『悪魔が来りて笛を吹く』のあらすじと真相、相関図、感想などをまとめています。原作は横溝正史氏の推理小説で、映画やドラマなどで映像化もされています。2018年7月にはNHKで吉岡秀隆さん主演のドラマが放送されました。
あらすじ
1947年・昭和22年9月28日、私立探偵の金田一耕助を椿美禰子(つばき・みねこ)が訪ねてくる。美禰子は元子爵の椿英輔(つばき・ひですけ)の娘だった。
椿英輔は「天銀堂事件」の容疑者となった人物で、5カ月ほど前の4月14日に信州の霧ヶ峰で遺体となって発見された。死んだ英輔は娘の美禰子に遺言を残しており、のちに、自殺と判断されることになる。
天銀堂事件は銀座の宝石店で宝石が盗まれた事件だった。犯人は衛生員を名乗って、店員らに伝染病の予防薬を飲ませた。この予防薬は、実は青酸カリで、騙された店員10名は殺害されてしまう。犯人は宝石などの金品を奪って逃亡。モンタージュ写真とそっくりだった椿英輔子爵が捕まるが、アリバイがあったため、釈放される。
死んだはずの英輔だったが、美禰子の母親である椿秌子(つばき・あきこ)が、英輔らしき人物を目撃したと騒ぎ始めてしまう。秌子は、兄の新宮利彦(しんぐう・としひこ)や元伯爵の玉虫公丸(たまむし・きみまる)と共に、英輔を粗末に扱っていたため、復讐を恐れていた。そんな事情から、秌子の主治医である目賀(めが)博士主導のもと、“砂占い”で英輔の生死を占うことになる。美禰子は金田一に占いへの同席を求めるのだった。
依頼を引き受けた金田一は、六本木にある椿家を訪れ砂占いに同席する。計画停電によって、途中、暗闇に包まれたが、特に異常はなかった。しかし、砂の上に描かれた火焔太鼓と、どこからともなく聞こえてくる「悪魔が来りて笛を吹く」という曲によって、一同は騒然となる。のちに、曲は蓄音機から流れていたことが判明し、火焔太鼓は英輔が“悪魔の紋章”として手帳に書き込んでいた模様であることもわかる。
その日の深夜3時頃。元伯爵の玉虫公丸の他殺体が発見される。現場には火焔太鼓の模様が残されており、屋敷には英輔がフルートを吹きながら現れたという。警察が屋敷を調べたところ、英輔のフルートケースがみつかり、その中には、天銀堂事件で盗まれたイヤリングが納められていた。
捜査を担当する等々力警部によれば、天銀堂事件で椿英輔子爵は、匿名の手紙によって告発されたという。その手紙には、英輔が天銀堂事件の前後に姿を消していたことや、事件後に帰宅しイヤリングの換金について三島東太郎(みしま・とうたろう)と相談していたことなどが記されていた。この手紙の内容から、告発者は椿家の内部事情に詳しい人物だと考えられているという。なお、子爵は警察の取り調べで、神戸市の須磨を訪れていたことを認めていた。
金田一と等々力警部が事情聴取を進めていると、そこに秌子の兄である新宮利彦が闖入する。ひどく酒に酔っている様子の利彦には、背中に火焔太鼓、すなわち、悪魔の紋章に似た痣があった。
登場人物・キャスト
登場人物とキャストをまとめます。映像化された作品は映画とテレビドラマを含めて7作品ほどあります。ここでは、2016年に放送されたNHKドラマのキャストをまとめています。
名前 読み |
NHKドラマ 2016年 |
説明 |
---|---|---|
金田一耕助 きんだいち・こうすけ |
吉岡秀隆 | 私立探偵 |
椿美禰子 つばき・みねこ |
志田未来 | 父である英輔の生死を確認するため、金田一に調査を依頼する 母の秌子と異なり、お世辞にも美人とは言い難い容貌 |
椿秌子 つばき・あきこ |
筒井真理子 | 英輔の妻で美禰子の母親 40歳とは思えない美魔女 |
新宮利彦 しんぐう・としひこ |
村上淳 | 秌子の兄で元子爵。神経質な性格 左肩に火焔太鼓の痣がある |
玉虫公丸 たまむし・きみまる |
中村育二 | 秌子と利彦の伯父で元伯爵 椿家で暮らしている |
