森博嗣氏のデビュー作『すべてがFになる』について、あらすじ、相関図、ネタバレ解説と考察、みんなの感想などをまとめています。“すべF”は、第1回メフィスト賞(1996年)を受賞した作品で、ゲーム、漫画、ドラマ、アニメなど、様々なメディアで映像化されています。ミステリーのジャンルは、孤島のクローズド・サークルもの、に分類され、当該ジャンルの代表作といえる作品です。
項目 | 説明 |
---|---|
タイトル | すべてがFになる |
著者 | 森博嗣 |
出版社 | 講談社 |
シリーズ | S&Mシリーズ 1作目 |
読む順番 | S&Mシリーズ読む順番 |
発行日 | 1996/4/5 |
Audible版 | あり |
あらすじ
妃真加島(ひまかじま)と呼ばれる孤島のハイテク研究所で、少女時代から完全に隔離された生活を送る天才工学博士の真賀田四季(まがた・しき)。 彼女の部屋からウエディング・ドレスをまとい両手両足を切断された死体が現れた。 偶然、島を訪れていたN大助教授の犀川創平(さいかわ・そうへい)と学生の西之園萌絵(にしのその・もえ)が、この不可思議な密室殺人に挑む。
講談社
事件概要
四季博士の部屋は、完全に隔離されています。その部屋から両手両足のない死体がルンバみたいな機械にのって現れます。このシーンが作品のハイライトです。部屋には四季博士以外には誰もいないはずなので、死体が自分で手や足を切断し、さらに、P1ロボット(ルンバみたいなロボット)に搭乗し登場したということになります。この点が、不可思議な密室ということです。余談ですが、妃真加島は架空の島です。日間賀島という島が実在しますが、モデルになったのは愛知県の佐久島といわれています。
登場人物
主要登場人物は15名です。レギュラーとなるのは犀川、萌絵、国枝先生です。浜中も友情出演レベルで登場します。被害者となるのは、四季博士、新藤、山根の三名です。シリーズ名称のS&Mは、主人公の犀川と萌絵のイニシャルが由来です。
- 犀川創平:建築学科助教授
- 西之園萌絵:大学生
- 浜中深志:大学院生
- 儀同世津子:犀川の〇〇
- 国枝桃子:建築学科助教授
- 真賀田四季:天才
- 真賀田未来:四季の妹
- 新藤清二:研究所所長
- 新藤裕見子:清二の妻
- 山根幸宏:副所長
- 弓永富彦:医師
- 水谷主税:研究員
- 島田文子:研究員
- 長谷部聡:警備員
- 望月俊樹:警備員
- 西之園捷輔:愛知県警本部長
相関図
主要登場人物の相関図をまとめました。
紹介動画
ネタバレ
簡単簡潔にネタバレすると、ウエディング・ドレスをまとって現れた死体は真賀田四季ではありません。死体の正体は四季の娘です。四季は新藤清二の子供を身ごもっており、隔離された部屋の中で娘を出産しました。つまり、四季以外には誰もいないと思われていた部屋には、もう一人、女性がいたということになります。これが密室殺人のトリックです。四季の娘を殺した犯人は真賀田四季で、動機は四季の娘が母親である四季を殺すはずだったのに、それを実行しなかったためです。
タイトルの意味
すべてがFになる、というタイトルの意味は現代風にいうとカンスト*1するに言い換えることができます。四季博士は、コンピューターをカンストさせてバグらせ、その隙に、隔離された部屋から脱出しました。タイトルと同じフレーズが作中にも登場し、博士は「すべてがFになる」というメッセージをあえて残すことで登場人物達をおちょくっています。
感想
私も一応、理系人間で、大学でも仕事でも、UNIX的なものを使っていたことがあります。なぜ使うことになったかというと「すべてがFになる」を読んだから、かもしれません。とはいえ、情報系学部ではなかったので、ちょっとニッチな感じの分野で、UNIX的なことをしていました。金八先生を見て先生になったり、あぶない刑事を見て警察官になったりするのと同じです。当時、この本を読んだ私は『理系なのに内容がチンプンカンプンではないか』ということに気付き、中身を伴わない人物であることを痛感したりもしました。こんな風に書くと、今は立派な人間になっているように誤解されがちですが、OK、いたって普通です。
