金田一耕助シリーズ『不死蝶』のあらすじ、真相、感想などをご紹介します。原作は横溝正史氏の推理小説で、古谷一行さん主演のドラマは1988年に放送されました。
あらすじ
金田一は矢部杢衛(もくえい)という人物から調査依頼の手紙を受け取り、射水町へ向かう汽車に乗っていた。杢衛の依頼はある人物の調査で、手紙に詳しいことは書かれていなかった。大した興味をひかれなかった金田一だが、杢衛の手紙を受け取った翌日に「射水に来てはならぬ 生命が惜しいと思ったら射水の町に近寄るな」という手紙を受け取り、調査に乗り出す。
射水町には矢部家と玉造家という名家があり、互いに反目し合っていた。二十三年前には、矢部家の長男と駆け落ちしようとした玉造家の娘が矢部家の次男を殺していた。娘の名前は朋子といい、底なし井戸へ身を投げ、自殺を図った。遺書らしきものはみつかったものの、遺骸は確認されていないという。
杢衛が金田一に調査を依頼したのは、鮎川君江という朋子らしき人物が町に現れたからだった。杢衛は君江が朋子であると信じて疑わず、息子の仇だと断言する。鮎川主催のパーティに金田一を連れていき、その正体を確かめる魂胆だった。
君江の娘である鮎川マリはたいへん裕福なコーヒー王の養子で、脅迫状が届くも、予定通り、町でパーティを開催する。お偉方が招待されたパーティは滞りなく進んでいたが、マリの母親・君江が姿をみせず、杢衛は苛立つ。なかなか姿をみせない君江だったが、なぜか町にある鍾乳洞でその姿が目撃され、杢衛はマリや金田一らを連れて鍾乳洞へと向かう。そしてついに黒衣の君江が現れる。杢衛は一人で君江を追い、鍾乳洞の奥へ進んだのだが、直後に、死体となって発見されてしまう。
登場人物・キャスト
主な登場人物とキャストをまとめます。
名前 | キャスト | 説明 |
---|---|---|
金田一耕助 | 古谷一行 | 私立探偵 |
矢部杢衛 | 内田朝雄 | 矢部家当主。依頼人 |
矢部慎一郎 | 清川新吾 | 杢衛の長男 |
矢部峯子 | 宮下順子 | 慎一郎の妻 |
矢部都 | 佐倉しおり | 慎一郎の娘 |
古林徹三 | 勝部演之 | 矢部家の遠縁 |
宮田文蔵 | 神山繁 | 矢部家の番頭 |
玉造乙奈 | 不忍鏡子 | 玉造家当主。御婆様 |
玉造康雄 | 大野正敏 | 乙奈の孫。矢部都と恋仲 |
玉造由紀子 | 宿利千春 | 乙奈の孫。康雄の妹 |
鮎川マリ | 有森也実 | コーヒー王の養子 |
鮎川君江 | – | マリの母親 |
河野朝子 | 川島美津子 | マリの家庭教師 |
カンポ | ウガンダ・トラ | 用心棒 |
神崎 | 矢崎滋 | 警部 |
(名なし) | 藤木悠 | 汽車の客 |
矢部英二 | 野村昇史 | 故人。杢衛の次男 |
玉造朋子 | – | 自殺したとされる |
事件概要
二十三年前に、矢部家の次男が鍾乳洞で殺されています。死体の心臓に尖った鍾乳石が刺さっており、手には玉造朋子の着物の切れ端が握られていました。朋子は矢部家の長男・慎一郎と駆け落ちしようとしており、このことに気付いた杢衛が慎一郎を隔離し、次男の英二に朋子を追わせたところ、殺人事件が発生してしまいます。
犯人と思しき朋子は遺書を残して底なしの井戸で自殺したと考えれていますが、死体をみた者はおらず、さらに、遺書の文面も謎めいていました。遺書には「あたしはいきます。でも、いつかかえってきます。蝶が死んでも、翌年また、美しくよみがえってくるように」と書かれていたようで、遺書らしくありません。
鮎川君江とマリが町に現れ、今度は矢部杢衛が殺されてしまいます。次男の英二と同様に鍾乳洞で胸を刺されており、凶器は鍾乳石でした。杢衛の死体が発見される直前、鍾乳洞にいた金田一が杢衛の声を耳にしています。杢衛が鮎川君江を追って鍾乳洞の奥へ進んでいたことなどから、君江に疑いがかかりますが、君江は姿を消してしまいます。
