「満願」は米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)氏の短編集です。6つのミステリーが収録されており、うち3編はドラマ化され、2018年8月にNHKで放送されました。この記事では各短編のあらすじと真相、考察、感想などをご紹介します。
項目 | 説明 |
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タイトル | 満願 |
評価 | |
著者 | 米澤穂信 |
出版社 | 新潮社 |
シリーズ | – |
発行日 | 2014年3月 |
Audible版 | あり |
夜警
川藤浩巡査の葬儀が終わり、柳岡巡査部長は過去を振り返る。川藤は警察の仕事に向いていなかった。ちょっとした騒動で拳銃に手をやることもあれば、ミスを誤魔化そうとする性格の持ち主でもあった。
川藤が殉職したのは、田原という男が自宅で妻に向かって刃物を振り回して暴れた事件だった。川藤の一言で豹変した男は刃物を持って迫った。川藤は発砲を繰り返したが、首を切られてしまった。そして、血を流しながら川藤は「こんなはずじゃなかった」「上手くいったのに」と呟きながら死んでいった…。
事件が起きたその日、川藤は工事現場の誘導員が倒れたと報告していた。また、兄に「とんでもないことになった」というメールを送っているようだった。
ネタバレ
拳銃好きだった川藤は交番で一人になった時に、銃で遊んでいました。このとき、誤って発砲してしまいます。工事現場で誘導員が倒れたのは、川藤の撃った弾が誘導員の頭に当たったからでした。
大失態を犯した川藤は発砲を隠すために、兄に「とんでもないことになった」というメールを送って相談しました。しかし、メールに返事はなく、切羽詰まった川藤は発砲しなければならない状況を作りだすため、田原を煽って事件を起こさせました。煽り文句は、田原の妻が警官と浮気をしているという内容でした。
川藤の計画は途中までうまくいっていましたが、暴走した田原に殺されてしまいます。
死人宿
2年前に行方不明になった佐和子が栃木の山奥に位置する別の温泉宿で従業員として働いていることを知り、私はその宿に向かった。
2年ぶりに再会した佐和子は宿が自殺の名所であることを明かし、脱衣場のカゴに置き忘れられた遺書を私に手渡した。その遺書の持ち主は、3名の宿泊客に絞り込まれたが…。
ネタバレ
主人公は丸田という人物の自殺を止めます。しかし、3人のうち、別のひとりが自殺してしまいます。自殺してしまった女性の部屋には宿のものではない浴衣が置いてあり、主人公はそれが死装束だったことに気付きます。
柘榴
男達を魅了するさおりは、大学のゼミで不思議な魅力をもつ佐原成海と出会い婚約する。さおりの父親に反対されたが、妊娠という事実をつくって強引に結婚した。その後、さおりは夕子と月子という二人の娘を授かった。娘達は母に似て、とても美人だった。
「佐原成海は、私のトロフィーなのだ」と思っていたいたさおりだったが、佐原成海はダメな夫だった。ついに離婚を決意したさおりは佐原成海と親権を巡って争うことになる。さおりは、ろくに働かず、家事や育児にも消極的だった佐原成海に親権が渡ることはないと考えていたが…。
ネタバレ
審判官の判断により、親権は佐原成海に属することになります。理由は娘が母親による虐待を訴えたからでした。
虐待という事実はなく、娘達は嘘をついていました。嘘をついた理由は長女の夕子が父親を愛していたからです。母親のさおり同様、「佐原成海は、私のトロフィーなのだ」と考えていた夕子は父親を自分のものにするために、妹の月子を言いくるめて、虐待という嘘を証言します。
さらに、佐原成海を独り占めするため、自分と同じように美人であり、自分とは違った魅力をもつであろう妹の月子には傷を負わせます。
万灯
井桁(いげた)商事で天然ガス事業に従事していた伊丹は、バングラデシュでの開発プロジェクトを命ぜられる。現地調査すら満足に行われていないバングラデシュは厳しい環境に違いなく、ある日、調査班のライトバンが事故を起こしてしまう。乗車していた部下の高野は左腕を失い、現地人は死んでしまう。
大怪我を負った高野はバングラデシュを去った。しかし、新しい部下の斎藤が補充され、開発プロジェクトは続いた。伊丹は、高野事故を機に医療スタッフなどを配置する拠点が必要だと考え、候補地としてボイシャク村に目をつける。ところが、村の長老であるアラムとの交渉が難航してしまう。
そんな状況下で、ボイシャク村から伊丹宛に手紙が届き、村に呼び出される。伊丹が村へ向かうと、そこにはフランスのエネルギー企業に勤める森下という男がいた。森下もボイシャク村から呼び出された人物だった。その後、伊丹と森下はアラムに反対するシャハ・ジンナーという老人に会い、アラム殺害を持ち掛けられることになる。
ネタバレ
伊丹はバングラデシュ開発という目的が一致した森下とともに、シャハ・ジンナーの申し出を受け入れ、アラムをひき殺します。その後、伊丹は日本に帰国した森下も口封じのために殺害します。