三島東太郎 みしま・とうたろう |
中村蒼 | 椿家の書生 戦争で中指の半分、薬指の3分の2を失う |
堀井駒子 ほりい・こまこ |
黒沢あすか | 玉虫家の別荘に出入りしていた植木屋の娘 何者かに暴行され、小夜子を出産する |
相関図
主要登場人物をまとめると次のようになります。
解説
天銀堂事件の容疑者となって釈放された後に自殺してしまった椿英輔子爵が生きているかもしれない、ということで占ってみたところ、意味深な模様が現れ、怪しげな曲が流れてきます。その夜、玉虫公丸が殺され、現場には英輔が生きていることを匂わすような証拠が残っていました。その後の展開をまとめると次のようになります。
翌日、英輔の遺書は天銀堂事件で捕まるよりも前に書かれていたことがわかり、金田一は、さらなる調査のため、出川刑事と共に神戸市須磨へと向かいます。まず訪れたのは、英輔が宿泊した三春園という旅館で、女将が近くに死んだ玉虫の別荘があり、秌子もよくみかけたと話します。そして、別荘に出入りしていた植木屋の娘が妊娠し、本当の父親がわからぬまま、小夜子という娘を出産したことも金田一に伝えます。
その後、金田一は出川と別行動をとり、玉虫の別荘跡地へと向かいます。そしてそこで、石燈籠に青鉛筆で書かれた「悪魔ここに誕生す」という落書きを見つけることになります。一方、出川は植木屋の辰五郎について調べ、辰五郎が空襲で亡くなっていることを知ります。辰五郎は娘の駒子が妊娠してから急に羽振りがよくなったらしく、植木屋は辞めていました。さらに、辰五郎には治雄(はるお)という息子がおり、最後の妾はおたまという女性だったこともわかります。
出川はおたまを探そうとしますが、彼女は行方を暗ましており、居場所を掴むことはできなません。捜査に行き詰ったと思ったそのとき、淡路島に住む妙海という尼僧がおたまを訪ねてきていたことを知ります。時期は、玉虫殺害が新聞で報道された直後で、妙海と駒子は似ているようでした。
金田一と出川は淡路島へと向かいます。しかし、妙海は既に殺されていました。しかし、妙海の世話をしていた慈道(じどう)という住職から話を聞くことができ、慈道によれば、駒子を妊娠させた相手は新宮利彦で、娘の小夜子は既に自殺していました。妙海は生前、新宮の死を危惧していたようですが、この直後に、それが現実のものとなってしまいます。
金田一は新宮利彦が殺された六本木の屋敷へと戻ります。新宮が殺された晩、屋敷にいたのは秌子と女中のお種だけで、ほとんどが外出中でした。現場に秌子の指輪が残されていたことから、金田一は新宮利彦の偽装を見抜きます。新宮利彦は妹の秌子に金をせびるため、屋敷にほとんど人がいないという状況を作り出したようでした。
その後、金田一の推理によって、天銀堂事件の容疑者が再調査されることになります。そして、天銀堂事件の真犯人である飯尾豊三郎(いいお・とよさぶろう)という男の死体が発見されます。さらに、秌子も青酸カリを盛られて死んでしまいます。
謎
椿英輔が生きているかもしれないというのが発端で、英輔らしき人物も登場します。しかし、その生死は定かではありません。砂占い後に殺された玉虫公丸、新宮利彦、妙海(駒子)、飯尾豊三郎、椿秌子の五人は、英輔によって殺されたようにもみえます。
英輔は「父はこれ以上の屈辱、不名誉に耐えていくことは出来ないのだ。由緒ある椿の家名も、これが暴露されると、泥沼のなかへ落ちてしまう。ああ、悪魔が来りて笛を吹く」という言葉を残して自殺しました。屈辱、不名誉などの言葉から、天銀堂事件で容疑者となったことが自殺の原因のようにも思えます。
英輔は別荘の跡地に「悪魔ここに誕生す」という言葉も落書きしています。悪魔という言葉が共通しているわけですが、何を意味しているのかは不明です。ただし、跡地に落書きしたのは、天銀堂事件の前のはずですから、悪魔という単語が同じことを指し示しているわけではなさそうです。