杢衛殺害の後、玉造康雄と矢部都の駆け落ち騒動が起き、都の母親である矢部峯子に反対されつつも、二人は町を後にします。すると今度は、金田一が汽車の中で知り合った古林徹三の死体が発見されます。古林の胸には鍾乳石が刺さっており、英二や杢衛の事件と共通点があるようでした。
謎
古林の死体が発見されるまでの段階における謎をまとめると、次のようになります。
- 鮎川君江の行方
- 金田一および鮎川マリに脅迫状を送った人物は誰か
- 君江と朋子は同一人物なのか。別人の場合、朋子は本当に死んでしまったのか
- 金田一達が鍾乳洞で君江を探しているときに目撃された人物の正体
- 二十三年前の事件の真相。矢部英二を殺したのは、本当に朋子かどうか
- 杢衛と古林が殺された理由
ネタバレ
鮎川君江は確かに玉造朋子ですが、既に病死しています。射水町に現れた君江は、娘のマリと河野朝子の変装です。君江が生きているようにみせていたのは、23年前の事件をもう一度調査するためです。娘のマリは、母の無実を信じており、汚名を晴らそうとしていました。
英二殺害の犯人として自殺したと噂されていた朋子ですが、神父に助けられ、生き延びていました。当時、朋子は慎一郎の子供を授かっており、ブラジルに渡って出産しています。その子供がマリで、マリは慎一郎の実の娘でした。朋子は献身的に働いてコーヒー王にプロポーズされますが、病死してしまいます。
朋子が23年前に起きた英二殺害事件の犯人だと考えられていましたが、真犯人は古林と峯子です。二人は男と女の関係でしたが、慎一郎や朋子と同じく、許されない恋でした。事件が起きた日、古林と峯子は鍾乳洞で逢い引きをしており、そこに朋子を探していた英二が姿をみせます。いけない現場をみられた二人は英二を殺害し、着物の切れ端を使って朋子の犯行に偽装しました。古林の姿が鍾乳洞の入口で目撃されなかったのは、最近みつかったと考えられていた入口を使ったからです。二人は、昔からその入口を知っており、逢い引きに利用していました。
杢衛殺害の犯人も古林と峯子です。23年の月日が経ち、二人は再び鍾乳洞で会っていました。金田一達がみたのは実は古林で、このとき杢衛だけは、その正体に気付いていました。古林達は追ってきた杢衛にみられてしまったため、鍾乳石を凶器にして犯行に及んでいます。つまり、杢衛の声は古林と峯子をとがめるために、発せられていたということになります。
殺人犯の古林と峯子は宮田文蔵(峯子の兄)によって殺害されます。最後、宮田が遺書を残して首吊り自殺し、事件は幕を閉じます。宮田が古林を殺したのは実行犯だった峯子を脅していたからで、峯子殺害の動機は都子の母親が人殺しであるという事実を隠すためでした。
トリック
事件の犯人や動機、トリックを簡単にまとめます。この事件には共犯関係にある二人の犯人と、犯人を殺害して自殺した人物が登場します。
- 犯人:矢部峯子と古林徹三
男女関係だったが許されない仲だったため、密かに関係を続けていた。 - 動機:口封じ
二人でいるところを現場を目撃され、口封じのために犯行に及ぶ。 - トリック:偽の証拠
二十三年前に起きた鍾乳洞の事件は、着物の切れ端という偽の証拠を被害者に握らせて罪をなすりつけている。同じく鍾乳洞で起きた矢部杢衛殺害も別の人物が容疑者になっているが、これは、変装トリックを仕掛けた人物がいたことや犯人達が鍾乳洞で会っていたことなど、偶然が重なった結果といえる。
- 犯人:宮田文蔵
遺書に自分が杢衛、古林、峯子殺害の犯人であると記して首を吊る。実際のところ、杢衛は殺しておらず、遺書に書かれていた杢衛殺しの動機、すなわち事業の乗っ取りは嘘である。 - 動機:
姪の都子を殺人犯の娘にしないため、殺人を犯し、自殺する。
感想
等々力警部は登場していないですが、代わりに登場した神崎警部が面白かったです。
原作は横溝正史氏の小説「不死蝶」です。原作とドラマは概ね同じですが、細かな部分で違いがあります。結末でマリが金田一をブラジルに誘いますが、これは原作にはありません。
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