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ぎんなみ商店街の事件簿|あらすじ・ネタバレ解説・感想

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 「ぎんなみ商店街の事件簿」は井上真偽(いのうえ・まぎ)氏の推理小説で、Sister編とBrother編に分かれています。どちらも三つのエピソードが収録されており、それぞれ同じ事件が描かれていますが、主人公は異なります。この記事では、両方を合わせたあらすじと真相、読んだ感想などを紹介しています。

項目 説明
タイトル ぎんなみ商店街の事件簿
評価 4.1
著者 井上真偽
出版社 小学館
シリーズ 単発
発行日 2023年9月
Audible版 なし
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Brother編とSister編

片方だけでは、やや満足できない内容になっておりますので、両方とも読むことになると思います。各話ごとの「往復読み」という読み方が紹介されており、この読み方がオススメです。

読む順番

読む順番で事件の印象が変わるかもしれません。正解はないと思いますが、私はすべてBrother編→Sister編の順番に読みました。特に後悔はしていないですが、Sisterを先に読んだらどうだったかというのは、もう絶対にわからないミステリーになっています。

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第一話

 銀波坂の中腹にある袴田商店に自動車が突っ込むという事件が発生する。自動車は不動産会社の営業車で、事故により運転手の男性が死亡してしまう。死因は運転中に食べていた焼き鳥の串が喉に刺さったためだった。事故当時、袴田加代子は外出中で、店主である夫は商店の奥にいたため、袴田夫妻はどちらも無事だった。

 事故には目撃者がいた。小暮家四兄弟の末っ子・小暮良太(こぐれ・りょうた)という少年がその目撃者で、良太は事故直後に助手席から降りてきた人物がいたと話す。そんな話を聞いた他の小暮兄弟は銀波坂の幽霊話を思い浮かべたりする。

 死んだ男性は事故の直前まで、同僚である内山佐々美(うちやま・ささみ)と一緒だったが、佐々美は車には乗っていなかった。その後、佐々美は死んだ同僚が仕事中に焼き鳥を食べながら営業に向かっていたことを知り、違和感を抱く。

交通事故の真相

 事故は運転手の男性と袴田商店の店主によって、意図的に起こされたものです。二人は保険金を手に入れるために共謀して事故を起こしました。運転手は運悪く死んでしまいますが、本来は事故を起こして金を手に入れることが目的でした。

 良太が助手席付近で人影を目撃したというのは嘘です。彼は加代子が原因で事故が起きたと勘違いしており、袴田加代子をかばうために嘘をついていました。実は事故を起こした営業車は事故の直前に加代子が運転するバイクとすれ違っていました。このとき、加代子は良太に気を取られていたため、車線をはみ出して運転していました。一部始終を目撃していた良太には、営業車が加代子を避けたために事故を起こしたようにみえたということになります。なお、認知症の気配がある加代子自身は事故に気付いていません。

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第二話

 中学校の美術準備室に保管された生徒の作品が、何者かによって破壊されるという事件が起きる。壊されたのは長谷川詩織(はせがわ・しお)の作品で、そばには串で“井”の文字がつくられていた。“井”つく人物が犯人のようにみえるメッセージだが、容疑者の生徒は井角あいみ(いすみ・あいみ)、井戸木生真子(いどき・きまこ)、井手走華(いで・そうか)という名前で、全員に“井”がついていた。また、教員であるマイカ先生の本名も主井サニタリー(しゅい・さにたりー)だった。

 商店街の重鎮的存在である神山(かみやま)に斡旋され、山内三姉妹はマイカ先生から事件について相談されることになる。一方、小暮四兄弟は三男の学太から事件を知ることになる。“井”の文字こそ入っていないが、学太もまた容疑者の一人だった。

ダイイングメッセージ

 長谷川詩織の作品を壊したのは井手走華です。そして“井”の文字を残したのは詩織です。詩織は井戸木と準備室に出入りした後、ひとりで戻ってきて犯行を目撃しました。このとき、天井から吊るされた特大の画仙紙が原因で、詩織は誰にも目撃されませんでした。

 詩織が匿名で告発したのは、犯人の走華が相当な恨みを持っていると感じたためです。そもそも詩織は縦書きで“井手”という文字を残すつもりでしたが、上下逆さにすると“主井”と読めることに気付き、“手”の部分を取り除きました。漢字ではなく“イデ”という読みの方で串文字を作れば問題はありませんが、詩織は走華とほぼ面識がなかったため、井手という漢字しか知らず、読み方は把握していませんでした。

