「可燃物」は米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)氏の短編集で、群馬県警の葛警部を主人公とする5つのミステリーが収録されています。この記事では各短編のあらすじと真相、考察、感想などをご紹介します。
項目 | 説明 |
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タイトル | 可燃物 |
評価 | |
著者 | 米澤穂信 |
出版社 | 文藝春秋 |
シリーズ | 1作目 |
発行日 | 2023年7月 |
Audible版 | あり |
崖の下
群馬県のスキー場でスキー客の四名が遭難する。うち男性二名はスキー場のコースから約三百メートル離れた崖の下で発見される。一人は意識不明の重体だったが、もう一人は首を刺され死んでいた。重体の男性が第一容疑者となるが、凶器らしきものは見つけることができなかった。
ネタバレ
凶器は骨でした。被害者に別の人物の血液が付着していましたが、これは、むき出しになった骨を凶器にしたからです。
重体となった人物(水野)は警察の事情聴取に対して「刺さった」と証言し、殺意を否定しています。その後、水野は回復することなく亡くなってしまいます。
ねむけ
深夜の交差点でワゴン車と軽自動車の交通事故が発生する。事故に巻き込まれたのは、老婆殺害の容疑者だった。聞き込みの結果、深夜の事故にも関わらず、四人の目撃者から有力な証言が得られる。いずれも証言に食い違う部分はなった。しかし、それが逆に奇妙だった。
ネタバレ
四人の目撃者は全員嘘をついていました。嘘をついた理由は、事故発生時、四人全員が居眠りをしていたからです。それぞれが怠慢の発覚を恐れて居眠りを隠そうとしていました。
嘘の証言が一致したのは、事故発生後に全員がコンビニに集まったからです。このとき、目撃者の一人が出鱈目を言い、これを他の三人が自分の証言にしました。結果、四人全員が全く同じ内容を証言することになります。
最終的に、事故に遭った老婆殺害の容疑者は逮捕されます。実は事故直後、容疑者は車の中に置いていた凶器を側溝に隠していました。
命の恩
山中で人間の右上腕部が発見される。その後、警察の捜査によって、バラバラにされた体の一部が次々と発見される。遺体の身元は特定され、亡くなったのは、あまり評判のよくない50代の男性だったことが判明する。その男性には、その昔、命を救った父子がいた。
ネタバレ
バラバラにされた男性は野末(のすえ)という名前で、野末には山で遭難していた宮田村(みやたむら)とその娘を救助した過去がありました。このことをきっかけに野末が宮田村をいいように扱い、殺人に発展したと考えられます。実際、宮田村は捕まり、殺人を認めます。
しかし、実際は野末の自殺でした。宮田村は野末の死体をバラバラにして殺人にみせ、金で困っている野末の一人息子に保険金を渡そうとしていました。警察が自殺に気付かなかったのは、腐敗し野生動物に喰われたからだけではなく、首が発見されなかったためです。首には首吊りの痕跡が残っていましたが、野末は首だけを切り取るようにして処分していました。
可燃物
ゴミ集積所にあった可燃物のゴミが放火される事件が頻発する。しかし、警察が捜査を始めると、犯行はピタリと止まってしまう。
ネタバレ
犯人のねらいは、警備員として働いているスーパーでの火事を防ぐことにありました。犯人は以前、ある倉庫の管理者でしたが、その倉庫が火災に遭ってしまい大事件となってしまいます。火の恐ろしさを知っていた犯人はスーパーの回収ボックスが気になってしょうがなかったようです。
放火が止まったのは、店の外に出しっぱなしだった回収ボックスが店内に仕舞われるようになったからです。警察の捜査が始まったからではなく、犯人が目的を達成したからでした。
本物か
ファミリーレストランで立て籠もり事件が発生。しかし店内の状況を詳細に把握することはできなかった。警察は店から逃げてきた客やスタッフに聴取するが、証言には矛盾が目立った。
ネタバレ
人質と思われていた人物が真犯人で、犯人と思われた人物が被害者でした。被害者は真犯人に息子を人質にとられて脅され、犯人を演じていました。
感想
2023年度の「このミステリーがすごい」「ミステリーが読みたい」「週刊文春ミステリーランキング」で1位に輝いた作品で、ミステリー三冠を達成しています。大傑作かというとそうではないかもしれない、というのが素直な感想ですが、面白いことは間違いないです。期待が高まってしまうと、ちょっと評価が下がるかもしれません。
考察
真相から遠ざけるために、いろいろな情報が散りばめられていた印象でした。例えば「ねむけ」を例に挙げると、尾行していた刑事の失態、工事用信号などです。物語の流れ上、余計な部分に思えるので、ねじ込まれた伏線だと勘違いしていまいます。事実、真相とはほぼ関係ありませんでした。
みんなの感想
読者のレビューをAIで1枚の画像にまとめました。
とりあえず、いつも菓子パンとカフェオレだけじゃ、心配です(気になります!)。
派手さはないけれど、僅かな違和感を見逃さず丁寧に調べあげて推理し、論理的に解決していくという印象です。
青春学生物(古典部シリーズ)、時代物(黒牢城)、ハイファンタジー(折れた竜骨)などなど、引出しの多い米澤穂信さんですが、警察モノは初とのこと。新シリーズとあるので、今後が楽しみです。
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