天銀堂事件については、真犯人の飯尾が殺されています。英輔に容疑がかかったのは悲劇としか言いようがありませんが、英輔が犯人であると告発した人物がいます。この人物は、椿家の内情に詳しいはずですが、誰なのかはわかりません。
真相(ネタバレ注意)
犯人は書生の三島東太郎です。三島は実は偽者で、その正体は河村治雄でした。なお、本物の三島東太郎は既に戦争で病死しています。
治雄は戸籍上、辰五郎と妾の子だとされていましたが、実は、椿秌子と新宮利彦の間に生まれた子供でした。秌子と利彦は兄妹ですので、治雄は近親相姦によって生まれた子ということになります。このことを知っていた椿英輔は、治雄のことを“悪魔”と呼び、スキャンダルが知れ渡ることを恐れて自殺しました。
治雄はしばらく自分の出生について知らずにいましたが、終戦後、ある人物の自殺をきっかけに、自分の本当の親を知ることになります。そのある人物というのが、小夜子で、実は治雄と小夜子は恋仲にあり、出征前に結婚も約束していました。しかし、治雄が戦地に赴いている間に小夜子の妊娠が発覚。これをきっかけに、小夜子は治雄といとこであることを知ります。そして、小夜子は近親相姦で子供を身ごもったことを呪い、自殺してしまいます。
終戦後、治雄は妙海(小夜子の母親)から自殺の真相を聞き出し、自分達をこの世に産み落とした人間達への復讐を誓います。
天銀堂事件
天銀堂事件の真犯人は飯尾豊三郎に間違いありません。この飯尾を殺したのは三島に成りすました治雄で、匿名の手紙で英輔を告発したのも治雄です。治雄は飯尾が天銀堂事件の犯人であるという証拠を掴み、椿家の事件の共犯者にしていましたが、用済みになったため、飯尾を始末しました。
椿家の事件
椿英輔によく似ていた飯尾は英輔になりすまして、あえてその姿が目撃されるようにしていました。英輔の妻である秌子は、兄の利彦や伯父の玉虫公丸が英輔を見下していたのにならい、一緒になって英輔を無視していました。そんな事情があったため、英輔の姿を目撃して、夫の復讐を想像し、怯え始めることになります。
治雄が殺害を計画していたのは、父親である利彦、自分の母親である秌子と小夜子の母親である妙海でした。つまり、玉虫公丸の殺害は計画していませんでした。しかし、偶然の成り行きで、自分の正体を公丸に明かしたところ、公丸が殺意をみせたため、殺害しました。
結末
金田一が謎解きを始め、犯人を指摘する直前に、治雄が自ら名乗り出て真相を語ります。そして最後に、「悪魔が来りて笛を吹く」をフルートで演奏しますが、フルートに仕込んだ毒で、自殺します。
犯人とトリック
事件の犯人やトリックを簡単にまとめます。
項目 | 説明 | 補足 |
---|---|---|
犯人 | 河村治雄 | 死んだ三島東太郎を名乗って椿家に入り込む 玉虫公丸、新宮利彦、飯尾豊三郎、椿秌子を殺し自殺する |
共犯者 | 飯尾豊三郎 | 天銀堂事件の真犯人で治雄の共犯者 妙海を殺害するが用済みとなり治雄に殺される |
動機 | 出自 | 近親相姦で生まれた子供だったから |
トリック | そっくりさん | 顔が似た人物を使って死んだ人間が生きているようにみせる |
原作小説とドラマの違い
2018年放送のドラマは原作と大きく違う部分があります。それは、犯人の三島東太郎が自分の出生について全く何も知らない、という点です。
ドラマにおいて三島は、小夜子が駒子の暴行を隠蔽するために殺されたと考えています。その復讐のために、新宮利彦などを殺していきますが、真相を探ろうとはしていません。冷静に考えれば、利彦の暴行からしばらく経った後、口封じのために小夜子を殺すというのは違和感があります。そもそも、駒子の父親である植木屋から強請られていたはずなので、その時点で、殺しておけばよかったということになります。