 井手走華が犯行に及んだのは、井手の母親の再婚相手、つまり走華の父親にあります。この父親はDV男で、かつて長谷川詩織の母親の彼氏でもありました。走華は父親に詩織の作品を壊すように命令されており、さらに、詩織にDV男を押し付けられたように感じたため、犯行に至りました。

第三話

 山内姉妹と小暮兄弟は、偶然、グルメ本から文字を切り抜いて作られた脅迫状らしきものを発見する。文面は「取引だ 八月十日 午前二時 天神橋 下の ボートに 三百万 を乗せろ 代わりに 橋上の 看板 裏に さらった 女 を置く」だった。

 小暮兄弟は長男である元太が誘拐に関わっていると考え、元太の行方を追う。確かに、クェンという外国人女性が行方不明になっており、クェンは料理人である元太の店で働いていた。店のオーナーである山根という女性によれば、元太はミステリーグルメツアーに参加しているとのことだった。元太の弟達は、ツアーに参加しているらしいスカーフの女の姿を追って、ようやくツアー客に追いつくのだが、そこに、元太の姿はなかった。

 一方、山内姉妹と友人は長姉の佐々美を探していた。佐々美は飛び入りでグルメツアーに参加したらしいのだが、それは、もしかすると誘拐かもしれなかった。途中で脅迫状をみつけ、グルメ本が本好文夏(もとよし・ふみか)の営む本好書店で売られていたことに気付く。グルメツアーと脅迫状のつながりはいまいち曖昧だったが、調べているうちに、最近、本好書店で窃盗事件が起きたことを知る。どうやら、グルメ本を含む多くの売り物が窃盗グループによって盗まれてしまったようだった。その直後、姉妹達がトラックにひかれそうになり、“事件から手を引け、さもなくば殺す”といった内容のメモを受け取ることになる。

脅迫状の真相

 脅迫状は「取引だ 八月十日 午前二時 天神橋 下の ボートに <さらった 女> を乗せろ 代わりに 橋上の 看板 裏に <三百万> を置く」というのが正しく、要求されていたのは金ではなく女の方でした。女というのは失踪したクェンのことです。

 元太は犯罪グループに捕らわれたクェンを救い出しましたが、これが原因で、犯罪グループから脅迫状を受け取ることになります。クェンはベトナム犯罪グループの一員で、足を洗おうとしていましたがうまくいかず、元太に相談していました。この事件には黒幕がおり、それがオーナーの山根で彼女は神山の娘でした。

 山内姉妹達がトラックにひかれそうになったり、脅迫めいたメモを受け取ったりしたのは、本好書店の保険金詐欺に近づきつつあったためです。書店の店主である本好文夏は窃盗グループと手を組んで窃盗事件を起こし、盗難保険の保険金を手に入れようとしていました。なお、グルメツアーが誘拐の隠れ蓑ということは全くなく、山内佐々美は何事もなかったかのように帰宅します。

感想

パラレルミステリということで、多重解決とはまた違ったミステリーだったと思います。多重解決は一つの真実に対していくつかの解釈が語られますが、こちらは、二つの視点から一つの真実を組み上げていくような物語になっていました。特に第二話は両方読まないと真相がわからなくなっています。

個人的には、一話が面白かったです。保険金目当てという動機がなくても事故は起きていたかもしれないし、逆にわき見運転がなくても事故は起きていたかもしれないので、両方のエピソードを読むとパラレルワールドをイメージしやすくなります。

なぜ二冊?

一冊にまとめて欲しいという感想もあると思いますし、私もそう思ったりしましたが、500ページ一冊よりも、250ページ2冊の方が費用はかさみそうです。自費出版で調べたところ、2冊に分けるよりも、ページ数を増やした方が割安になりそうでした。コストをかけて2冊にしたとなると、やはり“往復読み”という読書体験や、どちらから読むかで悩んだりすることが、売りなのかもしれないと思います。あまり“往復読み”は強調されていないですので、どちらから読んだで変わる印象みたいのが、この本の仕掛けなのかもしれません。

まとめ

3.0
 「ぎんなみ商店街の事件簿」について、あらすじや真相などをまとめました。同じ事件をSister編とBrother編に分けて、違った主人公の視点で目撃するという趣向の作品になっています。

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