好きなキャラ
森作品の中で好きな登場人物は?と尋ねられたら、私は森川君(S&Mシリーズ続編Vシリーズの登場人物)と答えるようにしています。素直と書いて素直です。あまり出番はありません。私個人の見解は置いておいて、好きなキャラランキングで一位になりそうなのは、国枝先生あたりではないかと思います。なかなか登場しますし、キャラが抜群に面白いです。犀川も多そうですが、萌絵と四季は、どうでしょう、ちょっと少ない気がします。金持ち美人で天才はちょっと遠慮したくなる気がします。
国枝先生
四季博士が島から脱出する際、国枝先生はどうみても女性にみえない、というトリックが使われます。四季博士が国枝という特徴的な人物の来島を予期していたかどうかは深く考えないとしても、これにはとても驚きました。事件後、船で島を後にした人物の中に、女性が二名いたという目撃証言があり、話の流れの中でそれは、国枝と犀川研の女性留学生であることが読者にはわかります。しかし、証言者は国枝のことをよく知らない人物なので、国枝が女性であると思うはずはありません。つまり、もう一人、女性らしい女性がいたことになります。それが四季博士でした。これはあれです、もの凄い盛って超美人になってる女の人に通ずるところのあるトリックだと思います。
レクター博士
四季博士ってハンニンバル・レクター博士に似ていない?と、時折おもったりもします。「羊たちの沈黙」に登場する天才博士(人喰い殺人鬼)もクラリスというFBI捜査官を手に平でコロコロ転がしていろいろ愉しんでいます。キャラよりも似ていると思うのは、小説の展開です。隔離された博士との会話シーン、脱出劇など、似た要素があります。隔離された天才は、もしかすると、密室や連続殺人のように、一つのジャンルを形成しつつあるのかもしれません。
考察
真賀田四季は時間と空間の概念もたない存在である、というのが私の認識です。過去のことは忘れないし、未来のことは確実に予想できるため、今がなく、時間を意識することもないということです。場所についても同じように予想できるため、ここがどこかであるかは何も影響しない、というのが四季博士です。天才と聞くと、私なんかは『一年後の東京の天気を当てて下さい』と言いたくなるわけですが、そういうところが、凡人たる所以です。
最後
小説の最後、四季博士が犀川の目の前に現れ、警察に捕まったふりをします。この理由は、(1)犀川による通報を遅らせた、(2)犀川の反応をみていた、(3)本物の警察だった、などが考えられます。あの状況でたとえ通報されても警察官風の人達が助けたであろうと想像できるため、通報に関してはしっくりこない気がします。なので、論理的な理由ではなく、もっと子供っぽい無邪気な動機であるような気がします。それが(2)の理由になります。犀川は四季が興味を抱く数少ない人物なので、予想外の展開を期待していたのか、それとも、予想通りであることを確かめる必要があったのか、わかりませんが、いずれにしても犀川と接触するのが、四季の一つの楽しみだったと考えられます。
(3)の本物の警察だったというのは、つまり、警察が四季を擁護しているということです。これは、島での殺人事件を捜査する警察関係者とは別の目的で動いている警察の人間がいるということになります。すぐに思い浮かぶのは公安ですが、それらしい証拠はありません。
映画化
話変わって、映画化についてです。ゲーム、アニメ、漫画、ドラマでビジュアル化されていますので、残るは映画です。ファンとしては、ブームがきて、VとかGとかも映像化してほしいです。しかし、そのようなニュースは一切目にしないというのが現状です。
みんなの感想
口コミを調べてみると『初めて』や『難しい』『天才』『F』という言葉がよく書き込まれていました。
初めて