また、東太郎自身の出生については知らないが、駒子の暴行については知っているなど、東太郎の動機について、経緯が詳しく語られていない部分が多いです。そのため、ドラマにおいては東太郎の動機が明確とはいえず、真相を探るために椿家に忍び込んだかもしれませんが、結果的には、関係していそうな人物を手あたり次第に殺すという猟奇的な殺人になっています。
原作の東太郎は自分の出生について知っています。それを知った上で英輔に近づき、自分が悪魔であることも話しています。つまり、英輔は東太郎が悪魔であることを知っており、その事実を確かめるために英輔は須磨へと足を運んでいます。そして、その後、椿家の不祥事を恥じて、自殺します。ドラマでは、東太郎の告白がないため、英輔が悪魔について知っていたのかどうかはあやふやになっています。
漫画原作でアニメ化やドラマ化もされている「金田一少年の事件簿」に、仇がわからないので、とりあえず関係者を殺していくというエピソードがあります。金田一少年は金田一耕助の孫という設定の人物で、金田一耕助シリーズのパスティーシュといえる作品です。金田一少年が金田一耕助の作品に似ているというのは、当然ながら、よくありますが、金田一少年が金田一耕助に似ているというは珍しいです。
ドラマでは、三島が真相を知った後、秌子を滅多刺しにして殺害し、銃殺されますが、これは原作にはありません。原作小説では、三島が秌子を毒殺し、その後、金田一による謎解きが始まります。そして、三島はフルートで「悪魔が来りて笛を吹く」を奏でながら、自殺します。指を失っている三島でしたが、彼でも演奏できるように、椿英輔によって作曲されていました。
ドラマの秌子は肉欲に飢えた婦人になっていましたが、原作では、新宮利彦がセクシャル・プレデター(性的捕食者)になっています。なお、原作では利彦が兄で秌子が妹です。利彦が駒子を暴行したのはドラマも原作も同じですが、原作では新宮利彦が秌子を暴行して、身ごもらせています。ドラマでは秌子が主導で、同意のもとに行為が行われたように描かれていました。そして、駒子の暴行に、秌子が直接関わっていたというのもドラマオリジナルです。
ロケ地
2018年放送のNHKドラマ(吉岡秀隆さん主演)で椿家として登場したお屋敷は、三重県桑名市にある六華苑です。六華苑はロケ地としても有名で、ドラマ「黒井戸殺し」や映画「#わたしの幸せな結婚」などでも使われています。
感想
謎の占いに停電が加わり、何かが起きそうな予感が溢れてくるわけですが、何も起きませんでした。依頼人の美禰子は、秌子とは違って不美人なのですが、ドラマの美禰子は美人でした。
みんなの感想
原作小説の口コミ調べてみると、おどろおどろしい、ドロドロの人間関係などが書き込まれていました。
「本陣殺人事件」「獄門島」に続いて読んだのですが、今作はちょっと毛色が違ったかな。派手な死体は出てこないし、トリックも非常にあっさり。代わりに人間関係がドロドロしていて、動機に重点が置かれている感じ。
真相があまり陰惨に思えなかったのは、現代っ子だらかかも。個人的にxxxxの禁忌性がピンとこなかった。
金田一シリーズにお馴染みの、田舎の因習や見立て殺人といった派手な舞台設定やトリックはないけれど、ドロドロとした人間関係、没落貴族、xxxxなどは金田一らしい要素だと思った。
はじめての横溝正史!最初、人の名前が覚えにくくて、読むのに時間かかったけど、面白くてどんどん読めた。こういう本は、途中でオチが読めてしまうこともあるけど、これは読めなかった。最後のシーンはなんかジーンときた。
吉岡秀隆版NHKドラマをみて、こんな終わりかただったかなぁ、と思って何十年かぶりの再読。細部はほとんど忘れていましたが、やっぱり結末はだいぶ改編されてました。でも、ドラマはドラマでよい描きかただったのではないかと、改めて思いました。
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