
嘘と真実
根岸秀美は自分の子供が島内千鶴子で、孫が島内園香であると認識していましたが、警察にはこの事実を隠します。根岸の供述は、園香は自分にとってアイドルだったというものでした。そして最後まで、この嘘を貫き通します。
一方、園香は違う認識でいました。それは、根岸秀美と千鶴子が親子ではないというものです。園香は千鶴子から、人形は千鶴子が「あさかげ園」で貰ったと聞かされていました。そして、千鶴子は園の前に捨てられたのではなく、公園で保護されたとも話していたようです。千鶴子は亡くなっているため、又聞きの情報になりますが、少なくとも園香は根岸が自分の祖母ではないと考えていました。しかし、金目当てのために、上辻が園香に孫のふりをさせました。DNA鑑定は別のおばあちゃんと孫を調べただけで、根岸と園香の鑑定ではありませんでした。
根岸が全く疑っていなかったかというと、そうではありません。根岸には園香が本当の孫ではないかもしれないと考えたこともありました。しかし、真実ではなく、孫と過ごしたかけがえのない思い出にひたる道を選びました。
感想と考察
ガリレオといえば科学トリックですが、今作は科学らしきものがほとんど登場しませんでした。湯川が卒研で発表した磁界歯車(磁力を引き上げる実験)やモノポールという単語が科学らしかったといえます。「容疑者X」や「沈黙のパレード」もそうでしたが、科学よりは、人間ドラマに焦点が当てられていた作品だと思います。2023年現在、ガリレオシリーズの最新作です。映画化、もしくは、ドラマ化されるかもしれない作品です。キャストが誰になるかというのを考えながら(ほんの一瞬でしたが)、読んだりもしました。ガリレオシリーズだから読んだ、東野圭吾氏の作品だから読んだ、という方が多いかもしれません。ちなみに私は前者でした。シリーズでお馴染みの草薙や内海が、淡々と捜査する印象です。湯川があまり登場しないので、退屈かもしれません。しかしながら、ガリレオシリーズを知っている方は、読む価値があると思います。
タイトルの意味
「透明な螺旋」というのは、湯川学と松永奈江の関係を意味しているのかもしれません。螺旋というのは、DNAの暗喩で、ここから遺伝や親子関係というものを連想することができます。そして“透明な”というのが、見えないということだとすると、「透明な螺旋=見えない親子関係」ということになります。作中で親子関係が最後までわからなかったのは、湯川と松永だけなので、この二人の関係は透明な螺旋といえます。
根岸秀美と島内園香も、見方を変えれば、“透明な螺旋”と表現できそうです。祖母と孫の関係ではないかもしれないけど、根岸はその関係を信じています。これは、誰にもみえないけれど確かにあるものという意味で透明という言葉が用いられているとも考えられます。
みんなの感想
口コミを調べてみると、やっぱり面白い、とても読みやすい、一気に読めるなどなど、ポジティブ感想が書き込まれています。一方で、ちょっと物足りないという感想もみられます。
面白い
面白いという言葉が書き込まれています。ありきたりではありますが、わかりやすい誉め言葉だと思います。
ガリレオシリーズも第十弾ということで、読む前から非情に楽しみで仕方ありませんでした。当たり前に面白いです。
安定の面白さです。ただのミステリーだけで終わらないのも良かったです。
面白かった。けど、物語だとわかっていてもDVの描写を読むのはしんどかったかも。サラッと読めるのは高評価かもしれないけど、さらっとし過ぎて物足りないと思う人もいそう。
普通にまあまあ面白かった。これはたぶんこのシリーズを全部読んできたからで、ここまでの東野作品を読んできたからこそ、この本読んでよかったなって思うのかもしれない。
ガリレオの長編は安定して面白い。愛や家族がテーマの物語で、優しさがしみる。終盤の盛り上がりがすごい。
まとめ
東野圭吾著「透明な螺旋」について、あらすじ、みんなの感想、ネタバレなどをまとめました。2021年9月に単行本が刊行され、まだ文庫版は売り出されていません。文庫化までに3年程度かかるようなので、文庫が発売されるのは、2024年頃になるのではないかと思います。また、現在のところ、映画化やドラマ化の発表はありません。
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