伊丹と森下の接点を知る人物はボイシャク村の限られた人物しかいないので、森下の死に関して、伊丹が容疑者になる可能性はほぼないといっていいほどでした。
完全犯罪を成し遂げたようにみえた伊丹でしたが、日本のホテルでコレラを発症します。空港の検疫では問題なかったこと、森下が滞在した場所でコレラの患者が続出していることなどから、伊丹は森下からコレラに感染したようでした。
森下との接点を知られたくない伊丹は病院へ行くこともできず、ホテルで裁きを待つことになります。
関守
主人公のフリーライターは都市伝説の取材のため、伊豆半島の桂谷峠を訪れた。長いドライブの後、ドライブインで休憩していると、店主である老婆から話を聞くことができた。
桂谷峠では、毎年死亡事故が起きており「死を呼ぶ峠」という異名までつけられていた。都市伝説のネタを提供した主人公の先輩は単なる都市伝説ではないかもしれないと考えている様子だったが、主人公は金のために取材を引き受けたのだった。
ドライブインの老婆によれば、昨年に亡くなったのが県庁職員の前野拓矢、二年前が田沢翔と藤井香奈というカップル、そして三年前が大学生の大塚史人だった。死亡事故についてよく憶えている老婆は最後に四年前に死んだ高田太志について語り始める。
ネタバレ
都市伝説の真相は老婆による殺人でした。四年前に死んだ高田は老婆の娘の夫で、ヒモ同然だったため、老婆が殺害しました。このとき凶器に使ったのが石仏で、殴打の衝撃で首が折れてしまいます。
その後、石仏が観光スポットになったため、老婆は高田殺害を隠すために、殺人を重ねることになります。大学生の大塚は石仏が折れていることを見抜き、田沢は暴れて石仏を蹴り飛ばし接着剤の跡に気付きました。県職員の前野は石仏を観光資源にしようとしていました。
最後、真相を聞いてしまった主人公は老婆に殺されることになります。老婆はどうやら、主人公と先輩を間違えているようでした。
満願
弁護士の藤井は鵜川妙子に関する刑事事件を担当することになる。藤井と鵜川妙子は知人同士で、その昔、学生だった藤井は鵜川夫妻の畳屋に下宿していた。畳屋は繁盛していなかったが、鵜川妙子はいい人で、家宝の掛け軸を大切にしていた。
そんな鵜川妙子は借金取りの矢場英司を殺害した。現場は鵜川の自宅で、凶器は包丁だった。現場には血が飛び散り、座布団やだるまにまで血痕が残っていた。
一審で妙子は正当防衛を主張したが、懲役8年の実刑判決が下される。藤井が第二審の準備を進める中、妙子の夫である重治が病死してしまう。その後、妙子が控訴を取り下げたため、一審の刑が確定することになる。
ネタバレ
藤井は現場にあったダルマが背を向けていたことから、計画殺人を疑います。そして、鵜川妙子が掛け軸に血痕を残すために、犯行に及んだことに気付きます。
鵜川夫妻には借金があったので、家財などのは差し押さえられてしまいます。しかし、掛け軸に血痕が付着し証拠品となれば、差し押さえは免れることになります。妙子のねらいは掛け軸の差し押さえを阻止することにあり、正当防衛を主張したのは夫が死ぬまでの時間を稼ぐためでした。
裁判の途中で夫の重治が亡くなったため、妙子は保険金を手にすることになります。この保険金で借金を返せば、掛け軸が証拠品でなくなっても、差し押さえられることはありません。
感想
このミステリーがすごい、ミステリーが読みたい、週刊文春ミステリーランキングで2015年度に1位に輝いた作品で、ミステリー三冠を達成しています。全体的に暗い雰囲気ではありますが、どの作品も結末に意外性があって楽しめます。
考察
意外な動機を描いた作品が多かったです。「夜警」と「満願」は殺人が絡んでいるので、人を殺してまでやることかと思ったりもしますが、大半の人は計画殺人の経験がないので、否定も肯定もできない気がします。「柘榴」もやはり、異常者や変な人みたいな認識で落ち着くのかもしれません。
「死人宿」は自殺志願者は一人しかいないというミスリードを誘っていました。個人的にはこの作品が面白かったです。「万灯」は普段それほど意識しないけれど知識としてはよく知っている感染症が登場しています。感染症は思い付かなかった!と感じるか、結局のところ、脳卒中や交通事故と同じではないかと感じるかは、人それぞれです。
「関守」は他の作品とは異なり、ミステリーというよりは、ホラーな作品でした。取材した相手が殺人鬼で、主人公が殺されてしまうという物語でした。
みんなの感想
読者のレビューをAIで1枚の画像にまとめました。
全体的に仄暗い世界観の作品でしたが、面白かった。短編なので当たり前ですが、さくっと読めます。
どの話も後味が悪い。イヤミスなのかもしれないけど、胸糞悪い感じではない。この後味の悪さがストーリーの印象を深くしているように感じた。
短編ですが、物語に重さがあったので、物足りなさはありませんでした。意表を突く展開や結末に驚かされるのは間違いないです。
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