この作品は、著者のシリーズ作品の第一作目であり、デビュー作*1なおかつ代表作でもあるため『森作品の中で初めて読んだ作品』というレビューを残している方が多いです。このシリーズにはまると、Vシリーズ、四季シリーズ、Gシリーズ、Xシリーズ、Wシリーズ、WWシリーズ…と読みたくなる作品が一気に増えます。そして今もまだ完結せず、シリーズは続いています。
*1:森博嗣氏が最初に書いた小説はシリーズ2作目の「冷たい密室と博士たち」です
初めて森博嗣さんの小説を読んだ。ミステリーとしての完成度が高く、残り100ページくらいから結末が気になって一気に読んでしまった。アカデミックな視点や登場人物のやり取りから見える死生観や哲学が他の小説とはひと味違う面白さを出していた。
森博嗣さん初めて読んで、早速好きになった。まさに理系ミステリ。話の流れも、謎も、実在する論理も、面白い。シリーズを読み進めていこうと思う。
初めて森博嗣作品を読んだ。理系小説でミステリィということで、作中の人物は文系の私とは思考回路が随分違うなと思った。かなり理系よりで、私からしたら難解な箇所も何個かあった。
難しい
森博嗣作品の感想で多いのは難しいという言葉です。理系の専門用語はもちろんですが、登場人物達の厭世観漂う空気感の中でスタンドアローンしているような思想も理系っぽくて難解です。専門用語については、今後、センター試験に情報の科目が追加されるため、理解できる読者は増えそうな予感がします。小説を読む人=文系というイメージですが、森博嗣氏の作品は理系の読者も多い印象です。
いちおう、IT系職種の私としては小難しい単語も聞き馴染みがあった。プログラムとかに全く縁のない読者にとってはどうなのだろうか? 細部を理解するのが難しいであろうプログラムの説明とか…。くわしく理解しなくても物語を楽しむことに支障はないし、プログラミングにたしなみがあっても、陳腐な感じではないだろう。
や、難しかったですねー。数字の謎解きはチンプンカンプンでしたが、冒頭のウエディングドレスをまとった死体が行進してくるセンセーショナルな場面は凄まじく、グッと引き込まれました。
天才
天才という言葉もよく登場します。森作品は登場人物がだいたい天才です。その頂点が真賀田四季博士で、彼女のことを天才と呼ぶ犀川はもちろん、島田も実はかなりの天才です。そもそも、真賀田研究所で働いているということがかなりの人物であること意味しています。萌絵も国枝先生も同じく天才ですが、それぞれキャラが違います。
孤島の研究所で発見された天才プログラマーの奇妙な死体。その謎に挑む天才大学助教授と天才大学生。ここまで説得力を持って「天才」を描ける森博嗣先生も間違いなく天才だよな…と凡人らしい感想を抱いてしまった。
F
タイトルに含まれるFという単語は、作品の謎の一つとなっています。理系読者の中には、すべてFという言葉から16進数を思い浮かべる方もいるようです。10進数256を16進数に変化すると値はいくつになるか、というような問題を解いたことのある方はピンとくるのかもしれません。(答えは100)
基本もよくわからないままPCを使っている文系人間には、タイトルのFの意味するところをはじめ、それでも目から鱗が何枚か落ちた。
すべてがFになった時、事件は起こる。タイトルと理系ミステリーというふれこみから、直感が働いて、なんとなく想像できた。
まとめ
森博嗣著「すべてがFになる」について、あらすじ、ネタバレ、みんなの感想、考察などをまとめました。国立大学の元助教授(現在は准教授という名称です)によって書かれたこの作品は理系ミステリィと呼ばれ、ゲーム化(2002年)、漫画化(2002年、2015年)、ドラマ化(2014年)、アニメ化(2015年)もされています。2015年における発行部数は約80万部といわれており、ベストセラー小説といえます。
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