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私雨邸の殺人に関する各人の視点【あらすじ・ネタバレ解説・感想】

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 「私雨邸の殺人に関する各人の視点」は渡辺優(わたなべ・ゆう)氏の推理小説で、館もののクローズド・サークルに加え、密室やダイイング・メッセージなども登場します。この記事では、物語のあらすじと真相、みんなの感想などをまとめています。

項目 説明
タイトル 私雨邸の殺人…
評価
著者 渡辺優
出版社 双葉社
シリーズ 単発
発売日 2023年4月
Audible版 なし
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あらすじ

雨目石(あまめいし)家の別荘である私雨邸(わたくしあめてい)に集まった雨目石昭吉(しょうきち)とその三人の孫達。客人として招待されたのはミステリ同好会に所属する二人の大学生だけだったが、トレッキングの最中に足をくじいた水野と写真撮影のために寄っただけだった編集者の牧が加わる。日雇い料理人の恋田に、会長である雨目石昭吉の補佐を務める石塚を加えて総勢十名が私雨邸で夕食を共にすることになるが、そこに、自殺に失敗した田中がやってくる。

私雨邸は過去に殺人が起きたこともあるいわくつきの別荘だった。そんな私雨邸に通ずる道が土砂で塞がれてしまい、田中を含めた十一名は別荘に閉じ込められてしまう。

翌日、帰りたくても帰れない状況になってしまった面々は、思い思いに過ごし、再び夕食の時間を迎える。雨目石昭吉は胃の不調を訴えて部屋に戻り、田中はひとり自分の部屋で過ごすようだった。前菜から始まる豪勢なディナーはつつがなく進行し、デザートの段となって11歳の雨目石サクラが席を外す。しばらくして戻ってきたサクラは雨目石梗介に向かって“おじいさまが死んでいる”と口にするのだった。

登場人物

主な登場人物をまとめます。私雨邸に閉じ込められた十一名以外の人物はほぼ登場しません。

名前 説明 解説
雨目石昭吉
あまめいし・しょうきち
被害者 雨目石鋼機(株)の名誉会長
77歳の男性で車椅子を使っている
雨目石さくら
あまめいし・さくら
第一発見者
容疑者
昭吉の孫で小学生。11歳
雨目石梗介
あまめいし・きょうすけ
語り手
容疑者
昭吉の孫。29歳
さくらとは兄妹であるが母親の違う
雨目石杏花
あまめいし・きょうか
容疑者 昭吉の孫。25歳
サクラや梗介のいとこ
石塚
いしづか
容疑者 雨目石鋼機(株)の社員。52歳
会長補佐を務める
二ノ宮
にのみや
語り手
容疑者
T大学ミステリ同好会の会員。18歳
クローズドサークルに喜ぶ
一条
いちじょう
容疑者 T大学ミステリ同好会の会長。21歳
恋田
こいた
容疑者 日雇い料理人。44歳
水野
みずの
容疑者 会社員。33歳
トレッキング中に足をくじく

まき
語り手
容疑者
雑誌編集者。24歳
田中
まき
容疑者 自殺未遂のあと私雨邸へやって来る
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ネタバレ

“おじいさま”こと雨目石昭吉は自室で車椅子に座ったまま背中を刺されて死んでいました。一同は警察を呼ぼうとしますが、ルーターなどが破壊されてしまったため、外部とは連絡できない状態になってしまいます。

昭吉が死んでいた部屋は私雨邸本館の三階にあり、密室状態でした。部屋の扉は施錠され、窓にもクレセント錠がかかっていました。鍵は室内に置いてあり、合鍵はなく、マスターキーは鍵付きの引き出しに保管されていました。密室だけではなく、死体のそばには血文字で書かれたTというダイイング・メッセージも残されていた。また、凶器の短剣にまったく指紋が残っていなかったことから、予め犯行用の手袋を準備していた可能性が浮かび上がります。

その後、それぞれの証言により犯行時刻が絞られ、昭吉は夕食の最中に殺害されたと推理されます。このとき完全なるアリバイがなかったのは、牧、恋田、そして、田中の三人でした。お約束の外部犯説が登場し、屋敷の捜索が始まったりもしますが、結局、不審者はみつかりません。

翌日、今度は恋田の死体が雨目石昭吉の自室で発見されます。部屋は密室状態になっており、ダイイング・メッセージも死体のそばに残されていました。しかしその文字はTではなく、何故かKでした。

真相解説

雨目石昭吉と恋田を殺した犯人は牧です。牧と杏花は同級生で、杏花にお嬢様という役割を押し付ける昭吉氏が許せず、牧は昭吉を殺します。牧は杏花に憧憬を抱き、理想の女性として崇拝しているような節がありました。つまり動機は権力者から被支配者を解放することだったといえます。

恋田を殺したのも牧ですが、その動機は犯人であることを見破られたからです。恋田は牧が食事の写真を撮影しなかったことを根拠に牧が昭吉殺害の犯人であると考えていました。このことを恋田は牧に伝え、嘱託殺人を願い出ます。恋田は動物をひき殺してしまったといっていましたが、実は相手は人間でした。そのことを後悔して死を望んでいました。殺人を依頼された牧は恋田を昭吉の部屋で殺害し、昭吉のときと同じ方法で密室にしました。

密室は、昭吉の部屋に置かれていた鍵が実は別の部屋の鍵だったというトリックが使われています。本物の鍵は牧が持っており、事件発覚後にすり替えていました。密室にした理由は事件の発覚を遅らせるためです。Tのダイイング・メッセージは牧が残したもので、これは田中に疑いの目を向けるという意図がありました。恋田の死体付近にあったKのダイイング・メッセージは恋田自身が書き残したもので、これは恋田が書きたかったことを書き残しただけでした。凶器に指紋が残っていなかったのは、牧がパズル用の糊を手に塗っていたからでした。なお、牧は私雨邸でパズルをしていたときに、この方法を思い付いています。

謎の人物である田中は実は、私雨邸で起きた殺人事件の関係者でした。事件で亡くなったのは私雨という名前の人物で、その孫が田中でした。田中というのは偽名で、私雨が本名です。

終盤、真犯人である牧は毒を飲んで自殺を図ります。一命を取り留めそうな雰囲気になりますが、結局死んでしまいます。世間では自殺と判断されているようですが、とどめを刺したのは雨目石杏花です。杏花は様々な人物を演じており、他人の中で生きていました。もちろん牧にみせていたキャラクターもそのひとつに過ぎませんでした。

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感想と考察

ミステリー要素がてんこ盛りの推理小説でした。館クロサー、密室、ダイイング・メッセージに加え、読者への挑戦や多重解決、そして信用できない語り手も登場します。完全犯罪を狙う異常なほどに頭のいい犯人や、その上をいく名探偵や名刑事、などというのはリアリティがないかもしれず、本作では普通だったらこうなるというのが描かれていたと思います。基本的にパズルとしか考えていない私のようなミステリファンにとっては、いろいろなことに気付かされる作品でした。

みなさんの口コミをみていると、大学生の二ノ宮についてコメントしている方が多く、ウザい、不快、イライラなどなどの内容がほとんどでした。確かに、という感じですが、真っ先に殺されそうな(というか殺されて欲しい)人物が語り手に選ばれているというのは、新鮮かもしれません。

みんなの感想

 口コミを調べてみると、読みやすいというポジティブな感想が投稿されています。動機が弱いという意見もあるようです。

クロサー

 クロサーとは、クローズド・サークルの略です。館ものクローズド・サークルは館クロサーと略されます。

ミステリファンなら一度は憧れるであろう館クロサー。二ノ宮のテンションはわからないでもないけれど、あれが後輩だと嫌(笑)

クロサーを限りなく現実として捉えた言動や心理も面白い。現実のクロサー事件が起きたら、こんな感じかもですね。

わーい、クローズドサークルだ!館だ!!密室だ!!!読者への挑戦的なメッセージにもテンションアゲアゲ~

視点

 各人の視点というタイトルの通り、物語は複数の登場人物の視点で語られます。

視点が変わるので、最初はちょっと慣れなかったけど、最後は多視点をうまく使った一冊だと思えた。

三人の視点で殺人事件を追うことになるのだが、いろいろと翻弄されます。整理が難しいという面もあるし、同じ事実を多面的に見る事ができるのが面白かったりもします。

語り手の二ノ宮と水野が好きになれなかった。比較的探偵っぽくてまともそうな一条やサクラちゃんの視点がみたかったかな。

コメント

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